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ミネベアミツミ、芝浦電子を買収 キーエンスに迫る高収益モデルを新しい企業DNAで

 ミネベアミツミがセンサー大手の芝浦電子を買収します。芝浦電子は台湾の国巨(ヤゲオ)からTOB(株式公開買い付け)」を提案をされてましたが、最近流行の同意なきTOB。これに対しミネベアミツミは国巨からのTOBに対抗する友好的な買収提案、いわゆるホワイトナイトとして登場しました。事前の段取り調整があったのでしょう。芝浦電子はすぐにミネベアミツミの買収に賛同を表明し、決着となりました。

 でも、これで終わりではありません。ミネベアミツミと芝浦電子は日本が得意とする精密加工や電子部品、センサーを網羅します。この企業買収をチャンスに新たな経営モデルを創造し、高収益企業のキーエンスに迫る挑戦を見てみたい。

筋が良いM&A

 とても筋が良いM&Aではないでしょうか。合意なき敵対的とかホワイトナイトとか無関係に、この一言に尽きます。敵対的な買収提案といえば、ニデックによる牧野フライス製作所TOBが思い浮かびますが、ニデックの買収提案に比べて相乗効果がわかりやすく、鮮明に目に浮かびます。

 芝浦電子は1953年、サーミスタと呼ばれる温度変化で反応する電気抵抗の製品で創業しました。温度センサーとしてハイブリッド車など自動車、エアコンなど空調機器、家電製品と幅広い分野で温度計測や機器制御に利用され、技術力は世界でもトップクラスと評価されています。無駄なエネルギーロスを抑える神経細胞のようなものですから、地球環境の温暖化防止に向けて進化する機械製品に欠くことができません。これからもっと応用される分野は広がるでしょう。世界シェア13%を握っていることもあって、この4年間の決算をみても営業利益率は12〜18%で推移しています。台湾の電子部品メーカーが買収したいと提案する気持ちはよくわかります。

 ホワイトナイトを演じたミネベアミツミにとっても「おいしい案件」です。

 ミネベアミツミは、ボールベアリングのミネベアと電子部品のミツミ電機が2017年に合併して誕生した会社です。取扱製品はベアリングなど機械工部品から半導体、センサーなど電子部品、さらに2019年に買収したユーシンが生産していた自動車部品まであります。ざっと見ただけでも製造業に必要な製品を網羅していますが、これからは電気自動車、ロボット、さらに生産ラインの自動化が進み、半導体、電子部品の需要がもっと増えます。温度センサーが得意な芝浦電子が加われば、喉から出るほど欲しかったジグゾーパズルのピースを手に入れた気分でしょう。

ミネベアミツミが変革するチャンスにも

 しかも、ミネベアミツミはM&Aの歴史を切り拓いてきた先駆者です。今でこそニデック創業者の永守重信氏が第一人者として注目されていますが、日本のM&Aの歴史はミネベア2代目社長の高橋高見氏が1970年代から築き上げたものです。父親が鉄屑商から創業したボールベアリングメーカーを世界企業に育て上げ、1980年代は蛇の目ミシン工業、三協精機にも買収を仕掛けて経済事件のように騒がれました。

 高橋高見さんの活躍ぶりは1980年代は現役の経済記者として横目で眺めていましたが、批判を恐れずに発言し、実行する剛腕経営者が秩序を重んじる日本的経営を破壊するのではないかと期待した時もありました

 ミネベアミツミの貝沼由久会長兼CEOは、その高橋高見氏の娘婿。ハーバード大ロースクールを卒業後、弁護士を経て1988年にミネベアに入社しました。義父の高橋高見流とまではいきませんが、国内外でM&Aを重ねて1980年代のミネベアの殻をぶち壊し、新たなミネベアミツミを築き上げました。その経営手腕を米国の経済メディアは高く評価していました。M&Aが完了した後、芝浦電子の経営を阻害する事態が起こるとは思えません。

 ただ、経営課題が眼前に立ちはだかっています。ミネベアミツミは「お店」を広げすぎたのか、高収益企業とは言い難い。直近の営業利益率は5〜8%台と10%を割っています。優秀な製品を幅広く持ちながらも、多数の工場を運営しているため、販売や生産の効率向上が経営課題となっています。芝浦電子を買収しても、傘下に加えただけでは元も子もありません。

まずは営業利益率10%を突破

 キーエンスに迫る高収益を目指して大胆な経営改革に挑んでほしい。キーエンスは自社工場を持たずに協力工場に生産を委託するファブレス経営を維持しながら、自動化などで顧客の経営課題を解決する営業提案力で営業利益率50%を突破する高収益モデルを築きました。ミネベアミツミは自社工場を捨てるわけにはいきません。M&Aの先達としてのミネベアミツミを捨て、その代わりキーエンスに無い強み、言い換えれば幅広い製品を生産する自社工場を持っているからこそできる提案力を養い、営業利益率10%の壁を破る挑戦を期待したい

 M&Aで事業規模を拡大する時代を過ぎ、M&Aで取り込んだ新しい企業DNAで自らが変革する時代が始まっているのです。あのキーエンスも真似できない経営モデルはきっとあるはずです。

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