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ホンダが消える55「アフィーラ」はアシモ、アイボと共に走る

 ホンダがソニーと共同開発した「アフィーラ」の素晴らしい機能を体感したら、なぜか既視感を覚えました。そうだ!、映画「日の名残り」に登場する執事が発する気配と同じなのです。ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の小説を映画化したもので、主人公は英国貴族に仕える執事。主人の好み、行動を知り尽くし、万全の準備を手配する「執事」を極めた人物です。映画は執事に徹する自分自身の誇りと人間としての葛藤を描いた傑作です。

優秀な執事の気配

 「アフィーラ」は、高度な知能を兼ね備えた電気自動車(EV)に仕上がっています。ドライバーが近づけば、フロントグリルのディスプレーには「お待ちしていました」と表示され、語りかけます。ドアは自動で開き、座席は乗り手に適した位置に移動します。

 運転席に座って目的地を告げると、渋滞など交通状況を確認したうえで最も時間的なロスが少ない経路を決定。仮に法規制で完全な自動運転が認められていれば、そのまま発車。ドライバーはハンドルを握っていなければいけませんが、実際の運転はレーダー、レーザー、カメラなど車内外に設置した40個のセンサーがドライバーに代わって360度監視しながら、安全運転します。

運転席からの風景

 自身で選ぶことはといえば、ミュージックなどエンターテイメントをどれにするか。好きな曲を決めれば車内28ヶ所に埋め込まれたスピーカーが高品質の音を奏でます。ノイズキャンセル機能がありますから、車外の騒音が邪魔しません。たとえ大音量で好きな曲を楽しんでも、ドアに嵌め込んだガラスが車外に漏らしません。思う存分、音楽に浸ることができます。

 ソニーが世界が熱狂した携帯音楽再生機「ウオークマン」を開発しましたが、「アフィーラ」は目的に到着するまで全身丸ごとで音楽の醍醐味を味わせてくれるのです。学習能力が高いクルマですから、きっと運転席に座るだけで今日の気分に合うミュージックを選曲するはずです。

果たして幸せな空間?

 疑問が湧きました。「あれ?、これって幸せな空間なのか」。ドライバーは運転に神経を使うことはありませんが、元々運転そのものが苦痛なわけではありません。むしろ、楽しいのです。周囲の状況を判断して、自分の運転を判断する。遠回りになったとしても、全く予想もしなかった美しい風景やグルメに出会う偶然を楽しむことができる。例えが良いかどうか疑問ですが、場面ごとに決断するロールプレイング・ゲームで成功、失敗を楽しんでいるのです。

 実車を試乗していませんから、「アフィーラ」のテイストを完全に体感しているわけではありません。ただ、車重は2・5トンとトヨタ「ランドクルーザー」並み。運転の機敏さはどのくらい期待できるのか。すでに受注を開始している米国なら、道路が広くハンドルの切れ具合に不満は生まれないでしょうが、狭い道路が多い日本の住宅街ではハンドルの切り返しなどでドタバタする可能性もあって、軽快なドライブングは期待できないかも。

 アフィーラは世界市場を睨んだEVですし、価格も9万ドル以上と富裕層向けを想定しています。それだけに世界トップレベルの知能を期待できるEVだとしても、他の高級EVと差別化できるのか。言い換えれば「アフィーラ」のブランド価値を高めるにはもっと尖った個性を加える必要があると思います。

 テスラは人工知能が人間を超える近未来をにらみ、人型ロボット「オプティマス」を開発しています。ロボットが日常生活で人間をサポートする社会を想定しており、「オプティマス」の技術とソフトウエアを基にEVを進化させようとしてます。オプティマスといえば、ロボットが自動車に変態できる「トランスファーマー」の主役です。EV「テスラ」がトランスフォームするとは思いませんが、人間と友人のように過ごし、共に移動するモビリティーに進化するかもしれません。

開発にはアシモ、アイボの経験が注入

 実は「アフィーラ」を開発するソニー・ホンダモビリティの川西泉社長は、ソニーが開発した「aibo(アイボ)」の開発責任者でした。そしてホンダの次世代EV「ゼロ」シリーズの車載OSの名前はアシモ。アシモOSは車の制御を統合する基本ソフトで、人型ロボット「アシモ」の開発で培った外界認識技術や人の意図をくみ取る技術を活用しています。すでにテスラより先に技術開発と経験を積み重ねているのです。

 ホンダのアシモもソニーのアイボも世界を驚かせた先進的なロボットです。アシモはコーヒーを運んだり、重い荷物を持ったりと人間に代わって重労働をこなします。アシモはペットの犬や猫と同様に飼い主や家族に寄り添い、癒しの存在になりました。

「アフィーラ」が進化するに伴い、時にはアシモ、時にはアイボにトンラスフォーム。常に人間を支え、楽しいモビリティとして癒してくれる。執事というよりは親友に。そんなモビリティなら、もっとクルマが大好きになる人が増えるはずです。

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