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日野の本社工場が消える 日本最強の工場と謳われた製造業の結晶が消える

 ちょっと信じられません。「ちょっと待って、待って」と言いたくなりました。日野自動車が東京都日野市の本社に隣接する日野工場を売却するそうです。1942年から軍用車両の生産を開始した日野工場は、その実績と革新力で日本のトラック生産技術をリードしてきた象徴の一つと思っていました。日本のトラックが世界市場でベンツやボルボに対抗できる勢力にまで育ったのも日野が牽引しながら、いすゞ自動車、三菱自動車、日産ディーゼル(現在のUDトラックス)がしのぎを削る競争が原動力となってきたのに・・・。それが消えるとは・・・。

不正は許されないが、工場を捨てるとは

 日本経済新聞によると、日野自動車は本社に隣接する日野工場をすべて売却する検討を始めたと伝えています。敷地の3分の1をすでに売却しており、残る用地も売却するそうです。三菱ふそうトラック・バスとの経営統合を2024年末までに終えるため、「エンジン不正問題で傷んだ財務基盤を立て直す」と説明します。

 日野工場の売却益は総額1500億円程度になるようです。すでに売却済みの用地で約500億円の利益を上げており、残る用地面積は2倍もあるので、売却益も1000億円以上を見込んでいるようです。日経新聞によると、日野工場の閉鎖に備え、茨城県の古河工場などに部品生産などを移管しているそうです。 

 日野自動車が財政面の不安を抱えているのは事実です。2022年3月に発覚したエンジン認証の不正事案の影響を受けて赤字経営に陥り、2024年3月期も連結最終損益で220億円の赤字と4期連続最終赤字を見込んでいます。当然、自己資本比率は26%と半減してしまい、有利子負債も3000億円を超えています。カナダやオーストラリアで不正認証に伴う集団訴訟などを抱え、重大な訴訟リスクが待ち構えています。経営破綻に至る前に万全な財務基盤に固める準備を進めるのは当然です。

 エンジン認証の不正はトラック性能の安全性や信頼性を損ない、許されるものではありません。それは大前提です。しかし、日野工場を手放した後に日野自動車に何が残るのでしょうか。日本のトップブランドとしての輝きを産み続けた日野工場です。この工場を捨てたら、ただのトラックメーカーでしょう。

 工場は建屋ではありません。過去の経験と失敗が蓄積され、より良い製品を生み出す源泉であり、製造業としての結晶です。長年の技術者の思いが蓄積しており、建物や用地など物理的に消える意味とは違います。その財産と重みは一度捨てたら、元には戻りません。

事実上の解体へ

 日野自動車の小木曽聡社長は事実上経営統合する三菱ふそうと進めるトラックの電気自動車(EV)戦略を踏まえ、「既存のディーゼルエンジンはかなりスリムにしていかないといけない」と話しています。三菱と開発、調達、生産などを一体化して、エンジン、車種などを整理整頓するのは間違いありません。近い将来のトラックの電動化を睨み、三菱ふそうとの統合で親会社となるベンツとの協業を検討し、将来的にも需要が残るエンジンについては大型エンジンはベンツ、中小型エンジンは日野と三菱ふそうと分業する方向に進むはずです。 

 冷静に鳥瞰すれば、日野自動車は事実上、解体の道へハンドルを切ったかに見えます。トヨタ自動車は、エンジン認証の不正をきっかけに日野自動車を事実上切り離し、その後の再建はベンツに任しているようです。ベンツからみればかつてのライバルである日野に対する未練は微塵もありません。三菱ふそうと共に飲み込み、世界のトラック市場でシェアを拡大する方が得策です。

生産現場の士気は低下?

 日経新聞によると、2023年7月以降、工場が相次いで稼働停止しているそうです。日野自動車は発注ミスで工具の納入が間に合わなかったと説明していますが、この程度のミスで工場が停止することはないと察します。記事では「生産現場で混乱が起きている可能性も示唆する」とありますが、生産現場の士気は低下するでしょう。

 日野は「世界のHINO」だったのです。日野工場の現場はトヨタ自動車も及ばぬ生産技術を誇り、その生産性は群を抜いていました。従業員の多くは三菱ふそうと一緒になるなんて思いもしなかったでしょう。トヨタは、日本の製造業にとって大きな財産を雲散霧消させているようです。

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