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デンソーと織機が明かした高収益トヨタのからくり 公取委 「下請けいじめ」13社を公表

 「さもありなん」。なんとも古めかしい問わず語りが思わず口に出ました。デンソー、豊田自動織機、佐川急便、ドン・キホーテ、JA全農と続く13社・団体の名を見た時です。

思わず「さもありなん」と口に出ます

 公正取引委員会は2022年12月末、下請け企業とコスト上昇について交渉しなかった13の企業・団体を公表しました。独占禁止法の「優越的地位の乱用」に該当する恐れがあり、違反を認定しているわけではないものの、下請け企業が求めなくても取引上優位な発注企業が主導して中小企業の経営を改善させるのが狙いと説明しています。

 13社・団体は次の通り。デンソー、豊田自動織機、佐川急便、ドン・キホーテ、丸和運輸機関、三協立山、三菱食品、三菱電機ロジスティックス、日本アクセス、トランコム、大和物流、東急コミュニティー、全国農業協同組合連合会(JA全農)(順序不同です)。ほか4030社に対しても注意するよう文書を送りました。

 違反認定していないにもかからず、社名を公表するのは極めて異例です。調査は2021年9月〜22年8月までの期間。取引価格の引きあげを要請したのに応じなかった企業は4500社以上を数え、上位50社には立ち入り調査や報告を命じました。

公取委の巧みな深謀遠慮

 驚くのは13社を公表した公取委の深謀遠慮。巧みです。公表された企業・団体はいずれも一般にアピールする有名で身近な名前ばかり。しかも、あくまでも邪推ですが、これまでも違反すれすれと問題視していた企業が含まれているような気がします。例えば佐川急便。ヤマト運輸と並ぶ宅配便の雄ですが、創業者が急成長を目指して突っ走っていた昭和のころ、運輸関連の法令を無視して荷物を配送するため、摘発を何度も受けていました。企業イメージを変えるのに一生懸命ですがアウトサイダー気質はそう簡単に消えないのでしょうか。

 ドン・キホーテ。徹底した安売りで今やスーパーに負けない量販店の地位を獲得しています。ところが最近、プライベートブランド商品を増やし、割安な価格を維持しながら粗利益の向上をめざす無理難題な経営戦略に転換しています。目標を達成するためには納入業社との価格交渉がカギと見ていましたが、やはり「さもありなん」。

 JA全農は、農業関連ビジネスの頂点に立ちます。発言の威力は説明不要でしょう。不祥事が続く三菱電機。そして宅配便、通販、ネットを使った小売サービスなどを支える物流企業も目立ちます。社名を見た多くの人は、日常生活に不可欠なサービスを振り返り、下請け企業の厳しい経営状況を間近に見た思いをするはずです。

デンソー、豊田自動織機は高収益トヨタGの代表

 「長年、不正取引を監視してきた公取委らしいなあ〜」とため息が出たのは、デンソーと豊田自動織機の2社。日本を代表するトヨタ自動車を両脇から支える世界企業です。デンソーは自動車産業の技術最先端に立つトップランナー。トヨタも手こずるぐらいの実力を持ちます。豊田自動織機はトヨタ発祥の源。トヨタグループでは中堅規模ですが、創業家・豊田と陰に陽に様々なモノが重なります。両社とも地元の英雄、徳川家康に例えれば、譜代大名の元締め、幕府を仕切る大老ですか。

 価格の監視役を自任する公取委です。「いつかは、トヨタに手を入れたかったのだろう」と再び邪推してしまいます。

 トヨタは日本トップの高収益企業。2022年3月期は営業利益は前期比36%増の2兆9956億円。ほぼ3兆円。6年ぶりに最高記録を更新し、日本の企業でも過去最高です。2022年3月期はコロナ禍に半導体不足が加わり、多くの物価上昇が追いかけてきました。決算は経営努力の結果です。厳しいなかで過去最高を記録する経営手腕は賛辞しかありません。

 当然ですが、トヨタ系部品メーカーも好決算となっています。デンソーの営業利益は120%増の3421億円、豊田自動織機は34・6%増の1590億円。上場するトヨタ系列のトップクラスは親会社のトヨタと遜色ない収益力を示しています。この決算を見た知り合いの金融関係者は「トヨタグループ全体で儲かっているんだね」と感心したほどです。

 仮にトヨタが過去最高益を上げる一方、デンソーなど系列が大幅減益となっていたら、誰もが首を傾げます。まるでトヨタが系列から利益を吸い上げている構図が浮き彫りになるからです。実際はトヨタ系列の大手も高収益を計上しているので、異論が生まれるわけがありません。

トヨタの下請けから苦悩の声

 ただ、トヨタグループと取引する部品メーカーからは、収益低下に苦悩する声が広がっていたのも事実です。トヨタは毎年、定期的に部品価格交渉しており、交渉の場で数%の値引き要求されるのが通例です。部品を生産する機械や施設の原価償却、量産効果により原価は低減しているというのが前提です。この原価低減がトヨタグループ全体で無駄を省き、生産、価格両面で国際的な競争力を生み出してきました。

 ところが2020年以降、コロナ禍による需要低迷や半導体不足を反映して、自動車販売は欧米や日本を中心に足踏みが続いています。そこに物価上昇や人材不足が加わり、自動車に限らず事業採算が厳しくなっても不思議ではありません。トヨタは2022年に入って定期的に実施していた原価低減要請を見送り、二次下請けとなる部品メーカーの経営にも配慮をしています。

 しかもデンソーも豊田自動織機も公取委の視線をかねてから感じていたはずです。日本を代表する企業グループが「下請けいじめ」の汚名を着せられるわけにはいきません。公取委もトヨタなどの商取引習慣は熟知しています。それでも公表、名指ししました。かなり深く重い決断だったと思います。

中小企業の経営は存続の危機に

 公取委が13社公表に踏み切らせた背景には、中小企業の経営が非常に厳しい状況に追い込まれていることがあります。日本経済を牽引してきた産業ピラミッドのすそ野を支えながらも、利益を手にできない。経営の後継者も見当たらず、将来を考えたら、廃業しかない。中小企業の事業継承、M&Aビジネスが盛んになっているのは、こうした苦境を反映しているのです。

今回、デンソーと豊田自動織機の2社を名指したことは、ほかの系列企業を含めトヨタグループ全体に警鐘を鳴らした思いでしょう。もちろん、この警鐘はトヨタだけではありません。三菱など大手企業グループはじめ、かつて暗黒大陸と呼ばれていた流通業も対象に入っています。

「いじめ」よりも賃上げできる取引を

 2023年は政府も経団連も大幅賃上げをめざしています。本気で実現しようと考えるなら、「下請けいじめ」と呼ばれる行為をやめるしかないでしょう。戦国時代なら、家康から厚い信頼を背負った旗本が先陣を切ります。まずはデンソー、豊田自動織機が身を以て示すしかないのです。

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