BYDは「見えざる手」が創る「初音ミク」世界販売でマツダ1社分の124万台上積み
中国の自動車メーカー、BYDが猛烈に膨張しています。2024年の世界販売は前年比41%増の427万2145台。1年間で124万台も増やした計算ですが、日本の自動車メーカーと比較すればマツダの世界販売127万7578台とほぼ並ぶ水準です。世界最大の自動車市場である中国で圧倒的なシェアを獲得しているとはいえ、マツダ1社分に相当する生産・販売体制に拡充する企業体力には驚くしかありません。企業を超えた「見えざる手」が陰で支えているのでしょうか。
世界販売は41%増の427万台
BYDは1995年2月にバッテリーを軸に創業し、2003年に自動車に進出しました。電気自動車(EV)とハイブリッド車の2車種を生産していますが、生産台数は2020年以前は50万台未満。2021年から一気に加速します。2021年は74万台を超え、2022年は188万台と2年間で3倍超も伸びました。2023年は304万台と120万台を上乗せ。2024年は販売が427万台ですから、2020年から4年間で8倍以上も生産能力が増えているわけです。
427万台の新車を供給するには、どのくらいの生産体制が必要か。BYDが2024年にタイで操業した工場は年間15万台。この工場をモデルと考えれば、世界に30近い工場がフル操業している状況が想像できます。ホームページでは6 大陸に30を超える工業団地を設立して、エレクトロニクス、自動車、再生可能エネルギー、鉄道輸送に関連する産業に事業領域を柱に育てていると説明しています。他社の遊休工場も利用しているそうですが、2025年もまだまだ膨張し続けるためには工場の能力は絶対的に不足しているはずです。
工場の数だけではありません。BYDはロボットなどを多用して工場生産を徹底的に自動化しており、量産計画を実現しているとしています。仮に車体組み立てがフル生産に耐えられるとしても、部品の開発、生産、品質管理、配送のすべてを満たすことは並大抵ではありません。
部品の供給体制、配送網をどう手配しているのでしょうか。EVはエンジン車と比べて部品点数は少ないとはいえ、誰でも生産できるものではありません。事故や故障があればドライバーや乗客の命が危うくなります。ハイブリッド車はエンジンとモーターの組みわせですから、生産、品質管理、配送体制もEVよりはるかに複雑になります。新しい工場の建設は投資するマネーを準備すればやり繰りできますが、新車に適した部品を揃えるのはマネーで解決できるものではありません。
部品生産や配送の体制は?
BYDは2024年の世界販売台数でホンダの380万7311台、日産自動車の334万8687台、スズキの324万8317台を抜き去りました。2020年から4年間で追い上げ、追い抜く俊敏な経営モデルには敬服しますが、ホンダや日産、スズキが長年の試行錯誤で構築した部品供給体制をすぐに真似ることは不可能です。
しかも、2024年はマツダ1社分に相当する124万台を上積みしています。100年以上の自動車の歴史に囚われた発想だから理解できないと叱られそうですが、マツダの生産体制をわずか1年間でアドオンできる事実が信じられません。BYDと競うテスラも急速にEV生産を伸ばしましたが、早くから自動車生産で試行錯誤しているうえ、生産車種はEVのみ。生産方式のモデルは単純化されています。EVのほかにハイブリッド車を生産するBYDにはより複雑な多元方程式が求められます。
素朴な疑問を解くカギは何か。従来の企業経営を超える発想と力を持つ「見えざる手」を想起するするしかありません。そう、「初音ミク」のような自動車メーカーが誕生し、それがBYDとして演じていると考えるのがわかりやすいかもしれません。
初音ミク同様、バーチャルアイドル?
ちなみに「初音ミク」を知っていますか。ツインテールの女の子がバーチャル映像に映し出され、歌と踊りを演じる世界的な人気エンターテイナーです。札幌市に本社があるクリプトン・フューチャー・メディアが開発した音源のソフトウエアを使い、ステージ上にまるで目の前にアイドルが存在しているかのように登場します。初音ミクを演じるためには、背後に多くの人間の才能が結集されており、その総合力がバーチャルをリアルに変換し、若者を熱狂させているのです。
BYDも中国の政府はじめ多くの企業が力を合わせて、「BYD」というバーチャルな自動車メーカーを創造しているのかもしれません。目の前にBYDのEVやハイブリッド車が走っていても、それはブランド名がBYDというだけ。現実はバーチャルの世界にある。こう考えるとわかりやすい。正解かな〜?