矢沢永吉「やっちゃえ日産」内田誠「改善しないならクビにしろ」次は「絶対に負けねえぞう」と誰か叫んで!
矢沢永吉さんが「やっちゃえNISSAN」と言い放つテレビ広告が今も好きです。日産自動車に「本当の元気」が戻ってきたのかな。そんな期待を感じさせてくれました。2015年から始まった企業ブランドを高めるキャンペーンでした。
2015年、元気が戻ってきた
ちょっとヤンチャな雰囲気を醸し出しながらも、本音は心優しい大人。幅広い年齢層に支持されるミュージシャンである矢沢さんが「おい、お前も頑張れよ!!」と日産の背中をド〜ンと押してくれます。これまでの苦難、そしてこれから待ち受ける障害を突き抜ける勇気をもたらす気がしました。
ちょうど日産が元気を取り戻していた時期と重なったこともありました。15年前の2000年、経営の実権を握ったカルロス・ゴーンは「V字回復」を連呼しながら矢継ぎ早に改革を実行。決算数字は改善しましたがコストカッターの異名通り、新車開発などの投資削減による数字の辻褄わせ。自動車メーカー本来の体力は確実に低下していました。
とても心配でした。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災を切り抜け、2014年ごろから増収増益の好決算が続き、矢沢永吉さんの「やっちゃえNISSAN」が登場しました。
日産に再び、挑戦の2文字が浮かんで見えてきたこともあります。例えば、環境技術で出遅れた新車開発。トヨタ自動車「プリウス」やホンダ「フィット」などハイブリッド車高い人気を集め、ハイブリッド車を持たない日産は苦戦を強いられていました。そのハンディキャップを打ち消すため、一気に電気自動車(EV)の流れに飛び込んでいったのです。
2010年12月、世界でも初めての5人乗り小型車「リーフ」を発売していました。EVの発売は2009年7月の三菱自動車「i-MeEV(アイミーブ)」に先を越されましたが、日本はじめ米国、欧州、中国でも販売。EV時代の到来を告げる画期的なニュースでした。正直言ってエンジン車に比べれば、走行性能や航続距離などは物足りません。でも技術陣が苦労しながら、リーフを仕上げた心意気は十分に伝わりました。
2017年には「ぶっちぎれ」とゲキ
その挑戦を表すかのように、矢沢永吉さんは2017年、「ぶっちぎれ技術の日産」と宣言します。そして「さあ、ぶっ飛ぶ準備はできているかい?」と熱く応援。日産は、EVと自動運転による安全で持続可能なモビリティ社会を目指す未来モデルを掲げます。トヨタやホンダを抜き去り、EVで「環境にやさしいクルマ」の先頭へ駆け抜けるのか。淡い希望とわかっていましたが、あえて期待したい気持ちもありました。
現実は厳しい。翌年の2018年11月、カルロス・ゴーン会長は金融商品取引法違反で逮捕。事実上のクーデターともいえる追放劇の後任社長となった西川廣人社長も2019年9月、不正報酬問題で辞任。3ヶ月後の12月に社長に就任したのが内田誠専務でした。日産は一気に混乱の極みの渦中に。
内田社長は、混乱を収束させるための経営陣を決める2020年2月の臨時株主総会では株主から強い批判を浴び、「経営に改善が見えなければ、すぐに私をクビにしてください」と自らの覚悟を示しました。しかし、日産を取り巻く現実は許してくれません。5月に発表した2019年度決算は1992年以来27年ぶりの巨額の赤字に。しかも、新たな経営陣から辞任が相次ぎ、崩壊へ。
2024年は再び世界でリストラ
経営改革に向けた「ニッサン・ネクスト」を発表し、ゴーン時代からの肥大化した経営体質の引き締めに努めます。掲げた目標自体に無理があったようです。4年後の2024年11月、日産が発表した2025年度中間決算は90%超の大幅減益を計上する惨憺たる内容でした。何度も目かのリストラを実施せざるを得ません。世界の生産力の2割をカットするほか、従業員の7%に相当する9000人を削減します。
ただ、経営責任の取り方が不明朗でした。内田誠社長が引き続き残留。CFO(最高財務責任者)に米国事業の担当役員が就き、現在のCFOは中国事業の担当役員に移ります。決算の大幅減益の主因は米国と中国の販売不振。大幅減益を招いた米国の責任者が財務戦略を担い、無謀な販売奨励金に警告を発しなかったCFOがもう一つの赤字要因の中国の責任者となる。よく理解できません。経営責任を明確するというよりは、内田社長の身内で周囲を固める人事としかみえません。
4年前、「クビにしろ」と株主に覚悟を示した内田社長。多くの株主が心配した通り、泥沼に足を取られ、窮地に立っています。株主から見たら「やっちゃった」と映っているかもしれません。
余計なお世話だと承知していますが、内田社長の次はだれが日産をリードするのでしょうか。「絶対に負けねえぞう」と腹の底から出す経営トップを期待しています。