
公取委、快進撃ロピアを立入検査 人気スーパーを手玉に一罰百戒
巧みな振り付けに「うまい!やるねえ〜」。思わず掛け声が出そうになりました。公正取引委員会が繰り出す下請けいじめの摘発です。
公取委は食品スーパーのロピア(川崎市)を独占禁止法違反の疑いがあるとして立ち入り検査しました。ロピアは関東を中心に北海道にも店舗網を広げており、現在は19都道府県118店舗。ここ数年は消費者物価の高騰もあってスーパーの生き残り競争は激化しており、イトーヨーカ堂が全国で相次いで閉店する一方、ロピアなど新興勢力がヨーカ堂や西友に代わって居抜きで開店し、店舗網を広げています。
安さを武器に急成長
公取委の立ち入り検査も、新規開店絡み。開店準備の際、納入業者から人員を派遣してもらって商品の陳列や補充などを手伝ってもらったそうです。人件費を払えば問題はありませんが、むろん派遣費、人件費は払っていません。ロピアは急速に店舗網を全国で増やしているため、人員が足りず納入業者などから応援をお願いしたつもりかもしれませんが、人件費を払わずに取引企業の人員で人手不足を補えば独禁法違反の不公正な取引方法に違反する疑いが出てきます。
ロピアが違反の疑いをかけられた行為は独禁法上の「優越的な地位の濫用」にあたります。発注する企業が納入企業に対し優位な立場を利用して、自社の利益のために無償行為を強いる行為です。ロピアの場合、経営規模が急拡大しているだけに、取引扱い量が増えている企業からみればロピアからの従業員派遣の要請を求められれば断ることはできないでしょう。
ロピアはHPで謝罪文を公表しています。
本件を厳粛に受け止め、調査に全面的に協力するとともに、社内のコンプライアンス体制の見直しに着手しております。お取引先様との公正な取引関係に反する行為により、多大なるご迷惑とご負担をおかけしたこと、そしてお客様をはじめ関係者の皆様にご心配をおかけしたことに対し、深くお詫び申し上げます。今回の事態は、弊社の認識の甘さに起因するものであり、深く反省しております。今後は、公正取引委員会のご指導を仰ぎつつ、再発防止に向けた実効性ある是正措置の策定と実行に全力で取り組んでまいります。
テレビで話題のスーパー
小売業に対する「頂門の一針」。公取委が今回、ロピアを選んだ狙いはこの言葉に尽きるのではないでしょうか。
ロピアはOICグループの傘下にある食品スーパーですが、グループにはアキダイなど食品の安売りで名を馳せたスーパーや商店があります。ロピアやアキダイはテレビのバラエティやニュース番組に度々登場しており、アキダイの店長はテレビ番組が持ち掛けるテーマを的確に解説する消費最前線のコメンテーターと思えるほど登場します。
巧みなメディア戦略が急速な全国展開と相乗効果を生み、グループ企業に多くのお客さんが集まり、売り上げを押し上げることに成功しています。親会社のOICグループは2025年3月期で売上高5213億円ですが、この10年間で7倍以上も増やしており、店舗数も5年間で倍増しています。このうちロピアは3000億円を超える中核企業です。2022年以降は新規開店が50店というのですから、人手不足に追われるのもわかります。
ただ、急成長しているだけに、従業員の不祥事、原産地の不当表示なども相次いでいます。ロピアのHPには公取委の立ち入り検査を受ける前の6月4日付けで鮪の原産地名表示に関するお詫びが掲載されています。原産地を明記せず「輸入または国産」とあいまいなまま商品として販売していました。食品の安全管理の基本が欠如しています。数字だけを追いかける経営戦略に追われ、経営管理が追いつかず、店舗を運営する人材が育っていない証です。
百戦錬磨の公取委からみればロピアは脇が甘い。失礼ながら、叩けば埃が出るのがわかっていました。
流通業界への警告
流通業界は昭和の頃、「暗黒大陸」と呼ばれ、不明朗な商慣習が当たり前でした。百貨店、スーパー、問屋、アパレルメーカーなど流通産業で働いた経験がある人なら、応援と称して無償で取引先企業で働くことは常識と理解しているかもしれません。原産地の偽装もよくあることでした。北海道のえびが石川県の小松空港を経由して築地市場にたどり着いたら、「北陸の甘エビ」になっていたのです。令和になってさすがに昭和の商慣習はかなり是正されているはずですが、流業界を見渡せばロピアは氷山の一角かもしれません。
「しっかりと監視しているぞ」。公取委はロピアを一罰百戒として他のスーパーなど流通業界へ警告したのです。