ニデックが牧野フライスにTOB 名門を喰らう勝負手にEVシフト失敗の焦りが
ニデックが工作機械の名門、牧野フライス製作所にTOB(株式公開買い付け)を仕掛けます。ニデックによると、牧野フライスは技術開発力、経営力が優れているにも関わらず、業績など企業価値向上が不十分。製品や事業がさほど重複していないので、傘下に入れば企業価値は高まり、円安下で海外からの買収攻勢も回避できるとしています。なるほどと納得しそうですが、むしろニデックの焦りを強く感じます。早急過ぎたEVシフトが失敗してしまい、事業再構築が待ったなし。世界のEVの激流を横目で睨みながら、名門のブランド、技術力を頼りに経営の仕切り直しを急ぐニデックが目の前にいるからです。
今回も同意なき買収提案
ニデックが牧野フライスを完全子会社化するTOBを発表したのが12月27日午前8時30分。6時間後の午後2時30分、牧野フライスは「事前の連絡は受けておりませんでしたが、今後、ニデック公開買付けに係る開示文書の内容その他の関連情報を精査した上で、当社の見解を公表する予定です」と発表しました。いわゆる「同意なき買収提案」です。日本ではまだ珍しいですが、ニデック創業者の永守重信氏とっては手慣れたもの。
1973年、小型モーターの日本電産を創業して以来、企業買収を通じて経営規模を拡大してきました。2023年もTAKISAWAに対し同意なき買収を提案。結局は同意を引き出して成功させています。牧野フライスの買収条件をみると、買い付け価格は1株あたり1万1000円。発表前日の終値7750円に対して40%以上も上乗せしています。受け入れるかどうかを検討する期間も余裕を持たせ、TOBを開始する期間を2025年4月4日から5月21日までに設定しました。
牧野フライスの時価総額は約1900億円。自己株式を除く全株を取得する場合の買収総額を試算すると、約2600億円になるそうです。直近のTAKISAWAの買収金額は143億円ですから、牧野フライスの場合は20倍近くも膨らみます。2030年には今後も継続する企業買収によって売上高3兆円の達成をめざすと宣言しているぐらいですから、買収金額はさらに拡大しても腰が引けることはないでしょう。
牧野の技術力、ブランドはかなりの魅力
なにしろ、ニデックにとって牧野フライスの技術力、ブランド力は喉から手が出るほどの価値があり、買収に成功すれば金額以上の”利益”が転がり込んでくるからです。牧野フライスは1937年の創業以来、世界で躍動する日本の工作機械をリードしてきました。NCフライス盤 マシニングセンター、放電加工機など製造業にとって欠かせない主力工作機械を日本で初めて開発しており、欧米アジアで製品に対する評価と信頼は際立っています。
ニデックも小型モーター以外に工作機械を新たな事業基盤に拡大していますが、主力は旋盤、歯車機械、大型工作機など。世界で高い技術力と品質が評価されている牧野フライスを取り込めば、ポカリと空いている工作機械の主力製品が埋まり、生産拠点、販売サービス網なども世界で相互補完できるようになります。そこに売上高2兆円を超えるニデックの資金力を加えれば、しっかりとした成長戦略を描くことができると踏んでいるわけです。
牧野フライスが欲しい訳がもう一つありますというか、こちらの方が大きな理由です。EVシフトで被った大きな痛手を治す新たな力が欲しいのです。
永守氏が会長兼CEOの時、小型モーターに続く次代の主力製品としてEVの駆動系基幹部品「電動アクスル」へ一気に突っ走りました。超強気が持ち味の永守氏ですから、目標値が高い。販売計画は2025年度に400万台、2030年度には1000万台と高く掲げました。EV市場が世界で最も早く拡大している中国に焦点を合わせ、稼ぎまくるはずでした。
EVの傷を癒すためにも欲しい
ところが、落とし穴にズドンとハマります。中国のEV市場は思惑通り拡大したものの、政府の後ろ盾を背に中国メーカーが採算度外視したかのようなEVの量産、駆動系など基幹部品の値下げが始まり、ニデックの電動アクスル事業は赤字が続き、今も青色吐息。2024年度は納入先を絞り込むとともに、計画目標も大幅に下げましたが、生産計画の下方修正を何度も余儀なくされています。
ニデックは機械メーカーとしては新興勢力です。名門の牧野フライスを飲み込む買収提案は、いくら資本の論理とはいえ世代交代の寂しさを覚えます。しかし、ニデックから見たら、そんなセンチメンタルな思いを抱く余裕など微塵もありません。EV事業の進出が失敗すれば、優良企業として高い評価を集めたニデックの将来は一変します。ユニコーンのごとく飛翔した後、地に落ちてしまい、普通の会社に変じてしまうでしょう。それにしても、「牧野フライス」には郷愁を覚えてしまいます。