
シニアライター釜島辺の「求職体験記」番外編② 面接と直談判
「チラシ配り」が履歴書で不採用となったあと、新たな求人サイトに登録した。面接を受けつけるポスティング業者の求人をそのサイトで見つけたからだ。職種は「サンプリング・ティッシュ配り・チラシ配り/ビラ配り」。
諦めるのはまだ早い。カッコつけずに動こうと腹をくくった。もしバイト体験ができなければ、周囲から「口だけで終わるの?」と思われかねない。なんとしても就労体験をつかみとろう。

腹をくくる
応募企業からのメッセージ
登録完了の通知に続くメールで「職場見学応募完了のご案内」と題して、「下記の仕事への応募が完了しました」と応募企業からのメッセージが届いた。
≪ご応募ありがとうございます。後ほどショートメッセージ(SMS)に、面接日入力フォームをお送り致します。
面接希望日時を、チャットボットよりヒアリングさせて頂きますので、お送り頂き次第、ショートメッセージ、メール、もしくはお電話よりご連絡させて頂き、面接日が確定になります。
あなたが応募した仕事の詳細です。
日払いOK◎採用率90%!モクモク作業/20~60代活躍中/チラシ投函
給与時給1,000円〜 給与備考:◆日払い、週払い可 ◆昇給あり 半年で100円UPしたスタッフもいます! 最大時給1,200円のスタッフもいます! ◆扶養控除内勤務OK ◆皆勤手当てあり……。勤務期間は3カ月以内~長期 「とりあえず短期で3ヶ月だけ…」などもOK◎ 面接日、勤務開始日はお気軽にご相談ください!≫
面接受けに会社へ
こまごまとした条件など二の次だ。「近所でチラシ配りができますように」。電話で面接のアポイントメントをとり、街はずれの工業地帯にある倉庫兼事務所に出向いた。面接官は若手幹部社員だ。
ところが、話してみると募集要項と食い違う点があった。集合場所は僕が間借りしている場所の最寄り駅となっていたはずなのに、「会社近くの駅に来ていただきます」と言われた。そうなると集合場所まで片道1時間近くかかり、「近場でウォーキングを兼ねたチラシ配り」とはならない。即座に断念した。だが、向学のためにちょっと取材を試みた。
「御社は何種類くらいのチラシを配っていますか?」
「50種類くらいです。塾や料理店などさまざまです」
「若い人が多いのですか?」
「年配の方もいます。女性のかたも」
「チラシはどこのエリアで配るのですか?」
「駅で集合していただいたあと、うちの車で配布場所までお連れし、そこで配っていただきます」……。
若い面接官の説明を聞き終え、積み上げられたチラシの束の倉庫を後にした。あたりを夕闇が包み込み、ひんやりとした風が僕のほほをなでる。冷静になった頭に「悪戦苦闘」の文字が浮かんだ。

夕闇の風は冷たい
直当たり
パソコン画面から飛び出し、面接で生身の人間と向き合ったものの、現実は甘くなかった。チラシ配りの仕事がいよいよ遠のいていく。まずい展開だ。そこで単純な発想が頭に浮かんだ。「チラシを配布している古美術商に会って直談判しようじゃないか」。そう考えた僕はたまたま近所に住んでいる元同僚にLINEを送った。
「君の家に投げ込まれている骨董品屋か古美術店のチラシの写メを送ってください。『高価買取』とか『信用第一』とか書いてあるやつです」
やがて数枚のチラシの写メが送られてきた。いくつかの業者の住所をネット検索すると、美術品や骨董品の買い取り業者が近くにあることがわかった。すぐに現地を訪ねると、ビルの外壁に「質と買取」と大書され、そのわきに「創業九十年の歴史と信用」と書かれた看板が目に入った。
思い切って店内に入ると、店主らしき中年男性が電話応対中だ。しばし待ってから、向き合うと、古美術の評価を聞きに来たと思われたのか、丁寧に座るよう促された。思わず、「あ、そうじゃなくて、チラシ配りのアルバイトがないか直接お尋ねにきました」と率直に伝えた。「え?」。男性は当惑したような顔でこう答えた。「ウチはみんな業者を通しているので、ここでは対応できないんですよ、はい」
そりゃあそうだよな、と内心思いながら、「あ、そうですか、どうもすみません。おじゃましました」と首をすくめて店を出た。ほんまに自分のアホさ加減に笑えてくる。業者のオッサンには申し訳ないことをした。一世紀近い店の歴史でも、こんな珍客は初めてだろう。二の句も告げずに退散とあいなったのである。

2人で居酒屋へ
玉砕、そして居酒屋へ
「困ったときには直当たりで突破するしかない」という発想は新聞記者時代に現場取材から得た経験則だが、ここではお門違いも甚だしい。業者とシステマチックに結ばれた求人サイトには太刀打ちできないと痛感する。一人苦笑しながら銀杏が転がる街路をとぼとぼと引き返した。
写メを送ってくれた元同僚を居酒屋に誘い、顛末を報告すると、「ほんまに行かはったんですか?」と飲みかけたビールを噴き出しそうになって呆れ顔だ。「そうや。さすがにアカンかったわ」。こちらも笑顔を返すしかなかった。こうなると、チラシ配布は根本的に戦略を練り直さねばならない。うーん、難儀なこっちゃ。
(つづく)=釜島辺(かましまへん)