
シニアライター釜島辺の「求職セミナー体験記」(7)これからの暮らし方と働き方
定年退職後に趣味も友人もなくて妻にベッタリ依存する「濡れ落ち葉」や、妻の買い物についていこうとする「ワシも族」がかつて話題になったが、世代的には僕らより上のオジサンたちだろう。そうなってたまるか。そこでシニア世代にふさわしい「自分探し」を考えるセミナーに応募した。講師の黒田直也さん(仮名)は大小さまざまな企業の採用業務をサポートしてきた人材コンサルタントで、50代の働き盛りだ。黙っていると強面に見えなくもないが、口を開くと謙虚なジェントルマンだった。
興味と関心はなに?
冒頭で「あなたは自分のシニアライフについてどんな興味、関心をお持ちですか?」と問われ、リストアップした約50項目のキーワードから選ぶよう促された。僕は「田舎暮らし」「断捨離」「晴耕雨読」「人生の楽園」「シルバー人材センター」「趣味を生かす・趣味に生きる」にチェックを入れた。

学生時代に観たコンサートのチケット
平均的に多いのは「断捨離」「学び直し」「老後資金」「健康寿命」「傾聴ボランティア」「趣味を活かす、趣味に生きる」だという。ということは、僕が選んだキーワードと一致したのは二つだけ。どうも普通のシニアの興味、関心とは違うようだ。とりあえず学生時代に熱中したロックを聴き直し、気の利いた酒の肴も作りたいなどと考えている僕には切迫感がないのだろうか。
60代の就業希望理由を尋ねる厚労省の調査では、40、50代より下がったのが「経済上の理由」(53・6%)で、逆に上昇したのが「いきがい、社会参加のため」(46・1%)、「健康上の理由」(33・9%)だった。我が身を振り返っても、住宅ローンや子どもの学費の工面に腐心した現役時代は大変だった。なにしろ退職金まで借金の担保にしたからなあ。
健康、資金、生きがい
「老後の不安」を3項目選ばせる厚生労働省の調査によると、「健康上の問題」(73・69%)、「経済上の問題」(60・9%)の二つが抜き出ており、続いて「生きがいの問題」(23・1%)、「住まい・生活上の問題」(17・6%)、「家庭や地域とのつながりの問題」(10・8%)と続き、「大きな不安がない」(8・8%)を上回る。本セミナーはこのデータを踏まえ、「健康」「資金」「生きがい」の三本柱をテーマに挙げる。
まず「健康」だが、東京都の「65歳健康寿命の推移」を示す折れ線グラフが示された。何らかの障害で要介護認定を受ける年齢が年々高くなっている。これは平均寿命の伸びに伴い健康寿命も延びていることを物語る。たとえば「要支援1以上」の男性だと2014年は80・89歳だったのが、2020年は81・40歳となっている。おおむね80歳までは健康に生きていると考えてもよいだろう。僕の場合、あと15年が勝負ということになる。
「老後2000万円不足」問題の意味
続いて「資金」。高齢夫婦世帯の月平均の「不足分」が30年で2000万円になるという「老後2000万円不足」問題が世に衝撃を与えた。その騒ぎのもとになった総務省の「高齢夫婦無職世帯の家計収支(2017年)」の棒グラフが資料に載っていた。年齢や就労の状態や生活レベルの違いが考慮されないまま、「2000万円」という数字が強調され、大混乱の末に撤回された、あの話だ。

トンネルに出口はあるのか
それでも、老後資金への関心を一気に高めたのは間違いない。講師の黒田さんは数字が独り歩きしないよう、「老後の暮らしは人それぞれ(夫婦か単身かで支出は変わる)」「年をとると生活費は少なくなる(しかし医療費や介護費用は増える)」「どちらかが先立つと暮らし方が変わる(30年変化がないはずがない)」とポイントを整理した。要は数字に踊らされず、暮らし方を考えるきっかけにしましょう、というアドバイスだ。