
シニアライター釜島辺の「求職セミナー体験記」(8)キャリアオーナーシップ
「キャリアオーナーシップとは自分がオーナーになったつもりで、自分のキャリアに責任をもって決めていく考え方です」。数十人のシニア男女で埋まるセミナー会場に軽やかなソプラノがかった声が響いた。声の主は講師でキャリアコンサルタントの津山淑子さん(仮名)である。このセミナー、一言でいえば「あなたの可能性を見つけましょう」という内容だ。
人生経験豊かな講師
コロナ対策のマスクと眼鏡で顔はよく見えないが、専業主婦をしていた経験もあるそうで、グレーのシックなスーツの着こなしからベテランとわかる。僕としてはセミナー内容ももちろんだが、どのような人が講師を務めているのかにも関心がある。新聞記者が長かったので「ひと」を見て描写する習性が身についているのかもしれない。
そんなことはここではどうでもいいか。なぜ、このセミナーを受講したのかというと、「シニアに求められる能力を理解し、今までの人生経験で培った能力を見直すことで自分の可能性を再発見してみませんか」というチラシの言葉にピンときたのだ。「僕にも可能性があるんだと自信が持てたらいいなあ」。少しワクワクしながらやってきた。

ちょいと一杯
企業も人間も時代を読むべし
津山さんから言葉がリズミカルに飛び出す。「いつなんどき、何が起こるかわからない。企業もそう思っています」「人生100年の時代は激動の時代です。自分のキャリアを自分でデザインして生きましょう」「自分のキャリアを俯瞰して見ることも必要です」「コロナで自分の人生を考え直すチャンスを与えられたと思ってください」
その通りだ。僕らが現役時代に勢いのあった会社がどんどん衰退しているじゃないか。パナソニック、シャープ、NEC、東芝……。特に電機産業の退潮が顕著だ。人間だってうかうかしていられない。グローバル化やデジタル化の渦中で企業が経営環境を常に点検を求められるのと同様に、僕たちも時代を見極めながら「生き方」も考えなくてはね。
人生はマルチステージ制に
「人生100年時代の変化に乗り越えられる力が求められています」。経理担当として再雇用された会社で採用にも携わったという津山さんの言葉が熱を帯びる。人生100年時代を、教育、仕事、引退の「3ステージ制」ではなく、「マルチステージ制」になったと表現する。つまり仕事も終身雇用ではなく、再就職も起業もあり、学び直しもボランティアもある人生になった、というのだ。

悟りを求めて
そして彼女は「人生100年時代の社会人基礎力」なる言葉を掲げた。具体的には「目的や課題を明らかにする」「相手の意見を丁寧に聴く」「約束を守る」など想像できるものが多いが、少し違った表現が飛び出した。津山さんは「業界の特性に応じた能力」をアプリ、「社会人としての基礎能力」をOSに見立て、「人生100年時代の働き手は、このアプリとOSを常にアップデートし続けていくことが求められます」と強調したのだ。
ところがデジタル社会に時代遅れのチョンマゲでうろうろするような僕にはその意味が分かったようで分からない。アタマがフリーズしてしまった。情けないことに、津山さん渾身の解説が脳内へとすんなり収容されないのである。