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いすゞの古いバス

あの日野自動車が不正を!しかもいすゞの後塵を拝するなんて 野武士が公家に敗れる理由とは

日野自動車がエンジンの排ガスに関して不正事件を起こしました。

 2022年3月4日の発表によると、トラック・バスに搭載するディーゼンルエンジンの排ガスデータを不正に捏造し、実際の性能と異なるデータを国土交通省に提出していました。対象となるエンジンを搭載したトラック・バスは11万台を超えており、日野が1年間で販売する台数の2倍に相当します。小木曽聡社長は排ガス規制の達成と新車発売のスケジュールを厳守するため、排ガス関連の装置で不正な処理を施し、データを改ざんしたと説明します。第一報を目にした時、驚きました。「あの日野自動車が不正を犯すなんて!」

 日野自動車はトラック・バスでシェア30%程度を握る最大手で、特にトラックは40%程度のシェアに達します。大型車両の市場では圧倒的な力を持っています。自動車の話題は読者の関心がどうしても乗用車に集まるため、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダなどのブランドが目立ってしまいますが、日本経済の物流を担うトラック・バスはディーゼルを軸にしたエンジン開発で熾烈な競争を繰り広げており、開発現場は乗用車とは違った発想で進められ、とてもダイミナミックな世界です。個人的には日野自動車といすゞ自動車は技術開発、生産現場ともに最先端を走っており、取材していても新しい発見と驚きが常にあり、楽しかったものです。

日野は野武士、いすゞはお公家さん

 しかし、日野といすゞは全く対照的な会社でした。日野はもともとはいすゞの前身の会社から分離した自動車メーカーで、1966年にトヨタ自動車と提携した後も経営の独自性を守っていました。質実剛健の社風から「野武士」に例えられ、開発、生産の両現場はアドバルーンをぶち上げるなどはせず地味ながらも着実に成果を上げていきます。まさに日野の真骨頂でした。生産性を向上させるTQC(全社的品質管理)運動も熱心で、生産現場はカンバン方式で有名なトヨタ生産方式を上回るというのが専門家の一致した見方でした。工場内を歩くと、床面がとてもクリーン。工場の清潔度合いで生産性と品質がわかるといわれますが、日野の工場は黒煙を吐き出しながら走るトラックのイメージとは無縁(無煙の方かな?)です。

 心意気は「トラック野郎」そのもの。ホンダがF1にかけたように日野は「パリ・ダカール・ラリー」に出場し、若手技術者のやる気と挑戦を刺激します。あのデカいトラックが砂漠を疾走する風景はいまの流行言葉に例えれば「インスタ映え」します。だからこそ、日本でも最強の自動車メーカーと呼ぶ人がいたほどです。

 これに対し、いすゞは「お公家さん」と皮肉を込めて呼ばれていました。創業は1916年。日本の最古の自動車メーカーです。日産自動車の前身であるダット自動車製造などと並ぶ日本の自動車御三家を自負し、ブランドへの誇りは高いのですが脇が甘く「公家」と呼ばれる通り社風もおっとりしていました。事業の柱はトラック・バスでしたが、御三家としてのホコリ、失礼!誇りを捨てきれず乗用車生産に固執し続けます。私が大学生の頃は「117クーペ」「ピアッツア」などイタリアのカロッツエリア、ジウジアーロがデザインしたクルマは憧れの的でした。大学の同級生はポルシェか117クーペか、どちらを持っているかで「うちは富裕層」と誇示しているぐらいでしたから。小型車「ジェミニ」もその躍動感と個性で大評判になりました。SUVでは名車「ビッグホーン」、そして突出したデザインで圧倒的な存在感を示した「ミュー」。自動車史に残る名車を次々、世に送り出しています。でもトラックメーカーがどんなに優れた名車を発売しても、儲かるわけがありません。米GMとの提携を軸に富士重工業と米国で合弁生産するなど遠回りしましたが、結局はトラック・バスの専業メーカーとなり、日野の後塵を拝する地位に回ります。

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