トランプ関税との根比べ 敗者は決まっている 教皇気取りの米統領

 ローマ教皇を決めるコンクラーベがバチカンで始まりました。亡くなられたフランシスコ教皇を継承する新たな教皇は、枢機卿の選挙で選ばれます。投票権を持つ80歳未満の枢機卿を候補者に3分の2を得票する人が出るまで投票が繰り返され、時には延々と続くことがあるそうです。世界のカトリック教の頂点に立つ人物を決めるわけですから、教皇選挙を巡る枢機卿同士の権謀術数はおもしろおかしく語られており、アカデミー賞の脚色賞を受賞したばかりの映画「教皇選挙」が大ヒットするのもわかります。

塩野七生はコンクラーベを根比べ

 コンクラーベは大学生の頃に知りました。当時、イタリアの歴史に詳しい塩野七生さんの著作にハマっていました。著作「チェザーレ・ボルジアあるいは優雅な冷酷」「神の代理人」などで教皇決定まで延々と続くコンクラーベを日本語の「根比べ」と重ね合わせて説明、バチカンという全く知らない世界にもかかわらず、なぜかスッと腹に落ちた記憶があります。

 今回のコンクラーベも遠いイタリア、バチカンの世界の出来事と思えません。日本はコンクラーベと並ぶ、あるいはもっと超える根比べを強いられているのですから。

 トンラプ関税です。トランプ大統領は4月2日、相互関税の発動を発表しました。すべての国に一律10%の関税を課すほか、それぞれの国が設定した関税や非関税障壁を評価し、より高い税率を上乗せします。日本の場合、24%の関税が課されました。トランプ大統領は「4月2日は米国の産業が再生した日、米国が再び豊かになりだした日として、永遠に記憶されるだろう」「米国史上最も重要な日の一つだ」と自画自賛します。

 決着はみえています。米国経済の自壊が始まります。世界最大の経済力は衰え、誰も止めることができなくなるでしょう。長年、貿易摩擦、言い換えれば経済上の戦争を眺めていましたが、どう考えても産業の再生どころか、米国経済が疲弊するのは確実です。

自動車生産は簡単じゃない

 例えば自動車。日本車など海外から輸入する自動車を米国内で生産するよう求めていますが、自動車生産はそう簡単ではありません。エンジン車の場合は3〜5万点、電気自動車(EV)の場合でも1〜2万点の部品を調達して組み立てます。たとえ工場の建屋が出来上がったとしても、生産車種に合わせたカスタム仕様の部品を生産する部品メーカー、工場要員などが手配できなければ工場は稼働できません。いわゆるサプライチェーンを米国内で築き上げるには、5〜10年ぐらいの年月が必要でしょう。

 この根比べは、米国が耐え切れないでしょう。消費者は相互関税で価格が上昇した車を買い続けるのです。自動車に限らず多くの製品で価格が上昇するのは確実。GDPの3分の2を占める個人消費が沈滞すれば、米国の疲弊は加速するでしょう。

 すでに米国の敗因を裏付ける経済指標が相次いでます。IMFが公表した最新の世界経済見通しによると、2025年の経済成長率は2・8%。トンラプ関税の影響を加味して1月時点の予想よりも0・5ポイント引き下げました、日本は0・5ポイント低い0・6%となりましたが、トランプ関税を発動した米国は0・9ポイントも低下する1・8%に。

米国経済が疲弊するのが先

 足元はもっと痛んでいます。米国の2025年第1四半期のGDPは前期に比べて年率で0・3%減少しました。直近の四半期である2024年第4四半期は2・4%増ですから、大幅な転落です。マイナス成長は3年ぶり。その主因は関税引き上げ前の駆け込み輸入です。前四半期に比べて41・3%も増えています。個人消費は前四半期に比べて1・8%増加しましたが、2023年第1四半期以降で最も低い水準。トランプ関税による価格上昇に備えた消費の抑制がすでに現れています。

  米国対世界経済の根比べの勝敗が見えている以上、日本は米国が根負けするのを待つべきです。下品な表現で申し訳ないですが、「放置プレー」。日米政府は大臣など高官レベルの交渉を開始していますが、日本だけ最恵国待遇を得られるわけがありません。日米関係を維持するうえで交渉する姿勢をみせるのは大事ですが、日本だけでなく世界各国が被害を受けているのですから、もう「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と割り切るしかないのです。

「放置プレー」の一択

  ベッセント米財務長官は早ければ週内に、主要貿易相手国の一部と貿易協定を巡る合意を発表する可能性があると述べています。自ら墓穴に落ちるような関税政策を講じている現況を考えれば、急いで合意することはありません。トンラプ関税との根比べは、放置プレーの一択です。

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