
シニアライター釜島辺の「求職体験記」番外編③ メール攻勢
この連載の番外編の第1回に、履歴書で不採用となった古美術店「文殊堂」(仮名)のケースを書いたが、その際に介した求人サイトからのメール攻勢のすさまじさを書いておきたい。
「残念ながらご希望に沿えない結果となりました」との宣告を受けた日の翌日から「オススメ求人」メールが連日、敵討ちのように送られてきたのだ。ちょうど3カ月後にピタリと止むまで、その本数は多い日で18本、実に総計876本に及んだのである。
熱心な求人サイト
「希望にマッチした求人をお届けします」「ぜひチェックしてみてください」――。最初のオススメ求人は、パートの「学校門扉閉鎖業務」「未経験OK」というもので、「交通費支給あり/転勤なし/学歴不問/17時以降に始業/シニア歓迎」とあった。
さらに「急募!」の見出しで自家用車必須の「片付けドライバー募集」が「WワークOK」「月給30万~80万円」で届き、続いて「お菓子の段ボール詰め」「軽作業・DMの封入」「音楽がかかるお洒落なオフィスの清掃業務」「商品のラベル貼り、梱包作業」「大手通販サイトの配達スタッフ」「イベント会場の設営、撤去作業スタッフ」といった求人情報が送られてきた。
その求人サイトからは、女性の顔写真入りで「キャリアサポーターの森(仮名)です」「希望条件にマッチした求人や、新着のお知らせをお届けします。気になる求人があれば、早めに応募してください!」というメールも届いた。つい浮足立ちそうになるが、なんだか急かされている気もした。
多彩なバイト内容
続いて「DVDやおもちゃのピッキング・梱包」「単発・1日のみOK!」との軽作業の求人情報が送られてきた。「いろんなバイトがあるもんだなあ」とメールの文面を追うと、「完全在宅勤務・フルリモート」など、新型コロナウイルスの蔓延で変質する労働形態を考慮したものまで含まれていた。「テレワーク・在宅OK」が特記事項で触れられ、「パソコンできればOK! 週2~3、1日3時間以内OK!」というゆるい誘い文句まで見られた。
「シニア歓迎」の求人も届いた。内容を見ると、「悩みを聞くカウンセラー急募」だ。しかも「未経験OK」だ。専門性は問われないのだろうか。そんなふうに思っていると、さらなる求人が押し寄せる。「お客様のQに、メール・チャットでAを返す 人の役に立つお仕事!」「埋蔵文化財発掘作業員」「エキストラ・モデル(読者モデル・ウエディングモデル)・タレントなど」「ワクチン会場問い合わせ業務」「宝飾品バイヤー大募集!」「新型ワクチンスタッフ」……。なんでもござれだ。
翌日、また「キャリアサポーターの森さん(仮名)」からメールが届く。こんどは「未経験OK!検品など軽作業」「未経験者歓迎!倉庫管理・軽作業」だ。未経験を強調しすぎではないか。余計なおせっかいだが、そんなに簡単なことなのかと思ってしまう。
それとサイトからの求人内容はやたらカタカナが多い。「フルリモート」「スマホメーカーのカスタマーサポート」「インターネット広告事務」「SNSアプリの配信スタッフ」「システムエンジニア」「オンラインメディカルアシスタント」「オンラインカウンセラー」……。和式表現よりイメージが軽やかなのは分かるが、口の筋肉が劣化した老人(言い換えるとシニア)の僕は舌を噛みそうになる。
ビッグデータか?
5日目からは「閲覧履歴を分析して、興味を持っていただけそうな求人をピックアップしました!」と伝えてきた。僕を分析したということか。気味が悪い。
で、仕事は何かというと、「メール対応・データ入力」「デザイナーアシスタント」「企業向けLINE公式アカウント運用コンサルタントの営業補助」「非常勤教員」「日本語学習クラス講師」「学習等支援員」「カウンセラー」「臨床心理士」「プログラミング教室のコーチングスタッフ」など教育関連の仕事も含まれ、そんな安易でいいのかな、と心配になるくらいだ。
連日10本余りのメールが届き、日増しに職種も広がっていく。「タクシードライバー」「パン販売社員」「人材派遣の営業マネージャー」「医療・福祉業界の人材コーディネーター」「生活ゴミ収集助手スタッフ」「除菌スタッフ」「老人保健施設の介護スタッフ」……。
人手不足ニッポン
そして実感したのは少子高齢社会ニッポンの人手不足という現実だ。たとえば、日給6500円 ~ 2万1500円(日払い・週払い・即日払いOK)の「荷揚げスタッフ」の求人はどうかというと……。
運送業者がトラックで建設現場の搬入口まで運び入れた建築資材を指定した場所に振り分けて運ぶ仕事で、「髪型ヒゲ髪色ピアス自由」「シフト自由」「交通費全額支給」「履歴書不要」「未経験OK」「1日4時間以内OK」「週1日からOK」「土日祝のみOK」「交通費支給あり」「直行直帰OK」と列挙され、「とにかく来てほしい」という叫び声が聞こえてきそうだ。
ふと僕は昨年のハローワークで開かれた警備会社の説明会を思い出した。担当者が「週3日や土日祝日のみの希望にも対応します。ぼちぼち働けばいい、という人がいれば、それでかまいません」と苦境を訴えていたのだ。「労働市場における慢性的な労働力不足」。その切迫感をひしひしと感じさせたのは嵐のような「オススメ求人」のメール攻勢だった。
(つづく)=釜島辺(かましまへん)