シニアライター釜島辺の「求職セミナー体験記」(5)高いシニアの存在感

 「生涯現役」と大書した就職支援セミナーのチラシをハローワークのホームページで見つけた。「シニアの労働市場、就業状況、シニア向けの職種、求人検索、求人票、ハローワークの活用方法、応募書類の書き方、面接対策」など盛りだくさん。これは僕にピッタリだ。すぐに応募した。

存在感高まる「60歳以上」

 このセミナーは再就職を希望するシニアを対象とする1時間コースだ。最初に講師の古川義彦さん(仮名)が示したのは総務省の「就業構造基本調査」の「60歳以上の有業者の推移」のグラフだ。有業者という呼称はなじみがないが、仕事に就いて給料をもらっている就業者と考えてよさそうだ。

 有業者の年齢構成を昭和から平成にかけて比較したグラフが示された。1974年には34歳以下の構成比が42%で、60歳以上の構成比はわずか9%だった。ところが、2017年になると前者が25%に下がり、後者が21%と上昇している。絶対数でも今世紀に入るころに60歳以上が1000万人を超え、さらに増加傾向にあり、その存在感が高まっているのが一目瞭然だ。パワーポイントを使った説明がとてもわかりやすい。

シニアの就職率が高いワケ

 シニアの存在感は近年増している。2020年度の東京労働局「職業安定業務統計」(臨時、日雇い、雇用保険受給者、学卒を除く)によると、職安での全年齢の就職率は19・4%で、そのうち60歳以上は25・5%という。

 シニアの就職率が高い理由はなんだろう。四苦八苦してデータを読み込む。その1、就職しやすい「パート希望」の求職者の割合が60歳以上は53・7%と半数以上を占めている(全年齢では31・1%と三分の一以下)。その2、フルタイムの就職率も高く、60歳以上が14・6%で、全年齢の14・1%を上回る――。

 しかもシニアは現役世代と比べ、待遇へのこだわりが薄い。賃金よりも健康や社会とのつながりを求めているのだ。

 そうしたシニアの労働を促すための政策も見逃せない。60歳以上の求職者を雇用した事業者には「特定求職者雇用開発助成金」が支給される仕組みがあるという。1年以上雇用した場合、60~64歳で最大60万円、65歳以上で最大70万円が雇用者に助成されるのだ。採用する側には大きなメリットとなる。

仕事内容を選ばなければ……

 次に古川さんは「60歳以上の職種別就職率」を示す棒グラフを示した。先に触れた60歳以上の就職率(25・5%)を平均就職率と考えて比較するとわかりやすい。人手不足の職種ほど就職できる確率が高く、「警備」(71・4%)、「清掃」(60・2%)、「マンション管理」(51・3%)、「自動車運転」(44・8%)、「介護サービス」(34・9%)、と続く。心身ともにハードな業種だから誰でも気楽に応募するわけではないが、背に腹は代えられないとなれば、就職できる確率はかなり高い。

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 僕の知り合いの昭和17年生まれの御婦人は、夫が退職してアルコール依存症になってしまった。そこで「働いて!」とハッパをかけ、ハローワークで警備の仕事を見つけさせ、80歳を超えた今も警備会社からの派遣で私立学校の現場に立つという。その彼女は「まだ働いてもらわないと今の暮らしを維持できないので、おだてながら仕事場に送り出しています(笑)」とメールに書いていたが、これは立派なダンナ再生術だと思う。

新たなアイデンテティを確立

 逆に競争率が高いのが、営業、販売、一般事務、調理など、かつて職場で培ったスキルを要する職種だ。具体的には「調理」(21・6%)、「一般事務」(16・9%)、「商品販売」(16・7%)、「営業」(11・1%)など就職率はかなり低い。

 実はこの日のセミナーを受ける前、ボランティアにも興味があった僕は介護職を解説するDVDを視聴するセミナーも受けてみた。寿命が短い時代だったら、人々のアイデンティティは若い頃の「夢」に近いものだっただろう。だが、長命時代には年を重ねていくにつれて、「夢」の修正を重ね、更新しながら新しいアイデンティティを確立する必要がある。そうやって未知の分野にチャレンジしなければシニア就活はうまくいかないのかもしれない。

 ちなみに、転職ないし再就職のきっかけになったのはハローワークより縁故が多いというデータもあるそうだ。人間関係は大事にしないとなあ。

シニアへのまなざし

 労働市場でシニアに熱いまなざしが向けられているのは、ハローワークの求人票からも読み取れる。パラパラめくってみよう。「年齢問わず活躍しています」(仕事の内容欄)▽「60歳以上の方を募集」(年齢の欄)▽「65歳以上の方の応募も可」「60歳以上の方も歓迎」(求人条件特記事項の欄)……。シニア層を意識した記述が実に多い。

 それでは企業が60歳以上の採用で重視することは何だろう。2015年度の労働政策研究・研修機構「高齢者の雇用に関する調査」によると、「知識・技能」(29・5%)、「本人の健康」(28・7%)、「性格・人柄」(25・4%)は20%台で、あとは居住場所、通勤時間、低賃金でも可能かどうかを気にかける傾向がうかがえる。専門職や技術職では当然ながら「知識・技能」重視の採用となる。要は「つぶし」がきく人材か否かを見るのだ。

職種にこだわらない

 この日のセミナーではハローワークの職業相談で実際にあったシニア世代の就職成功例が紹介された。長く続けてきたグラフィックデザイナーでの採用を希望していた男性Dさん(65歳)のケースだ。安定収入を希望しつつ、他の業務、職種は見向きもせずに応募を重ねたが、反応は芳しくなかったという。

 相談を受けたハローワークの担当者は、業界が求める人物とDさんの年齢、そして現代に求められる仕事とアナログ時代のキャリアに大きなギャップがあることを説明し、職種にこだわらないよう指導した。

 たまたまDさんに清掃パートの経験があったので、担当者はマンション管理と学校用務員への応募を勧めた。その結果、学校用務員としてフルタイムでの採用が決まった。Dさんは「希望職種ではなかったが、気持ちを切り替えた。採用が決まりホッとしている」と語ったそうだ。Dさんにとって、それはシニアの人生を切り開く新たなアイデンティティを確立した瞬間だったのかもしれない。(つづく)=釜島辺(かましまへん)

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