
ホンダが消える 12 ソニー、アップル、そしてホンダ、Yes! すべて OK
ホンダという会社を眺めて40年近い年月が過ぎました。本田宗一郎、藤沢武夫の創業者に直接触れる機会がなかったのは残念ですが、偶然にも創業期に入社した親戚がおり、その方から「本田技研工業」の空気を教えてもらったのは幸運でした。
初めて購入したクルマは「シティ」
最初のマイカーはホンダ「シティ」です。当時、会社3年目の人事異動で受けた赴任地は城下町の金沢。借家を選んだ町は400年前に北陸地方へ乗り込んだ前田利家と共に訪れた職人さんたちが住んだ街です。狭い路地、接近した家並み、道路の横には雪を流す水路。住宅の配置は400年前とほとんど同じです。シティの車幅でもぎりぎりです。能登半島など北陸各地を走り回ることを考えてクルマを選びましたが、決めた理由はなんといってもデザインが一番でした。もちろん価格も大事。本音は中高生の頃から大好きだった英国の「MINI」を買いたかったのです。とても手が届きません。日本車の中では車体デザインや車の使い勝手が似ていたシティしか目に映っていませんでした。ボディーカラーは黄色。地味めの色が支配する金沢の街で黄色はかなり目立ちます。黄色のシティとすれ違うとなぜかドライバー同士で手を挙げて挨拶したものです。
しかし、金沢のディーラーはハズレでした。試乗して「これで」といった車と納入された車が違うスペックでした。「値引きを含めて最終決定した価格では試乗した車の納入は無理なので、ランクを下げた車に変えた」と説明された時は怒りを超えて驚きました。まだ若かったですし、知らない町に住み始めたばかりです。ケンカはしませんでした。追突事故された時の修理も忘れられません。ディーラーに修理した後、数ヶ月後に修理した跡がひび割れました。ディーラーにたずねると「追突先と親しかったので、車体の凹みは直さずパテを貼り付けて塗装し、外見だけを修理した」と説明します。全く悪びれる様子はありません。「修理コストを抑えて欲しいと頼まれたから」と続けます。
それでもシティはとても好きなクルマだったのですが、金沢勤務を終えて東京へ移ってホンダ担当記者となり、取材でお会いした久米是志社長は「シティはクルマじゃないからね」と素っ気なく言われた時は心底がっかりしました。ホンダにとってはクルマじゃないかもしれませんが、購入した後手元に残ったお金は数万円でした。それでも購入するユーザーの気持ちを忘れているのではないですか。といっても、その後も取材を通じて書いたホンダの記事は「溺愛してしまうホンダ」と「どうしようもなくダメなホンダ」を常に頭の片隅に置いて取材し、距離感を失わずに原稿を書いてきたつもりです。今回の「ホンダが消える」ももちろん、同じ姿勢です。そんな思いをすべて込めて以下を書きます。
実現性は無視して、ホンダのベストシナリオは・・・
今回の連載「ホンダが消える」では、思い切り良くベストシナリオを描きます。実現性は無視です。
ずばりソニー、アップルとの統合です。業務提携のレベルではなく最低でも資本提携です。ホンダの独創性、競争力など強みと弱みと分けて、いろいろ考えてみたのですが、やはりこの組み合わせは気持ちが良くわかりやすい。21世紀後半を象徴する企業、Companyとして輝ける存在になる可能性を秘めています。企業はなぜ必要なのか、誰のためにあるのかーー多くの人に対するメッセージも届きやすいです。誰が主導権を握るのかでダッチロールするかもしれせんが、短期間で収れんするなら Everything OK 👍
22世紀に生きる企業にはどんな経営が求めれるのか。地球と人間が共存する社会が持続するという大前提が目の前に立ちはだかります。難問ばかりです。人間の行動から生まれるエネルギーをいかに抑え効率を高めるか、20世紀、21世紀の常識を一度ゼロに戻して自由な移動、遊び、仕事など日常生活をどう再設計するか。正解を探すために試行錯誤を繰り返すしかないのですが、すでに大量の燃料と酸素を消費するジェットエンジンを使った航空機、自動車の未来は霞んでしまっていますし、電車などによる通勤・通学、プラスチック素材を利用した食品流通システム、発展途上国の自然を破壊する農作物や鉱物資源の調達などグローバルネットワークはもう維持できなくなるでしょう。経済・社会の基本設計図は書き直しを迫られています。
21世期の経営は地球と共存できる設計図から逆算して再構築
企業が今、手掛けることは地球と共存できる設計図から逆算して事業を再構築することです。ただ、現実は従業員とその家族、株主ら多くのステークホルダー(注;あまり使いたくない言葉ですが)を考え、現時点の事業基盤をスタートラインに事業構造を修正するのがほとんどです。しかし、それでは「カーボンゼロ」「カーボンニュートラル」「グリーン」「再生可能エネルギー」というお決まりの字句が修飾語として並ぶ経営計画がずらりと揃うだけです。試しに東京証券取引所が掲載している適時開示情報閲覧サービス「TD net」をご覧ください。昨年からの1年間、「足並み揃え!」とばかりに大中小、企業規模を問わず「カーボンニュートラル」「サスティナビリティ」などをキーワードにした経営計画を発表していています。すべてを「グリーンウォッシュ」の言葉で一掃してしまう乱暴なことはしたくありませんが、実効性などを冷静に分析すれば数字の辻褄あわせ、すり替えと言わざるを得ません。
再生可能エネルギーを例に見ても、原子力発電所の新増設は不可能ですし、現在休止している原発が再稼働できるかどうかもみえていません。石炭火力・水力の新増設もかなり難航するのは確実です。自ずと将来のエネルギーとして太陽光や風力など再生可能な自然エネルギーに頼るしかありません。となれば、この1年間賑わしている「カーボンニュートラル」な動きは企業としてリスク覚悟で挑戦するというテーマではなく、むしろ一択しかない投資計画を選んでいるのに過ぎません。
お互いの不足を補える最強のEV提携
自動車メーカーであるホンダが目の前にある課題は9月30日に発表した「コア技術を生かした新領域へのチャレンジ」で見て取れます。2次元移動のクルマから空、宇宙へと広がる3次元移動できるモビリティの開発を主題に設定したほか、介護など高齢化社会を心身から支援できるロボット、社会活動の基盤となる循環型エネルギー再生システム、そして全ての活動を支える地球丸ごと、いや宇宙をもにらんだネットワーク基盤の構築が俎上に載っています。本田技術研究所が発表しているチャレンジですから、いずれも実現可能なテーマだと理解しています。しかし、自前の技術だけでゴールにたどり着くと考えているわけではないでしょう。
それではなぜソニーとアップルがパートナーとして相応しいのか。まずソニーには世界トップの視覚センサー技術があります。創業以来70年間以上も家電メーカーとして生活に関わる製品を開発した過程で人間の動きを熟知するノウハウを蓄積しており、「ウオークマン」などライフスタイルを変革した経験もあります。ゲーム、映画など映像技術を駆使したエンターテイメント、スマートフォンや映像機器、情報漏洩に強い「Felica」など社会インフラとして多くの実績を持つ情報ネットワーク技術、ヘルスケアなどBtoBの産業分野でも評価されています。ホンダがモビリティを3次元の時空世界で展開する際、人間の目や感覚に代わる技術と経験は不可欠ですが、いずれもソニーにかなうとは思えません。
そしてなぜアップルか。それはソニーを圧倒する製品化技術と新時代を創造するセンスです。最先端技術を最先端らしい新製品に仕上げ、世界に販売するマーケティングはソニーもホンダも脱帽せざるを得ないでしょう。iMac、iPod、iPhoneなどのヒットの歴史を振り返ってわかるのは、コア技術は自前でこしらえた後は世界から性能とコストパフォーマンスの優れた電子部品をかき集めて多くの人々が驚き、感動する新製品を拵えます。ソニーはゲーム、映画などエンターテイメントで優っていますが。スマホや時計で人間のメンタルも含めたヘルスケア、言い換えれば人間生活の満足度に関わるビジネスに変質させたのはアップルの凄さです。幸いにもアップルは自動車開発などモビリティに関心が高いようです。アップルもホンダと組めば欧米のブランド力を念頭にとてもスマートなクルマを開発できると確信するはずです。
アシモがアイボと散歩してアップルが木から落ちる風景が浮かびます。
ホンダは20世紀の巨人であるGMと提携を維持しても、過去の成功体験から描かれた延長線上を走るだけです。もう2、3年もすれば待ち構える大きな壁を乗り越えられなくなるのがわかっているはずです。
20世紀と21世紀の成功を積み重ねることに時間とエネルギーを浪費するよりも、22世紀のモビリティで未来を創生しましょう。ホンダがモビリティの基幹部品を製作し、ソニーが人間の神経ネットワークともいえるセンサー類を、アップルが斬新な発想から設計すれば、ホンダもソニーもアップルの誰もが思いつかなかった創造物が生まれるのではないですか。
ホンダのアイデンティティーはどうなるかですって?世界中の人々、社会に貢献できるただ唯一無二のモビリティを生み、地球と人類がまだまだ共存できる循環系社会の実現に近づくなら、本田宗一郎、藤沢武夫の二人は心底ホンダを創業して良かったと喜ぶはず。ホンダの魂が22世紀の未来を創生する源ですから。
アシモがアイボと散歩している時、りんごの木からりんごが落下するシーンを見て、地球と人類の共存する新しい法則を発見するーーーこの風景がもう見えています。