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ホンダが消える 第1回) 守るモノと捨てるモノは何か 創業7年目の社史から解き明かす

本田宗一郎さんが存命なら、今のホンダを好きになるだろうか。最近のホンダの見ていると、そんなセンチメンタルな思いが浮かぶます。昭和21年(1946年)10月に本田技術研究所を開設し、その2年後の昭和23年9月に本田技研工業を設立しました。もう73年前のことです。創業の精神は守るが、経営環境は大きく変わっています。創業者へのセンチメンタルな思いに縛られていては会社は存続しないことは理解しています。事実、ホンダは何度も厳しい状況に追い込まれています。

しかし、です。ホンダは何のために存続しているのでしょうか。トヨタ自動車でもない、テスラでもない。ここ10年間を見ていると、繰り返し経営の選択を誤り続ける日産自動車の背中を追っている印象すら持ちます。日本の、というよりも世界のためにホンダは必要な会社なのでしょうか。40年前からホンダを取材し続けた記憶を綴りながらホンダへの応援歌と、日本の産業・企業の近未来を描きます。

「社史」(本田技研工業株式會社)と書かれた小冊子が手元にあります。発行は昭和30年9月24日ですから創業7年目に作成しました。ちなみに私は小冊子の発行日3週間前に生まれました。親近感があります。発行人は本社総務部次長の彌富賢之さん。はしがきは冒頭、「2500人の従業員の顔の形が異る様に、各々が抱いてる考え、思想もちがう。しかし、社長が要望している、所謂安価に良品を造る、と云うことには全員一致している訳である」(注;原文のまま引用、以下同じ)で始まっています。

続いて昭和29年の苦境に直面しながらも、社の歴史が短く伝統もなく従業員の勤続年数が平均3年という若い会社が危機を乗り越えたのは「心からホンダを愛し、且つその製品に誇を持っているからである」と述べ、筆者の彌富さんが胸を張る姿が浮かびます。

2021年に読むと大時代的な語句が並ぶ印象を受けますが、創業7年を経ても残る高揚感とは対照的に厳しい経営を乗り切らなければいけないという危機感にあふれています。当時の本田技研は名車「カブ」「ドリーム」を開発して大ヒットしてさせ、創業7年でオートバイ生産で世界第2位に達しています。米国の輸出や英レースの検討を始めたほか、大映と提携して山本富士子さんがオートバイに乗って主役を演じる映画「火の驀走」の技術指導を担うなど財閥系名門企業が真似できない今で言うブランド戦略を展開しています。

社史は沿革、社史、そして本田宗一郎社長と藤沢武夫専務の言行集で構成する184ページの冊子です。ページ数で見ると藤沢専務の分量が本田社長をわずかですが上回っています。ホンダといえばほとんどの人が本田宗一郎の名前を思い浮かべ、藤沢武夫の名を挙げる人は少ないでしょう。しかし、ホンダを世界企業としての骨格を整備し、人材育成に努めたのは藤沢武夫でした。藤沢専務の分量が多いのはうなずけます。

とはいえ、読んでいて引きつけられるのは、やはり本田宗一郎の言葉です。例えば「資本とアイデア」。社会の進歩が遅い時は味噌や醤油など製造に一定期間が必要な事業は資本力を持っていないといけないので地方の財産家が多いが、「現在(注;昭和27年当時)のように過去における十年、二十年の進歩を一年半とか半年にちぢめて行う時代においては事業経営の根本は資本力よりも事業経営のアイデアである」と断言します。そして「資本が無いから事業が思わしくないとの声をよく聞くが、これは資本がないからでなく、アイデアがないからである」とバッサリと切り捨てます。

本田宗一郎さんが強調していることは、現在でもそのまま通用します。豊富な資本と多くの人間を擁しながら事業不振に陥っている会社は、日本の産業界が長年突き付けられたテーゼです。言い換えればホンダが今抱えている悩みです。

悩みへの答がこの小冊子にあるのでしょうか?本田社長の言行集は「三つの喜び」で始まっています。「造って喜び、売って喜び、買って喜ぶ」の三つです。技術者、販売店、消費者のすべてが感動する製品を生産する思いを表現しています。本田社長は「三つの喜び、これが吾が社のモットーである。私は全力を傾けてこの実現に努力している」と結びます。私はホンダをはじめ日本の製造業が改めて確認すべきことは「三つの喜び」にすべて込められていると考えます。

「ホンダが消える」は長期連載するつもりですが、会社の沿革を書き連ねる考えはありません。2021年からスタートし、社史で本田宗一郎さんが述べているように「色即是空、空即是色」と過去と今を縦横無尽に飛び交いながら書き進めていきます。「取材して喜び、書いて喜び、読んでもらって喜ぶ」のジャーナリストの三つの喜びを噛み締めてアクセルを踏みます。

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