
シニアライター釜島辺の「求職セミナー体験記」(2)「職探し」から「自分探し」へ
職安訪問の第2回目を迎えた。目指すは相談窓口だ。初めて職安を訪ねた前回、「求職について気軽に相談できますよ」と聞いていた窓口だ。順番待ち機械のボタンを押すと、待機人数がゼロだったので、早くもカウンターの向こうで女性相談員が「ここですよ」と手を挙げている。着席するや開口一番、「初めてなので、イメージがなかなか沸かなくて」と告げた。
相談員は笑顔でうなずいてくださる。それを「いいのですよ」という歓迎のサインと受け止めて、ひと安心。だが、適当な質問が浮かばない。言葉を探しあぐねていると、「壁に求人のシートがいろいろ掛かっていますから、それをチェックしていただくのもいいですし、ここの端末で検索して、さらに内容を確認されたい時は聞いてくださってもいいですよ」といたわりの言葉をいただく。
セミナーのススメ
「あのう、まずは最初の就職支援セミナーというのを受けてみようかと思うんですが……」。前回手にしたパンフレット「ハローワーク主催雇用保険受給資格者対象 就職支援セミナー」に「就職活動準備」と書いてあったので、「このセミナー、どうでしょうか」と尋ねる。笑顔の職員は「いいと思います。まだ受け付けしていると思いますよ」と薦めてくれる。
ここでようやく確認したかったことを思い出す。「雇用保険受給資格者のしおり」に「あなたの認定日は2型(週型)、月(曜日)です」とあり、その日が祝日に当たっているのが気になっていたのだ。
失業手当(基本手当)を受給するためには決まりがある。失業中と認めてもらう「認定日」が原則として28日おきに設定されていて、その間に最低2回の求職活動をする必要があるのだ。
「僕の認定日は祝日になっているんですが、職安は開いているのでしょうか」と尋ねると、相談の職員は「祝日は休みですから、その前の認定日に相談して決めてもらいます」とさらり。やれやれ。昼下がりの飲み会とバッティングしたら難儀やなあ、とヒヤヒヤしていたのだ。
求人シートをめくる
相談時間は10分足らずだったが、少しずつでも疑問が解けると気も晴れる。すっきりした気分で求人シートの掛かる壁に移動する。「短期・単発」「軽作業等」「日払い・週払い可」「高齢者の方歓迎」などとタイトルがついた「求人シート」の束をパラパラめくってみる。「接客」がおもしろそうだ。どんな仕事があるのだろう。雇われバーテンなんてないのかなあ。
求人シートをめくり始めると、就業場所の欄で近場の「〇〇遊園地」の文字が目に飛び込む。すぐ反応したのはいいが、「仕事内容」の欄に「子ども向け遊園地での遊戯施設の機械操作、簡単なメンテナンス業務」とある。「なーるほど。遊園地の乗り物監視員か。でも冬になったら寒そうだなあ」と早くも弱気になる。木枯らしの吹く遊園地で子どもたちをメリーゴーランドやコーヒーカップなどの遊戯施設に乗せている自分の姿を想像してみる。ボーっとして仕事に手がつかず、お子さんに万が一の事故でもあったらどうしよう。だんだん気分が後ろ向きになってきた。
接客は接待にあらず
さらにページをめくると、突如「すっぽん」の文字が出現。「なになに?」と反応した僕の脳内は「ごちそうを食う」つもりになっている。「接客」に「すっぽん」となれば、高級な雰囲気の座敷で鍋をつついて……などと勝手に妄想し始める。「うまいだろうなあ」と、いい気分になりかけて、すっぽん料理店の仕事内容を見ると、「テーブルセット、オーダー取りなどをお願いします」とある。そりゃあ、そうだよな。「接待」されるんじゃなくて、「接客」する側だもの。より正確に言えば、美味しい料理を提供する裏方さんなのだ。「すっぽん」に過剰反応した自分のアホさ加減に笑えてくる。
そんな僕にふさわしい「適職」は果たしてあるのだろうか。ふと新聞記者の仕事を思い出す。興味あることを調べ、興味ある人に話を聞き、自分の切り口で記事にする……。「懐かしいなあ。おもしろい仕事をしてたんやなあ」。さらに記憶は学生時代までさかのぼり、印象的な映画を観たことまでよみがえる。そう思い始めながら、「いや、ダメダメ。懐旧に浸っていては進歩しないぞ」と自戒する。
職探しは棚上げ
「働く覚悟が甘いんと違うか?」。求人シートの掛かる壁を前に自問した。むしのいい単発のアルバイトなどありゃしない。だが、そんな僕にも収穫があった。職安に置いてあるチラシを片っ端から見ていくと、シニア向けを含む就活関連セミナーがあちこちで開かれていることが分かったのである。
しかもセミナーは多種多様。役所から業務委託を受ける民間会社もいろんなセミナーを取りそろえている。「自分を知る」「老後の生きがい」といった心構えから、「就職活動準備」「履歴書・職務経歴書の書き方」「面接対策」など実戦的な就職支援まで、数多くのセミナーが受講者を募っている。「そうだ、セミナーで学ぼう!」。職探しはひとまず棚上げである。
ささやかな還元
認定日の間に必要な2回の求職活動だが、実際に求人票をたよりに仕事を探したり、求人先に書類を送って面接を受けたりするだけでなく、就職に関係するセミナーを受講するだけでも求職活動として認められる。自分にふさわしい仕事をイメージできない僕はセミナー巡りで当面しのぐことにした。
いわば新米老人の「自分探し」である。僕の場合、失業手当の受給期間が150日間なので、認定日は6回程度ある。そうなると少なくても10以上のセミナーを体験できることになりそうだ。〝就業モラトリアム〟への負い目から、就活シニアへの還元を考え、いくつかのセミナーで「なるほど!」と感じたポイントを連載「求職セミナー体験記」で紹介してみたい。次回からは実際のセミナーを受けての体験ルポである。微力ではあるが同世代の就活仲間に参考にしていただければ幸いだ。(つづく)=釜島辺(かましまへん)