下風呂温泉「海峡の湯」で生命力を実感 イカ、アンコウ食べて「うめえ〜」

 下北半島北端の風間浦村・下風呂温泉に行ってきました。6年ぶりです。全国各地を回って温泉を楽しんできましたが、下風呂温泉は2番目に大好きな泉質です。1番目はどこかって?そりゃもう恐山境内の温泉。30秒も我慢できない激熱に浸かると心臓はバクバク。強酸と硫黄が全身に沁み込みます。下風呂も恐山と同様に激熱と温めの硫黄泉を楽しめるのですが、この世とあの世を彷徨う霊場・恐山の迫力に勝るものはないでしょう。でも、下風呂には目の前の海峡から獲れる魚介類があります。うまい!、すごくうまい!。さすがの恐山も叶いません。

「大湯」「新湯」の泉質に魅了

 下風呂温泉を初めて訪れたのはもう20年ぐらい前でしょうか。当時は「大湯」と「新湯」の2つの共同浴場があり、大湯は激熱と温め。新湯は温めで優しい泉質。NHKの新日本風土記「お風呂の旅」でも紹介されていましたが、毎日通う漁師さんや村民のみなさんは「大湯派」「新湯派」と好みが分かれています。

 私は「大湯派」。お風呂場には2つの浴槽があり、ひとつは「ウッ〜」と声も出ないほど熱い湯。最初はつま先から入れても、熱過ぎて足首まで入りません。何度か繰り返してやっと肩まで浸かりましたが、20〜30秒が限度。体中が真っ赤になっていると勘違いするほど燃えた体のまま、もう一つの温めの浴槽に移ります。この落差が極楽。

 これほど熱い温度を守っているのは、漁師さんが多いからだそうです。風間浦村はイカやアンコウ、ウニなど豊富な魚介類に恵まれた漁港です。海上で漁を終えた漁師さんは体が冷え切っています。漁師さんが疲れを癒すためには、大湯の激熱がちょうど良いそうです。温めの浴槽に入っている時、激熱の浴槽で気持ちよさそうに目を瞑っている男性を見かけると、尊敬してしまいますよ。

 しかし、観光地としての知名度は低い。友人から「全国でどこの温泉が最もお勧め?」と訊ねられたら、「下風呂温泉!!!」とかならず答えますが、ほとんどの反応は「???」。

 もったいない、その魅力は温泉だけじゃないのに・・・。まず、イカがうまい。イカが名産の函館育ちですが、風間浦村で久しぶりに透明なイカを見た時はうれしくなりました。透き通ったイカのコリコリとした歯応えを楽しんだ後、スッと溶けるような食感が訪れます。ノドが鳴りますよ。冬はアンコウ。アンコウといえば「あん肝」が有名ですが、なんといっても「とも合え」が最高。茹でた白身に肝、味噌を和えた逸品です。日本酒を何杯も飲めます。

2020年12月に新施設が完成

 その下風呂温泉に2020年12月、「下風呂温泉 海峡の湯」が開場しました。「大湯」「新湯」の共同浴場は店仕舞いして、一緒になったのです。ご心配なく、泉質は健在、そのまま。お風呂場には「大湯」と「新湯」から引いた温泉がヒバ造りの浴槽に満たされていました。

 まずは「大湯」の激熱から。「アツっ!」。久しぶりのせいか、熱く感じますが、下風呂を訪れる2時間前に入った恐山の激熱湯に比べたら楽勝?。30秒は浴槽でジッとできます。ちょっと我慢できなくなったら、「新湯」へ。優しいお湯に心身が洗われます。「ア〜〜〜」と腹の底から声が湧き出てきて「生きている」を実感します。

 運良く車中泊できる場所を見つけたので、下風呂温泉に1泊することにしました。夕方、「海峡の湯」そばに2軒ある居酒屋のうち直感で選んだお店に入りました。お店のドアを開けたら、女将さんが1人座っており、こちらの顔を見るなりビックリ。「今朝までバイクツーリングのフェスティバルが開催されていたので、昨日からずっと大忙し。今夜はのんびりできると思っていたのに・・・」と苦笑します。

 酒のあてはもちろん、イカとアンコウのとも和えがお目当て。カウンター越しにぶら下がる料理の札を見たら、「とも和え」は発見。即注文。イカが見当たらないので、「やっぱり不漁だから、ダメ?」と聞いたら「良いものがないので諦めて」と言われました。

 まずはビールから。タコの唐揚げ、とも和えを食べ、「この店は当たり!」と一人悦に入ります。次は日本酒。品揃えを見たら、青森・弘前の銘酒「豊盃」があります。全国で高い人気を集めているので、最近は「豊盃」を飲んでいません。

 女将さんは「まだ封を切っていないけど、飲むなら開けるよ」と言います。明日、運転しなければドカンと飲みますが、翌朝は下北を下って青森市へ直行します。「そんなに飲めないけど、それでも良い?」と確認したら、「そんなこと気にするな」と女将さんは一喝し、一升瓶の封を切ります。漁師町の女将さんはさすがです。

 若干酩酊して、つい「泉質が大好きなこともあるけど、以前に来た時に食べたイカが忘らなくてまた来たんだ」と漏らしたら、女将さんは「自分たちの分として残していたイカを出してやるよ」と言います。「大丈夫、我慢するよ」と断りましたが、すでに冷蔵庫からイカ刺しの塊を取り出していました。さすがに透明ではありませんが、逆に熟成しているので味が濃い。「やっぱり、うめえなあ〜」を連発していたら、「豊盃」をコップに注ぐ手が止まらなくなりました。

 翌朝、きれいな日の出を見た後、「海峡の湯」へ向かいます。アルコールが抜けるまで「大湯」「新湯」を繰り返しながら、大きなガラス窓から見える津軽海峡を眺め、下風呂温泉に「また来よう」と決めました。

水上勉は「東京でも波音が聞こえる」

 風呂上がり、海峡の湯の2階に上り、下風呂温泉と縁が深い作家の井上靖、水上勉の展示品を拝見しました。水上勉は「飢餓海峡」を執筆する最適な土地と考え、10年間も下風呂温泉に通ったそうです。「東京の自宅で眠っていても、風間の浦の波音は聞こえてくる」と1982年に発行した紀行文「わが山河巡礼 下北風間浦」で書いています。

 その気持ちわかるなあ〜

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