• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。
セナのポートレート

ホンダが消える 14)F1世代は遺伝しない オルタネート 次のDNA創造

 先週、加藤シゲアキさんの「オルタネート」を読みました。2021年2月に図書館で購読予約したので、10ヶ月ぐらい待ちました。ジャニーズ事務所の「NEWS」のメンバーで、直木賞候補作品です。話題満載のすごい人気作品ですものね。小説の冒頭、「F1」について説明があります。

 野菜の種をまいて育てるエピソードがあるのですが、第1世代を意味するF1の個性は基本的に次の世代に遺伝しないと説明している情景が描かれていました。そこを読んだ時、「そうだなあ、ホンダのF1も強さがなかなか継承できないモノだなあ」と全く関係ないF1が思い浮かび、苦笑しちゃいました。

ホンダにとってのオルタネート、F1

 その週末の12月12日、ホンダはF1シリーズ最終戦のアブダビグランプリ「でレッドブル・ホンダ」のマックス・フェルスタッペンがドライバー部門で初めて総合優勝しました。ホンダとしては、1991年のアイルトン・セナ(ブラジル)以来30年ぶりの獲得になります。車両のコンストラクター部門はメルセデスが8連勝でした。

 ホンダのF1プロジェクトを指揮した田辺テクニカルディレクターは1991年のセナ以来、チャンピオンの座から離れていることをとても悔しがっていました。単にチャンピオンになることが重要というよりは、トップを目指して努力する過程を最重要視していました。1960年代からホンダのF1を応援し、全盛期といえる1980年代後半からホンダを取材した貴重な体験を持つ自分としては、「苦難の時期を乗り越えて、よくぞここまで」と敬意を表したいです。

 しかも、アイルトン・セナは私にとってHEROです。F1ドライバーとして駆け出しのころ、握手することができましたし、ホンダのカレンダーとして登場したセナのポートレートはもう20年以上も部屋にかざり続けています。

セナ以来の30年ぶりのF1ドライバーズ・チャンピオンの意味

 しかし、ホンダの強さを考えると手放しで喜ぶわけにはいきません。今回の快挙がセナ以来30年ぶりのこと。裏返せば、30年間もホンダはF1で頂点に立っていなかったのです。この間、F1からの撤退、パートナーの変更などがあり、単純に一言で低迷の時期と言えるわけではないことは承知しています。30年間勝ち続けるなんて不可能ですし、経営状況によってF1よりも他の投資・開発を優先することがあって当たり前です。

 再び、しかしです。創業者の本田宗一郎さんが「レースで世界一」になることを掲げて本田技研工業のヒトとモノを世界水準にまで引き上げました。1980年代後半から90年代にかけて、F1の世界一はホンダだったのです。1992年、厳しい経営環境を乗り切るため撤退を表明せざるを得なかったとはいえ、なぜF1で成し遂げた世界一の力を次の世界一に向けて創出するエネルギーにギアチェンジできなかったのが不思議でしょうがありません。

 1990年代後半から2000年代前半までのホンダは経営の建て直しを終えた後、トヨタ自動車や日産自動車と同じ道を走り始めていました。トヨタにも日産にもない「世界一」を手にしたにもかかわらず、経営の規模拡大にエネルギーを使い果たしました。その結果が、車体は大きく見映えも新しいのにエンジンの性能が追いつかない凡庸な新車を生み出すメーカーに変貌してしまったのです。

 仮にホンダが次の「世界一」をめざしていたとしても、それはホンダ以外にあり得ない独創的な「世界一」はなく、規模だけが大きい世界一の自動車メーカーをめざしただけでした。現在、四輪車事業で利益が上がらないという不思議な経営内容を持つ企業になってしまったのも不思議ではありません

 F1の田辺さんは「一番をめざして本気でやったかどうかが自分たちの肥やしになる」といみじくもF1挑戦の真髄を語っています。次の世代が世界一になるにはその世代の必死さが問われていたのだと思います。

次のF1は「アシモ」だったのでは

 新しい世界一を創出するチャンスはありました。例えば歩行二足ロボット「ASIMO(アシモ)」。ロボット工学の進化だけでなく機械的な移動体の可能性を一気に広げました。視覚センサーはじめ人間工学、周囲を見極めながらバランスを保ちながら前進・後退するなど加速するクルマの自動運転、小型航空機の開発で得た3次元空間の移動に関する技術や経験。それぞれを積み上げていけば、世界のどの企業も成し遂げていない22世紀の移動モデルを開発するフロントランナーになるチャンスがあったはず。

セナはホンダに乗って銀河レースのチャンピオンをめざす

 残念なのはホンダのアイデンティティを「F1」そのものに限定し続けたことです。F1は自動車技術の粋を集めた最新鋭の結晶です。しかし、ホンダの経営が第1世代のF1まま30年間の時が過ぎていたのなら、ホンダが進化しているとは言えません。

 来年は2022年です。ぜひホンダの第2世代「F2」の出現をみせてください。胃袋がぎゅっと握られるほどの爆音が聞かれなくなるのはとても残念ですが、ホンダが未来を探して迷っている姿を見るのは胃袋がもっと痛くなります。アイルトン・セナはホンダに乗って銀河レースのチャンピンになりたがっていますよ。絶対に。

 

関連記事一覧

PAGE TOP