シニアライター釜島辺の「求職体験記」番外編(4)職安で応募

  チラシ配りのアルバイトに就けないまま季節は秋から冬に近づき、さすがに焦りを感じてきた。そこで公共職業安定所(ハローワーク)に足を運んだ。初めて暮らす街で年末にふさわしい短期間バイトを探そうと思ったのだ。

ハローワークを訪ねる

 11月中旬、町の中心部のハローワークに入ってみた。求人票を貼った掲示板、パソコンの置かれた場所のあるフロアは利用者の姿がちらほら。にこやかな表情の受付職員にまずあいさつをした。

「あのう、短期バイトがないかと思って来ました」

 ハローワークは全国500カ所以上あり、主要都市には必ずあるが、自宅から遠く離れた場所で利用するのは初めてだ。1カ所に利用登録していれば、そのデータは全国どこでも共有され、利用できるシステムで、窓口で名前などを伝えると、「〇〇のハローワークで登録されていますね」と言われた。

願時は就職成就

 「できるなら、この町ならではの仕事をしたいと思って。ただ、それほど切迫していないので、その点ちょっと申し訳ないのですが……」。思っていることを正直に伝えた。それでも怪訝な顔をされることなく、「はい、はい」とうなずきながら女性職員が「どんな求人があるか見てみましょう」と言って奥に入っていった。ほどなく、プリントした求人票数枚を手に戻ってきた。

 「漬物製造補助(袋詰めやラベル貼りで時給1100円以上)」「酒造会社の製品化ラインの作業で時給993円」「町内会の地図のポスティングで時給970円」「食肉加工(スライス加工で時給1200円以上)」「高級和食店の接客(年始もあり時給1500円以上)」……。こんな具合で、郷土料理の漬物店か地酒で知られる酒造会社がおもしろそうかと思ったが、これぞという決め手はない。もう少し日を置いて、また求人票を見にこようと考えた。

性別無記入の求人票

 師走に入り、再びやってきたハローワーク。年内では最後のチャンスと思って年末の短期バイトの求人票が貼られたボードをチェックした。「これはおもしろそうだ」と感じたのがいくつかあった。

 その中から「漬物店の販売員(店頭でお漬物を袋に詰めて販売、進物用の商品の包装、ご近所への配達)で時給1000円」、「フランス料理店のおせち料理盛り付けと調理補助(調理手伝い、盛り付け、洗い場など)で時給1100円~1300円」、「割烹料理店の調理補助(おせち調理の梱包作業と盛り付けの調理補助で時給1200円~1500円)」の3枚の求人票をコピーしてもらった。

 もともと調理の世界に興味があったので、フレンチか割烹料理店にひかれた。前者は「フランス料理の正統性を継承しつつも和と洋の区別をなくしオリジナル料理も提供している」とあり、後者は「カウンター10席、1・2階座敷、静かに落ち着いた感じです。客層は良し。雑誌等で多数紹介されています」とある。

初めての応募

 いったん持ち帰り、数日間考えた末、おせち料理の裏方作業で勝負しようと決意し、ハローワークの男性職員に「この仕事は女性を想定しているのでしょうか?」と尋ねた。というのも、求人票の応募条件には性別の指定がない。ジェンダーの観点から最近はあえて記入しなくなっているという。

 たとえば仮に高級料亭での「接客」となれば、着物姿で妙齢の女性が愛想よく配膳してくれるイメージがある(まさか初老のオッサンが「お料理いかが?」と宴席にお膳を抱えて出現することはないはずだ)が、求人票には性別の記載はない。

 では割烹料理店のおせちの「調理補助」はどうなのか。「やっぱり女性のパートを求めているのだろうだとしたら応募しても男というだけで門前払いだな」と思いつつ、もやもやするので念のため聞いてみた。すると、「三人が応募されています。男性の方もおられますよ」と言うではないか。

おせち料理

 「それなら私もお願いします」とすぐに返事すると、職員は待ってましたとばかりに笑顔を浮かべ、その割烹料理店に電話で「60代の男性のかたが希望されています」と伝え、12月18日に店主(いわゆる大将)に面接してもらうことが決まった。

 その対応をしてくれたハローワーク職員は厚生労働省職業安定局作成、発行の「応募書類の作り方」という冊子(18ページ)と、店宛の紹介状を僕に手渡しながら、「大丈夫だと思いますよ」とあたたかい言葉までかけてくれたのである。

面接準備

 さっそく文房具店で履歴書を買い求めた。A4判履歴書用紙4枚入りセットで、用紙を折らずに入れられる大型封筒3枚が付いている。いただいた冊子を開けると、履歴書の作り方や注意点が挙げられ、記載例ある。学歴、職歴などから志望動機、アピールポイントの記載方法を頭に入れた。たとえば、こんな具合に分かりやすい文例まで掲載されている。

  ≪これまで私は~に関心を持ち、~に努めて参りました。そのような中で、このたび~を取り扱う貴社から~職の求人募集が出されたことを知り、この機会に是非、私の~の経験と能力を活かして貴社の~に貢献していきたいと考え、応募した次第です≫

 不思議なもので、これだけ読むだけでも、なんだかその気になってくる。ちなみに、「御社」という表現は口語体なので、文書では「貴社」と書くそうだ。なるほど、そうなのか。知っているようで知らなかったことを学びながら僕は命運をかける面接に備えた。

(つづく)=釜島辺(かましまへん)

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