
ホンダが消える53「宇宙輸送船」は第2のアシモになるか マスクを悔しがらせて
ジャパン・モビリティショーのホンダ・ブースで最も注目したのがロケット。世界で最も売れているビジネス機「ホンダジェット」の実物大モデルと21世紀のホンダを担う電気自動車(EV)の「ゼロ」シリーズに挟まれる形で展示されていました。多くのマスコミはEVに向かっていましたが、引き寄せられるようにロケットの前に立ち、見上げていました。
スペースXと同じリサイクル型ロケット
ホンダのロケットはリサイクル型。米テスラのイーロン・マスクCEOが宇宙事業会社「スペースX」で成功した再使用型ロケットと同じ発想です。従来のロケットは打ち上げたら終わりの使い捨て。ホンダのロケットは役割を終えたら逆噴射で発射地点に舞い戻ってきます。巨額の費用が当たり前だったロケットの打ち上げはかなり割安に。
初めての発射実験は成功しました。2025年6月、北海道・大樹町のホンダ専用施設から打ち上げられて高度271・4 メートルまで上昇した後、再び陸上に舞い戻りました。 飛行時間は56・6秒。着地目標とわずか37センチの誤差。すごい!。
モビリティショーに展示されたロケットは発射実験した現物です。全長6・3m、直径85cm、重量1トン超。一度、打ち上げ済みですから外観は汚れています。でも、その汚れが良い。ピカピカに輝くロケットのイメージと違い、なんとなく親近感があります。昔、夢中になった手塚治虫の「火の鳥」の一コマに登場するロケットの雰囲気を醸し出します。不思議です。
「ホンダはロケットと呼ばない」
ボッと眺めていたら、本田技術研究所の担当者が説明してくれました。「なぜロケットを開発したのですか」と質問したら、まず2021年に公表したホンダの未来を説明してくれました。空を飛ぶクルマ、人間と助け合うロボット、地球と宇宙を結ぶロケットを開発、生産する企業に進化し、リサイクルを軸に循環型環境社会に貢献することを目指すものです。
「人型ロボットのアシモは人間をサポートするできますが、ロケットはどう人間と関わるのでしょうか」と質問したら、ホンダの担当者は「私たちはロケットと呼んでいません。宇宙輸送船と呼んでいます」と念押しし「なぜ宇宙輸送船」と呼ぶかも説明してくれました。
宇宙輸送船は、自動車など移動するモビリティの延長線上にあり、人や物を宇宙に運ぶと役割を表現しているそうです。車と同様に繰り返し再利用できれば、宇宙へ人や貨物を運搬する事業コストは低減できます。
なるほど!、でも、「宇宙輸送船は自動車やジェット機の技術を応用するだけでは開発、事業化できないでしょう?」と重ねて訊ねたら、「正直、将来はどうなるかはわかりません」と率直に答えてくれました。ただ、将来がどうなるか見通せなくても「自分たちの技術を活かして、車以外に何が創れるのだろうか。そんな思いで研究開発しています」と続けます。
29年前に聞いたアシモと同じ思いが今も
ドキッとしました。29年前、ホンダが世界で初めて開発した二足歩行できる人型ロボット「アシモ」の技術者から同じ答を聞いていたからです。一瞬、当時の本田技術研究所の空気も蘇りました。目の前の技術を磨き上げる努力は続けるものの、目標はまだ遠い。でも、焦らずに着実に前進することに専念する。失敗するかもしれないけれど、成功するかもしれない。それで良いのだ。
人型ロボットの研究は今から39年前の1986年から始め、10年後の1996年12月に世界で初めて二足歩行する人型ロボット「P2」を発表。本業が自動車を開発、生産するホンダが人型ロボットを成功させたことで、世界の研究者を驚かせました。2000年には「アシモ」が誕生し、人間とロボットが暮らす社会が現実のものとして目の前に登場したのです。
人型ロボット「アシモ」の進化は公表されていませんが、蓄積された研究成果はホンダのEVの生命ともいえる基本ソフトウエアとして生き続けています。ホンダが未来を託すEV「ゼロ」シリーズの頭脳であり、ホンダのDNAとして継承されていきます。宇宙輸送船の研究もアシモ同様、宇宙事業の枠にとらわれずホンダの未来を支える技術に進化し、新しいモビリティ社会のインフラに生まれ変わるのではないでしょうか。
イーロン・マスクに負けるな!
ホンダには強烈な個性を撒き散らすイーロン・マスクは居ません。しかし、本田技術研究所に蓄積された技術と経験を基盤に若い技術者が挑戦できる企業風土が堅持できるかぎり、テスラには絶対に負けないでしょう。そして、誰もが全く想像もできないホンダの未来を創造し、イーロン・マスクを悔しがらせるはずです。


 
 
 
 
