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セブン&アイがMBO断念 日産をコピー&ペーストする惨めな結末が待っている
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。プロ野球の野村克也監督が座右の銘として使う有名な言葉です。江戸時代の平戸藩主で剣術家の松浦静山が残した名言がその由来ですが、企業経営の極意にも通じると頷いてしまう時があります。直近では、日産自動車とセブン&アイ・ホールディングスでしょうか。両社とも奈落へ落ちる様は瓜二つ。演劇の舞台に例えるのも失礼ですが、進行するシナリオ、舞台に登る役者のキャラも同じ。コピー&ペーストしているかのようです。
カルロス・ゴーン、鈴木敏文を追放したものの・・・
日産はカルロス・ゴーン、セブン&アイは鈴木敏文、産業史に残るカリスマ経営者を追放した後、独力で再建するのかと眺めていたら、やることなすことが的外れ。あれよあれよと息を呑む危機が続きます。日本を代表する有力企業と褒めそやされていた栄華はどこかに失せてしまい、今や誰もがその将来を心配する企業に成り下がってしまいました。
企業価値が低下すれば当然、外国の企業にとってはお買い得品に映ります。日産、セブン&アイは自力再建の道筋を描けるのか。あるいは外資の傘下に入って生き延びるのでしょうか。惨めな結末は見たくありません。
まず自力再建できるのでしょうか。日産はホンダとの経営統合を自らご破算にしました。赤字経営の泥沼にはまり込んでいるにもかかわらず、ホンダから提案された子会社化に「対等で協議するはずだったのではないか」と怒り、ちゃぶ台返しします。
内田誠社長は自身の社長就任を決定する2020年2月の臨時株主総会で「収益の改善が見えないなら、すぐに私を首にしてください」と株主に見栄を切りました。ところが、2024年9月中間期で事実上の赤字転落にした後も社長の座にすわり続けたまま。
自らリストラできない日産にとって、ホンダとの経営統合は神様が垂らしてくれた蜘蛛の糸のようなものでした。トヨタ自動車と並んで日本の自動車産業をリードしてきた誇りが邪魔したのか、せっかくのチャンスを蹴飛ばしたわけですが、経営を奈落寸前にまで落とし込んだ内田社長が居座っても日産に希望があるとはとても思えません。
日産の元副社長・関潤氏がEV責任者として在籍する台湾の鴻海精密工業が打診した資本提携もどうも乗り気ではないようです。再建シナリオも持たずに煮え切らない内田社長の胸の内を見透かしたように、菅元首相の名前まで登場する米テスラによる救済案まで飛び交う始末。そんな茶番を英有力経済紙が報道します。弄ばれています。
社長の力量が不足
セブン&アイは奈落へ落ちる日産の後ろ姿を追いかけているようです。2016年4月、創業者の伊藤雅俊氏に代わる実力者として君臨していた鈴木敏文会長を放逐します。
鈴木氏はコンビニエンスストア「セブンイレブン」を米国から持ち込み、徹底した数値管理で店舗の収益力と顧客吸引力を創造。日本の小売業界をスーパーからコンビニへ一新する革命を起こした人物です。セブン&アイもイトーヨーカ堂を軸とした総合スーパーからコンビニを主軸とする日本最大の小売企業グループに転進しました。社内の箸の上げ下ろしまでチェックするといわれ、妥協を許さない姿勢は批判を浴びましたが、セブンイレブンの高収益の前では全て沈黙するしかありませんでした。
愛弟子だった井阪隆一社長は鈴木会長に反旗を翻して経営の実権を握ります。セブン&アイの世代交代が始まると期待しましたが、グループの新陳代謝が止まっただけでした。頼りの「セブンイレブン」は収益低下が止まらず、これに伴い株価は低迷。企業価値は下がり、お買い得品レベルに。予想通り、2024年8月にカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールが買収を提案しました。
提案を拒否するために突然浮上したのが創業家を軸にしたMBO(経営陣による企業買収)。創業者・伊藤雅俊氏の次男、伊藤順朗氏はセブン&アイ代表取締役副社長を務め、創業家の資産管理会社、伊藤興業社長です。伊藤忠商事やメガバンクに声をかけて9兆円ともいわれるMBO資金をかき集め、非上場化して買収提案に対抗する作戦でした。当初は2024年2月ごろまでに手続きを開始する方針でしたが、寸前になって伊藤忠が参画見送りを決定。伊藤副社長らは資金調達が難しくなり、MBOを断念することになりました。
セブン&アイはクシュタールの買収を阻止するためにも、低迷する収益力を高め株価上昇によって企業価値を高める必要があります。ただ、事業の大黒柱である日米のコンビニ事業は低迷から脱しきれていません。このままでは井阪社長は日産の内田社長と同様、クビが怪しくなります。
企業価値を下げ続ける惨状を前に手をこまねいている不甲斐ない経営者を抱えた従業員のみなさんが可哀想です。