シニアライター釜島辺の「求職セミナー体験記(4)面接は、見た目も中身も

 就職支援セミナーの「就職活動準備」編となるコースを受講してから2週間後、こんどは「面接対策」に特化したコースを受講した。座学なので、模擬面接をするわけではないからジーパンで気楽に出かけた。担当講師の今岡祐三さん(仮名)は民間企業の人事担当者だという。へぇーっと思った。会社勤めをしながら、求職者に職業選択や能力開発について助言するキャリアコンサルタントとして活動しているらしい。ということは、現場体験に裏打ちされた実践的なアドバイスが期待できるに違いない。

自分のモノサシを持つ

 初めに「採用面接とはなにかを考えてください」と言われた。面接と言えば、「私を採用してくれたら、こんな貢献ができます」というアピールの場だが、それだけではない。今岡さんは説明する。「本当にこの会社で働いていけるのか、面接は『自分のモノサシ』を当てはめて考える場でもあるのです。そのためにも自分に適した職場かどうかを判断するモノサシ、つまり価値観をしっかり認識していないとなりません」。面接では求職者の主体性も問われるのだ。

 僕が長年続けてきた新聞記者は、出社や退社の時刻も固定化せず、働き方の自由度がかなり高かった。かといって、この道一筋という職人的なスキルはないから「つぶし」がきかない。そう考えると、「自分のモノサシ」を歓迎してくれる雇用主は極めて限られそうだ。そこを認識しないと、唯我独尊の勘違いジジイになってしまうだろう。肝に銘じておこう。

企業側の観るポイント

 次のステップは「面接で企業が見ていること」。実務知識、理解力、協調性、積極性、対応力など評価項目が挙げられた。今岡さんによれば、面接時間全体を通して求職者のコミュニケーション能力を見るのだそうだ。「その通り!」。気が付けば、求職者側ではなく、採用者側の心境でうなずく自分がいる。もう会社の人間ではないというのに……。

 実は僕も採用面接をした経験がある。短い面接時間で人物を的確に判断する難しさはよく分かる。ぼんやりした印象の学生が何年か後に貴重な戦力となって活躍する姿を見て、「面接で落とさなくてよかったなあ」と内心思ったことがある。逆に、頭脳明晰で如才なさそうだと二重丸印を付けたら、実際の仕事ではまったく使えないという話もよく聞く。

印象は7秒で決まる

 話が横にそれたのでもとに戻そう。とにもかくにも、ぼんやりしたジイさんの印象ではまずかろう。講師の今岡さんが最も力説したのが「面接の事前準備」だ。まず強調したのが、「第一印象の重要性」だ。今岡さんいわく「実際は第一印象で決めてしまう傾向が強い」からだ。しかも表情、身だしなみ、振る舞い、声の大きさやトーン、言葉遣いが相手に伝わるのは「7秒以内」だという。面接を受ける側にとってはほとんど瞬間芸である。「あー」とか「うー」とか言ってたら、「次の方お入りください」になるのだ。

 詳しい解説が続く。「身だしなみのポイントは清潔感です」。個性的すぎるファッションは敬遠されるのはわかる。シンプルでさわやかに、ですな、はいはい。そして「目は口ほどにものを言う」。キョロキョロするのは禁物だ。今岡さんは「基本は視線を合わせること。それによって『聴いています』ということが相手に伝わります」と説明し、「面接官のまつ毛を見るとやりやすいですよ」と具体的なテクニックを教えてくれたのである。

笑顔で臨む

 そして面接の基本姿勢は「笑顔で臨むこと」。その方法について「簡単ではないので、日頃から緊張したら『ハッピー』とか『海(うみ)』と口に出しましょう」と今岡さん。そうすれば口角が上がって優しい表情になるという。さらに「アイウエオのイと言って、口を閉じるといいです」と必勝テクニックを授けてくださる。ほかの受講者を見渡すと、「イ」と発音して一斉に口角を上げているではないか。僕も「イ!」と追随する。

 そうだ。大切なのは笑顔だ。ふとチャップリンの喜劇映画「モダンタイムズ」(1936年)に流れる「スマイル」のメロディーが浮かんだ。人間が歯車の部品のようになって尊厳が失われてしまう資本主義社会を皮肉るサイレント映画のテーマ曲である。ナット・キング・コールが後年歌ったヒットソングの歌詞がよみがえる。

Smile though your heart is aching(心が痛むときも笑顔で)

Smile even though it’s breaking(心が壊れそうなときでも笑顔で)

When there are clouds in the sky,(空がどんよりと曇っていても)

You’ll get by(なんとかなるさ)

*よければこちらから視聴ください。https://www.youtube.com/watch?v=5rkNBH5fbMk

リモート面接では小細工を

 今岡講師のトークはさらに熱を帯びる。コロナ対応で面接もリモートが増えているなか、実践的なアドバイスがあった。

 今岡さんは「上から目線にならないよう、机の上のノートパソコンを高い位置にセットし、ライティングも工夫してください。自然な笑顔のために、アザラシの写真をパソコン画面の背後に飾っておくと、それを見て表情が穏やかになります」と説明した。そうか、アザラシがオンライン面接の救世主か。妙に感心してしまう。

 「皆さん意外にできませんが、これがけっこう重要で、差がつくところです」と強調したのが「あいさつとおじぎと姿勢」である。「新卒組(大学生)はきっちり仕上げてきます。中途採用者は〝できなさかげん〟が見えてしまいます」とピシャリ。

 中高年に警告が続く。「背もたれに背中を当てていると、偉そうに見えます」「こういう人と一緒に仲間として迎え入れて仕事したいですか?」「うちには合わないな、ということになりますから、背中にこぶしひとつ入れて姿勢を整えるのが大事かと思います」

「存じません」はOK

 最後に面接時の応答で注意があった。「質問に答えられない場合にどうしますか?」。沈黙はNG。答えられないなら、「申し訳ございません。その件については存じません」が正解だという。知ったかぶりでごまかそうとして破綻するのは最悪なのだ。

 僕自身も新聞社の面接で「わかりません」と白状し、「入社できた暁には一生懸命勉強します」と返事したのを覚えている。姑息な者は敬遠される、と腹をくくったのだ。それを思い出し、ちょっといい気分で会場を後にした。(つづく)=釜島辺(かましまへん)

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