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テスラのフロントは空っぽ

ホンダが消える 3)トヨタとのハイブリッド論争、新技術とクルマの使い捨てが浮き彫りに

ホンダの三部敏宏社長は2021年6月23日の定時株主総会で「カーボンニュートラルに経営資源を集中させる」と表明し、2040年までにエンジン車の新車販売をやめて電気自動車(EV)など走行時に二酸化炭素(CO2)を出さない車だけにする考えを明らかにしています。すでに「インサイト」などハイブリッドシステムを搭載しているクルマはありますし、昨年秋には電気自動車「Honda e」を年間1000台限定で発売しました。あっという間に完売する人気を集めました。

ホンダの技術開発は柔軟なのか、軸が無いのか

ホンダの「カーボンニュートラル」は着々と進んでいると見えます。しかし、過去の技術開発の経緯を改めてみると、あっちこっちに行ったり来たりしたことも。もちろん、技術開発は注力したからと言って必ず成功するわけではありません。モノにならないと判断したら新たな発想に切り替える柔軟性が必要です。固執するのが最善ではないことも承知していますが、あまりにも柔軟すぎと思えることが多々あります。ハイブリッドシステムの開発経緯を振り返りながら検証したいです。

自動車の技術開発は1960年代以降、環境対応が大きな潮流です。ホンダは1972年、米国の厳しい排ガス規制であるマスキー法に対応できるCVCCを開発し、四輪車の中小メーカーから一気にその名を高めました。CVCCエンジンを搭載した「シビック」は大ヒットし、ホンダは二輪車メーカーから四輪車メーカーへの転進に成功する原動力になったほどです。しかし、1980年代に入り、燃焼技術や触媒の進化、さらにCVCCは寒冷地でうまく燃焼できないなどの理由も加わり、搭載する新車は続きませんでした。マツダのロータリーエンジンの事例がありますので革新的な技術開発が必ず業績に貢献するわけではありません。技術革新の波に洗われて姿を消すことはたびたびです。CVCCに続くホンダの革新技術はどうして登場しなかったのか。ASIMOなど話題を集める技術は数多くありますが、ブレイクスルーできる技術はどうだったのか。

内燃エンジンの環境技術として新しい突破口を切り拓いたのがハイブリッドシステムです。ハイブリッドシステムは1997年、トヨタ自動車の「プリウス」の登場で世界の自動車市場に衝撃を与えました。システムの発想、技術自体は1900年代から技術的な試行錯誤が始まっており、省エネが急務となった石油ショック後の1980年代から加速。ドイツのダイムラー・ベンツやフォルクスワーゲンなどでも実用化寸前のレベルにまでこぎ着けていたようです。

「もう少しで21世紀が来ることだし、中期的なクルマのあり方を考えた方が良いのではないか」と英断した豊田英二社長らトヨタ歴代のトップが試行錯誤を繰り返す開発陣を励まし、新製品として送り出すことに成功しました。何事があっても決してぶれないトヨタの面目躍如というところです。

プリウス効果は絶大でした。プリウスを保有すると地球環境の保護に熱心とのイメージが高まるため、ハリウッドスターが購入したり日本の政治家でも普段はベンツを乗り回すが選挙区に入る寸前にプリウスに乗り換えるといった珍事が起こったほどです。

トヨタの関係者は「プリウスを一台売ると数十万円の赤字になる」と明かしてくれたことがあります。ヒットすればそれだけ赤字額は増えます。企業としてはやってはいけないことでした。しかし、排ガスを撒き散らす自動車は公害の元凶の一つと見られています。それがプリウスを発売したことでトヨタは一転、「環境に優しい会社」という評価を得ました。きっとトヨタブランドを高めた評価額と比べたら、プリウス販売で積み上がった赤字額は十分に元が取れたはずです。

ではホンダはハイブリッドシステムについてはどう取り組んでいたのか。1990年代後半に開発陣を率いていた吉野浩行社長(社長在任1998年〜2003年)は当時、私が司会を務めたシンポジウムで持論を述べています。「エンジンの省エネ技術を含めて環境技術は力を入れているが、最もエネルギー効率が良いのは内燃機関のエンジン燃焼と考えています」。その場で何度も確認しましたが、持論は持論です。変わりません。ハイブリッドシステムの開発に熱心ではなかったのは明らかでした。

ハイブリッドシステムも技術開発のベクトルがずれる

ホンダのハイブリッド車の第1号はプリウス登場から2年後の1999年9月。「インサイト」です。大きさは小型車並みでしたが2人乗りで、アルミボディーを採用してプリウスを上回る燃費性能を徹底的に追求しました。ただ、まだ実験車のイメージが拭えませんでした。売れるかどうかより世界最高級の技術を開発するという「ホンダらしい」技術者魂を感じたものです。こういう技術者魂を発揮したいという心意気はホンダの技術を取材する時によく経験しました。エンジンやシャーシーなどの新技術開発で他社とどちらが優れているかを比較すると、公開シンポジウムを開いて議論したいと持ち掛けられたことは2度、3度ではありませんでした。

ホンダのハイブリッドの方式はパラレル方式で、エンジンによる走行が主体となり、エンジンが燃料を多く消費する発進・加速時にトルクモーターでサポートします。トヨタの場合はエンジンとモーターを併用して走行する方式です。トヨタとホンダ、どっちのハイブリッドシステムが優れているのか。よく話題になりました。

2009年2月に発表した2代目インサイトは初代とは違って量販車を目指していました。3ヶ月後の2009年5月18日、トヨタが3代目プリウスを発表しました。東京・臨海副都心のトヨタショールーム「メガウェブ」の特設会場に舞台がありました。舞台の幕が上がると、タンデム自転車2人乗りが2台があり、ストロングハイブリッドとマイルドハイブリッドの違いを説明しますと言います。「マイルドって何?」との疑問が消えないまま、前席がエンジン役、後席がモーター役となっているとの前提でマイルドハイブリッドの自転車は前席と後席の乗り手が一緒に漕ぎます。トヨタの説明ではマイルドハイブリッドはスタートからエンジンとモーターの両方を使うので、結局は前席のエンジン役が消耗してしまう。

マイルドとは実は1モーターでエンジンとモーターが結合されているホンダ「インサイト」を例にしています。トヨタの記者会見ですから、マイルドハイブリッドのエンジン役はヘトヘトになり、プリウスを想定したストロングハイブリッドのエンジン役は「まだまだ元気いっぱい!」となります。新車発表でここまで露骨な比較広告はなかなかありません。いつも横綱相撲を心がけるトヨタが珍しく挑発するぐらいですから、ホンダの開発陣はかなり血圧が上がったでしょう。

その後、インサイトは1999年発売の初代モデルは2006年で一度販売終了し、2代目が2009年に再登場します。そして2014年に再び販売を終了します。なんと4年後には3代目が再々登場します。いつも通りのブランドの使い捨てです。一方、プリウスは発進時の鈍さやモーターからエンジンに切り替わる時のタイムラグなどの課題について改良を重ね、アクアなどの派生車を拡大していきます。

ホンダのハイブリッドシステムはどう進化したのか。当初トヨタのシステムに比べてホンダはモーターは補助役と強調していましたが、その後2モーター、3モーターとハイブリッドは本格的に進化、レジャンドやアコードでは上級車にふさわしい優れた操縦安定性を備えたシステムに仕上がったと高く評価されていました。トヨタのタンデム自転車の揶揄が当たっているかどうかは判断できませんが、トヨタの表現を真似ればマイルドからストロングに事実上移り変わったような気がします。結局、トヨタの開発思想に寄ったのでしょうか。ただ、アコードもレジェンドも日本では売れていません。

ホンダの技術は話題性が高く、企業ブランドを高める役割を果たしてきました。F1(フォーミラーワン)の参入はその良い例です。しかし、F1をどう評価するかは後日の原稿に譲りますが、新車販売の現場から見れば技術のホンダが販売の推進力になっているわけではありません。

例えばCVCC。ホンダブランドを構築したシビックは2010年に日本での販売を終了しています。1972年に四輪車の顔として登場して「ホンダ=シビック」のイメージが広く浸透し、小型車だが快適な乗り心地、使い勝手の良さなどで高く評価されていたにもかかわらず、海外で販売を継続するとはいえ日本国内では38年間のブランド財産を捨て去りました。私はマイカーとして愛用していた時期があっただけに、びっくりでした。伊藤孝紳社長(2009年〜2015年)の時、世界販売を年間600万台に押し上げる計画をぶち上げた結果、売れない車をスクラップアンドビルドする流れの一環だとはいえ、メーカーが最も大事にしなければいけないブランドと技術を捨て去る象徴に映りました。

繰り返し強調しますが、車のブランドが消えたからといって優れた技術が消えるわけではありません。しかし、クルマと新技術はレゴのパーツを組み合わせて出来上がるものではなく、共に一体化して高品質をもたらすものです。技術が完成したから、他のクルマにもレゴのパーツを加えたら出来上がりというものではありません。

レゴがビジネスモデル?

それが可能ならのは失礼ですが、安価なクルマを多くさばく戦略を掲げるメーカーならどんどん採用するでしょう。実際、世界の自動車メーカーではこの流れが広がっています。しかし、ホンダは三部社長が表明したように誰でも真似できないレベルを目指すなら、レゴの選択はないのではないか。もしテスラのようにITなど最新技術を多用して操縦安定性などで負けないことが実証されるなら、ホンダよりテスラを選べ良いのかもしれません。その日が近づいている予感はします。昭和のものづくりを愛する人間としては残念です。

ホンダの技術を取材してきた身だけに、思いが強すぎたかもしれません。

ホンダの開発者魂、テスラに負けるな!!

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