
ホンダが消える 13) スバルも消える 電気自動車の凄まじい破壊力
ホンダは2021年10月、電気自動車(EV)の「e:N」を発表しました。2022年春に中国市場向けEVとして「Honda」ブランドを冠した2車種を発売します。スバルもトヨタ自動車と共同開発したEVを公表しました。日本の自動車メーカーは脱炭素の切り札として期待されるEVで欧州メーカーに比べて出遅れ気味でしたが、ようやくEVの新車投入が加速しています。ただ、内燃機関エンジンの歴史で培ってきた自社ブランドの価値すら蔑ろになってしまう恐ろしさ覚えます。「Honda」も「Subaru」も消えてしまうのではないか。電気自動車が巻き起こす産業革命の嵐の凄まじさを改めて感じます。
100年間築いた自動車産業の絵図が消える
何ごとも栄枯盛衰があるとはいえ、日本の自動車メーカーのピークアウト、いえいえ100年間築いてきた世界の自動車産業の壮大な絵図が消えていく未来が見えてきた気がします。その未来を見据えてホンダはどう覚悟を決めて、その「らしさ」を残そうとしているのでしょうか。電気自動車の破壊力が荒らしを巻き起こす中、ホンダが「ブランド」を存続する難しさを考えてみました。
ホンダが発表した「e:N」はまず中国でも人気が広がっているSUVタイプの2車種を発売し、5年間かけて10車種に増やしていく計画です。「N」には「NEXT」「NEW」の意味を込めたそうですから、ホンダが電気自動車で新しいHondaを体現したいという意気込みがわかります。将来は中国から世界へ輸出することも考えているそうです。発表したコンセプトカーは「SUV」「GT」「COUPE」の3種類。きっとSUVが販売の主力になるのでしょうが、ホンダの個性である「走り」をイメージを訴えたるためにGT、クーペの2タイプを加えたのかと推察します。
「N」の意味を感じたのはオンラインの発表会で開発コンセプト「動、智、美」を説明している時でした。「智」は全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360」を使って安全性能や走行感覚の向上を目指すホンダ。「美」は視覚や触覚からホンダを所有する満足感。ホンダは「動」だけの単なる移動体としての電気自動車ではない存在であることを「智」と「美」の2つのキーワードを加えて他のブランドと差別化しようとしていました。もちろん、プレゼンテーションでは映像とともに「Hondaらしい人車一体感や、スポーティーで爽快な走り」が繰り返し登場し、「F1(フォーミュラーワン)や高級スポーツカー「NSX」を手掛けた」とホンダのアイデンティティである走りの素晴らしさを強調します。でも、F1は撤退するし、NSXも販売停止する予定ですよね。
中国は北京や上海などの大気汚染に苦しんでいます。しかもCOP26で削減が議論された脱炭素、温室効果ガスの削減について中国はインドと並ぶ排出大国です。EV 国産車に対する助成金を手厚くして普及に早くから取り組んでいますから、ホンダが中国でEVを本格投入するのはよくわかります。
朝日新聞によると、中国の電気自動車メーカーは2021年9月時点で約200社あり、このうち150社は創業から3年以内だそうです。文字通り、雨後の竹の子です。電気モーターとタイヤとブレーキ、そしてボディがあれば出来上がります。人間の命を乗せて走るわけですから、プラ模型の車と同じとは考えたくありませんが、内燃機関エンジンを搭載する自動車が3万点もの部品を必要とすることを考えれば手軽に参入できると思うのも不思議ではありません。ですから、中国のEVには差別化のキーワードが必須のようで、11月19日に開催した中国・広州のモーターショーは個性を競い合う新車が陳列されているようです。
しかし、電気自動車の登場は「Honda」ブランドの価値を破壊しかねない潜在力を持っています。その予感を実感させたのがスバルが11月に公表したトヨタ自動車と共同開発したEV「ソルテラ」でした。スバルの中村知美社長はネットの発表映像で「EVになっても、やっぱりスバルだと感じてもらえるよう開発した」と強調します。EVの主力駆動系はトヨタが担当しており、高い評価を集めている運転支援システム「アイサイト」を搭載していませんし、EVですからスバルのアイデンティティである水平対向エンジンは見当たりません。走破能力などに盛り込まれているようですが、日常の走りの中にスバルらしさをどこで実感すれば良いのか首を傾げます。
水平対向エンジンが消えたスバルはスバル?
スバルは低重心を実現する水平対向エンジンと4WD(四輪駆動)で小規模メーカーであるにもかかわらず世界の自動車メーカーの中で高いブランド力を維持してきました。ソルテラの開発時間が足りず、スバルが培った技術を思う存分に盛り付けできなかったとの理由だそうですが、トヨタが「ソルテラ」の兄弟車として発売する「bZ4X」と何が異なるのでしょうか。スバルとトヨタは2012年にエンジンやシャシーなど主力部品を共通化した「スバルBRZ」「トヨタG R86」を発売したことがあります。同車の場合は水平対向エンジンを搭載し、走りの質感や価格を違えて差別化しているので「スバルらしさ」は残されています。スバルの販売店は「価格が割安だから、スバルのBRZを買うよね」とトヨタとの競合を気にしません。しかし、ソルテラの場合は「スバルらしさ」は牡牛座の6つ星プレアデス星団をかたどった昴のエンブレム以外どこにあるのか子細に探さないといけないような印象です。
テスラの評価は27位、でも株価時価総額はトップクラス
改めて自動車のブランドとは何かと考えるリポートを読みました。米有力消費者情報誌コンシューマー・リポートが11月18日発表した2021年自動車ブランド別の信頼性調査ランキングで、トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」が1位。2位は「マツダ」、3位は「トヨタ」で、6位「ホンダ」、7位「SUBARU(スバル)」、8位ホンダの第2ブランド「アキュラ」と続き、上位10ブランドのうち8ランキングを日本が占めました。アメリカや中国のEV市場で勢いを見せるテスラはSUVの失速に足をとられ、27位に止まっています。
これまた、しかし、です。ランキング27位でも時価総額はトヨタを上回るテスラです。時価総額を将来の可能性への期待と考えたら、ランキング下位でもトヨタやホンダやスバルよりも未来への成長性が高いわけです。これが電気自動車がぶっ壊した100年に1度の変革期なのでしょう。ホンダとスバルは偶然にも6位、7位、8位と上位といえ、ベストテンの中位。マツダのように尖った車作りをしないと、トヨタとテスラのブランド力に埋没しかねません。
2030年以降、もしEV以外の新車が現れない時代が訪れたら、どんな風景が待っているのでしょうか?私たちが知っているブランドがいくつ残っているのでしょうか。大好きなスバルは大丈夫かな?軽自動車はEVの一体化が進み、スズキもダイハツも無くななっているのかな。ホンダもスバルも「らしさ」を強調します。両社の電気自動車を試乗していませんのでエンジンを搭載した車との走行の味付けがどう異なるのか全くわかりません。私たちに残されている遊びは遊園地に乗るゴーカートと同じかもしれません。アクセルを踏んでブレーキを踏んで。自由に動ければ楽しい。これが自動車の原点です。これさえ残っていれば自動車かもしれません。それにしてもホンダの「e:N」もソルテラもフロントマスクも含めてデザインが似ています。プリウスみたい。まずはここから変えて欲しいなあ。