ホンダが消える44「驚いた、何も決まっていない」600万台をめざした悪夢が蘇る日産との統合
驚きました。何も決まっていなかったですね。ホンダと日産自動車の経営統合です。予想よりテンポ早く記者会見を開いたので、どんな中身なのか注視しましたが、開けてびっくり玉手箱。パァ〜と立ち上がった煙が消えたら、箱の中身はすっからかん。長年、企業の提携、合併を取材してきましたが、発表内容はいわゆる作文。「ホンダは消える」のか心配しましたが、何も変わらないことがわかりました。
日産の窮地が浮き彫りに
クリスマスイブの前日、12月23日にホンダと日産は2026年8月の経営統合を目指し、基本合意契約を結んだと発表しました。共同持ち株会社を設立して上場、ホンダと日産はぶら下がる形になります。正式決定していませんが、三菱自動車も加わるのは確実です。ホンダの三部敏宏社長は新会社の社長と取締役の過半数をホンダが占めると言明していますから、共同持ち株会社といっても事実上、ホンダが日産、三菱自を吸収することになります。ホンダ、日産、三菱の社員、取引先などのみなさんは、驚きのクルスマス・プレゼントに戸惑っているはずです。
「両社の理念やブランドは引き続き残していく」と三部社長は話しています。日産はトヨタ自動車に次ぐ名門企業でしたから、その歴史と矜持を尊重する姿勢を見せたのでしょう。それでは経営改革はすぐに頓挫するはず。経営統合によって技術開発、部品の購買調達などを共同化することで1兆円の合理化効果を引き出すと説明していますが、ブランドや系列店などホンダにも日産にも三菱にもそれぞれ譲れない事情があります。メンツの衝突によって立ち往生する場面が目に浮かびます。
発表内容が薄く、統合効果を手にするまでの道のりが険しいにもかかわらず、2024年末に記者会見を開いたのは日産の経営状況が切羽詰まっていることの証です。今回の経営統合は「救済ではない」(三部社長)、「鴻海からの申し込みは一切ない」(日産の内田誠社長)と強調していますが、素直に受け止める人はいないでしょう。
仮に台湾・鴻海が日産の株式を取得するとしても、M&Aの常識から考えれば自ら買いに出るとは思えません。代理人ともいえる投資ファンドが市場の裏で画策します。すでに日産の株式取得でファンドが蠢いている情報が飛び交っていました。
ホンダが急いだ?
ホンダが「今回の経営統合を急いだ」という説もあります。朝日新聞は「複数の関係者が口をそろえる」と伝えています。EV時代の到来によって世界の自動車メーカーの力関係が大きく変わり、エンジン車で築き上げた強さが通用しなくなっているからです。駆動系、バッテリー、ソフトウエアなど多くの新技術開発を短期間で完成させなければいけません。新たなEVのビジネスモデルを構築するためにも、経営規模拡大による力勝負が必要と判断したようです。
EV世界最大手の米テスラをみてください。世界一の富豪に数えられるイーロン・マスク氏の資金力によって、開発と生産をどんどん加速します。事故やトラブルが相次いでも突っ走るのみ。テスラの背中に手が届くまで追撃する中国のBYDは、中国政府の後ろ盾があります。採算度外視とおもわれるコストでEVを組み立て、その安さで世界中を席巻しています。いくらホンダでもテスラやBYDなど中国メーカーの資金力にはかなわないでしょう。
もっとも、トヨタと世界一の座を争う独VWは、ホンダと日産の販売台数を上回る経営規模を維持しながらも、経営が悪化しています。経営規模イコールEVの成功を導く定理ではありません。
かつての伊東社長時代の失敗を思い出す
それでも三部社長は「自動車会社にはやっぱり規模が必要だ」と周囲に語っているそうです。この言葉を聞き、2011年4月に就任した伊東孝紳社長を思い出しました。「早く、安く、低炭素でお届けする」「2016年度に世界販売台数600万台」をいう目標を掲げました。当時の世界生産は300万台。倍増というとてつもない大風呂敷を広げました。なんとなく三部社長の経営と重なってしまいます。
当時は、1999年に日産とルノーが資本提携したほか、欧米、日本の自動車メーカーの合従連衡が始まります。創業以来、孤高を貫いてきたホンダが対抗するためには、自らの力で生産・販売台数を大幅に伸ばしかないと腹を括りました。開発、生産、販売で大胆な改革を実施し、「ホンダが変わった」との見方が広がりました。
結末は悲惨でした。過大な目標が現場へのプレッシャーに繋がり、フィットなどで連続リコールに端を発する品質問題が相次ぎます。車種も増え、全社的な開発戦略、生産、販売が身の丈以上に大きくなり、制御できなくなってしまいます。これがホンダが今も四輪車事業で利益を上げられない経営課題の根源です。
今度は日産、三菱と全く異なる社風との連携で世界第3位をめざします。単独でも混乱したのに、大丈夫?素朴な疑問です。1年8ヶ月後の2026年8月、果たして経営統合はゴールに辿り着くのか。