
トヨタ、VW、フォードのEV戦略、トヨタはかなり出遅れ、追撃は苦戦しそう
電気自動車(EV)の普及が息を吹き返します。現在は足踏み状態ですが、最大の障害となっていたバッテリー性能が向上し、走行距離がエンジン車と比べても遜色ない水準に迫ってきました。価格も既存のエンジン車の値上がりもあって割高感は以前よりは収まってきました。最近、開催したEVの試乗会は、主催者が驚くほど参加者が多く、潮目の変化を感じていました。
もっとも、日本のEVはかなり出遅れています。国を挙げて推進する中国はすでに市場の過半がEVですし、欧米メーカーも先行き不安で躊躇しながらも新車を投入しています。世界のEV市場拡大が加速した場合、日本のEVは巻き返しできるのでしょうか。トヨタ自動車、独フォルクスワーゲン、米フォードを比較しながら、その距離感をみてみました。ちなみに参考資料は2024年時点です。現状とそれなりの誤差は否めませんが、立ち位置はそう変わりません。
トヨタのEV比率は1・3%
まずトヨタ。2024年のEV販売台数は前年比34%増の14万台程度。レクサスブランドを含めたトヨタの世界販売は前年比1%減の1015万9336台で、2年連続で1000万台を上回りました。世界一の販売台数を誇るトヨタですから、全体に占める比率は1・3%。前年は1%を切っています。増えてはいます。ただ、国内販売は30%減の2000台。全然、力が入っていないのがわかります。
EV比率が低いのは、豊田章男会長が旗を振る「全方位戦略」によるものです。エンジン、ハイブリッド、EV、燃料電池と4種類の動力源を需要動向に合わせて開発、生産する考えです。自動車は日本経済の基幹産業であるため、脱炭素の切り札と持て囃されるEVへ一気にシフトしたら、エンジン車で築かれた自動車産業の裾野が崩壊してしまうと判断し、EVシフトにブレーキをかけました。
EVに欠かせない技術がまだ発展途上だったこともあります。バッテリーの蓄電技術が未熟なうえ、主要道路や施設に充電設備が不足していました。エンジン車と違ってバッテリーや駆動系基幹部品は量産効果が出ておらず、主要部品はかなり割高。EVの車両価格はエンジン車の高級車並みの水準に高止まりしていました。
結果論ですが、トヨタにとって追い風が吹きました。EVの需要が一巡した後、EVの使い勝手の悪さなどが広く伝わり、エンジン車とEVを足して2で割ったハイブリッド車が高い人気を集めます。世界で初めてハイブリッド車を発売したトヨタですから、品揃えは豊富。5兆円を超える利益を生み出す原動力となりました。
しかし、ハイブリッド車の高い人気は足枷にもなります。高収益を生み出すだけに、ハイブリッド車からEVへシフトするのが難しくなります。高級ブランド「レクサス」を中心にEVを拡大する計画ですが、大量の台数を見込めるトヨタブランドのEVシフトはどうしても遅くなります。EV比率が10%に迫るのはまだまだ先の話です。
VWは8・3%
フォルクスワーゲンは2024年、EVを3・4%減の74万4800台販売しました。トヨタの5倍以上です。世界の販売台数は前年比2・3%減の903万台ですから、全体に占める比率は8・3%程度。車種もハッチバックの小型車、クーペ、SUV、ミニバン、上級車とフルメニューを用意しています。
欧州車メーカーは、欧州連合(EC)が早くからEVへ転換する政策を打ち出したことでEVシフトが進んでいます。VWは欧州と並ぶ主力市場である中国もEVを後押しする優遇政策を打ち出したことも加わり、EVに力を入れざるを得ませんでした。結果論ですが、これが裏目に出ました。欧州市場のEV販売が一巡した後、BYDなど中国勢の割安なEVが席巻したうえ、肝心の中国市場でも中国製EVに太刀打ちできず、販売は不発に終わりました。
VWは急速な業績悪化によって創業以来初めて独国内の工場閉鎖を検討するほどの事業改革に追われています。ただ、フルメニューの品揃えを持っているうえ、EVの品質は中国製を上回ります。中長期的に需要予測を考えれば、EVが立ち上がってきた時には着実に収穫できる実力があります。自動車メーカーとして脱炭素を主導している経営姿勢を評価され、VWブランドが高まるはずです。
フォードは4・7%
フォードは2024年、EVを34%増の9万7865台を販売しました。世界販売は207万8832台で、EVが全体に占める比率は4・7%。
米国はテスラがいち早くEV市場を創造する役割を果たしたため、GMやフォードはテスラ旋風に惑わされたのか、EVシフトに逡巡した時期がありました。バイデン大統領は脱炭素政策の一環としてEVの助成金を拡充したことによって、GM、フォードは背中を押された形でEVの開発を進めています。
しかし、逆風が吹き始めました。地球温暖化による気候変動はフェイクだと主張するトランプ大統領の復権で、EVへの助成制度は終了しました。米国のEV市場はどう変わるのか。テスラは中国製EVに対抗するため、割安なモデルを開発中。フォードはトヨタ同様、ハイブリッド車の拡充を急いでおり、販売台数も増やしています。EVが再び停滞したら、GM、フォードはどうなるのか。トランプ関税もあり、経営の先行きは不安定になりそうです。
トヨタ、VW、フォードのEV戦略をざっと見渡しました。トヨタの出遅れ感はかなりのものです。走り出したら、かならず結果を出すトヨタですから巻き返しが楽しみですが、VWなど欧米メーカーとの差はかなり開いています。EVは新車を増やせば伸びるという物ではありません。販売、メンテナンスなど幅広い体制整備も急務です。割安価格で世界のEV市場を席巻する中国勢との競争も待ち構えています。周回遅れの現状を考慮すれば、トヨタの力技を持ってしても苦戦が続きそうです。