
インドはもうすぐ自動車大国 マザーサンがマレリに買収提案、次は日産も?
インドが自動車大国に向けて疾走しています。自動車部品大手のマザーサン・グループが経営再建中のマレリホールディングスに買収提案しましたが、2024年3月にはホンダ系の八千代工業を傘下に収めています。かつて自動車大国だった日本の技術やノウハウをインド企業が着実に取り込んでいます。新車市場はすでに中国、米国に次いで世界第3位。産業の底力である部品メーカーが育てば、近い将来中国を抜く自動車大国に飛躍するでしょう。
インドの新車販売は世界第3位
マレリは5月26日の債権者集会で私的整理に向けた新たな再建計画を提案しました。マザーサンは、米投資ファンドのKKRからマレリの株式の譲渡を受けるほか、みずほ銀行や国際協力銀行など約10社が保有する債権をすべて買い取る方向です。私的整理ですから、約6500億円とみられる金融機関の債権は2割程度に評価して購入するほか、マレリに新たに1000億円出資。過去の負債などを含めると、投入する資金は2800億円にのぼるそうです。この提案に対し、みずほ銀などは賛成していますが、外国系金融機関は反対しており、6月上旬をめど最終結論を出すそうです。
買収が成功すれば、マザーサンにとってマレリは良い買い物です。なにしろ、前身はカルソニックカンセイ。もっと遡れば日産自動車系列のカルソニックと関東精機が合併した会社です。電子機器、空調システム、熱交換器、コンプレッサーなど自動車の基幹部品を扱っており、今では比較するのも失礼ですが、トヨタ自動車系列のデンソーと同じ役割を担っていました。
供給先の日産や欧米メーカーを傘下に収めるステランティスの経営不振で業績が悪化。KKRが買収した後も再建できず、足元はふらふらしていますが、日産はじめ日本の自動車メーカーを支えてきた技術力やノウハウが豊富にあります。自動車市場が順調に拡大し、これに伴い自動車生産が増えているインドにとって基幹部品の開発・生産拠点を手にいれるメリットは十分にあります。
ホンダ系八千代工業も買収
マザーサンは賢明です。2024年3月にはホンダ系八千代工業を165億円でTOB(公開買い付け)し、傘下に収めています。八千代はホンダの連結子会社としてガソリン車向け燃料タンクなど内外装の樹脂部品を生産しており、ホンダ車の品質を支えてきた重要な系列部品メーカーの1社でした。ホンダは手放した後も、八千代の株式19%を保有しており、マザーサンと合弁会社として連携しています。マザーサンがホンダの技術やノウハウを取得するには最適な相手でした。
日本の自動車産業ではエンジン車から電気自動車(EV)への移行をにらみ、エンジン関連の部品メーカーのスクラップ&ビルドが進んでいます。2040年にEV・燃料電池車へ全面転換を宣言したホンダが八千代を切り離したのは典型例です。マレリの場合は、日産本体同様、経営戦略のまずさを忘れるわけにはいきませんが、EV時代に対応できない部品メーカーは振るい落とされる一例です。
インドの自動車産業は、インドの新車販売は522万台を超え、3年連続して日本を上回っています。マルチ・スズキが4割以上のシェアを握っていますが、タタ・モーターズやマヒンドラ&マヒンドラなどインドの自動車メーカーが着実に伸びています。スズキが主導権を握っているマルチも元々はインド資本で、今やスズキの経営を支える大黒柱になっています。人口は中国と並ぶ14億人を超え、今後の経済成長を考えれば、新車市場はまだまだ拡大します。
マルチ・スズキのSUVは日本でも大人気
品質も向上しています。スズキが輸入を開始したマルチで生産したSUV「ブロンクス」は日本でも大人気を集めています。開発・生産技術は世界で最もうるさいといわれる日本の消費者を満足させているのですから、十分に世界に販売できます。当面は新車の主力はエンジン車とみられるため、日本の部品技術を十分に活用できます。
マザーサンなどインド系部品メーカーが日本の技術を取り込みながら進化したら、インドが中国に迫る自動車大国になる日は近いでしょう。どうせなら、日産も買収したらどうでしょうか。台湾の鴻海精密工業に買収されるより、インド系資本の傘下に入った方が将来の経営戦略は明るいはずです。旧カルソニックカンセイを買収するぐらいですから、日産を買収しても元は取れるでしょう。中国市場から事実上、締め出されている日本車メーカーにとって日本とインドの関係強化は必須です。良いアイデアと思いますが。