
人型ロボットが日本を救う3つの理由 介護福祉、製造業の進化、未来への自信
米フィギュアAIが2025年3月、人型ロボットの量産計画を発表しました。2022年に設立したばかりのベンチャー企業ですが、わずか2年あまりで人型ロボットの設計、ソフトウエア、工場設備にめどをつけ、年間1万2000台を生産を開始します。テスラ創業者のイーロン・マスク氏も人型ロボットの開発に目処をつけ、製品として投入する計画を明らかにしています。このスピード感に驚嘆するとともに、人型ロボットの実用化で世界の先駆者だった日本が追い抜かれる恐怖を覚えます。
日本の人型ロボットが米国勢の後塵を拝するわけにはいきません。人型ロボットは人工知能や精密部品など最先端技術の結晶であり、近未来社会で重要な役割を果たします。日本経済を支えた自動車産業が大きな転換期を迎えているだけに、日本の製造業は次代に向けて進化するためにも人型ロボットの実用化で先頭を走り続けることが必須なのです。
フィギュアAIに対する評価をみてください。すでに独BMWと自動車工場で働く人型ロボットを供給する契約を受注したほか、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、マイクロソフト、エヌビィデア、インテル、オープンAIから6億7500万ドル、日本円で1000億円程度の資金を調達しています。
フィギュアAI、人型ロボットの量産計画を詳しく知りたい場合は、次のアドレスにアクセスしてください。https://www.figure.ai/
生成AIで世界に躍り出てきたオープンAIの場合もそうでしたが、将来性があると評価されると瞬く間に巨額の資金が集まります。米国で繰り返される産業の新陳代謝は、世界をリードし続ける技術革新を創造するエネルギーとなっています。
日本が今、最も必要なのはフィギュアAIに集まるエネルギーであり、新陳代謝です。巨額の資金と人材を集め、最先端技術を駆使して未来社会を支えるスターを創造すること。誰も思いつかない独創的なアイデアと技術的なブレイクスルーを実現する経営者と技術者がスターを演じます。かつては日本が世界一だった製造業が衰退している今、日本にビッグバンをもたらす起爆剤が欲しい。人型ロボットには、日本の将来を託すだけの可能性があります。
日本の人型ロボットといえば、ホンダの「アシモ」が代表選手です。1996年12月、ホンダが世界で初めて二足歩行する人型ロボット「P2」を発表した時は世界の研究者に衝撃を与えました。自動車メーカーが開発に成功したこともあって世界的なニュースになりました。
アシモがスポットライトを浴びて歩行する姿はまさにクールでした。残念ながら、アシモの開発は表向き中止となっていますが、きっと研究所では人型ロボットの開発が進んでいるはず。フィギュアAIやイーロン・マスク氏の人型ロボットが追いかけてきても、さっと抜き返す俊敏なフットワークを鍛えていると思っています。
なぜ日本にとって人型ロボットに注力すべきなのか。
人口減社会を支える介護福祉
まず人口減社会を支える労働力として期待しています。ホンダがアシモを開発したのは、「自動車メーカーがその技術を使い、自動車以外でどんなものが創造できるかを試す」が狙いでした。その視線には、ロボットの能力を最大限活かせる介護福祉の支援もありました。
少子高齢化に歯止めがかからず、東京以外では人口減が加速しています。高齢者が増える一方、働き手が減り続けるわけですから、高齢者をケアする介護福祉に欠かせない人手が不足しています。豊富な知識と経験が求められ、力仕事も多い現場ですが、給与水準は高くありません。海外から来日した若者の労働力に頼っているのが実情です。
人工知能を備える人型ロボットは学習能力がありますから、介護のルーティンを習得できますし、力仕事も苦にしません。話し相手もできます。すでに癒しを目的にしたロボットが普及し始めています。もちろん、介護福祉以外の職場でも活躍できます。BMWが発注しているぐらいです。複雑で正確な作業が求められる自動車組み立てなどは当たり前。高所や高温、あるいは極地並みの低温など危険な仕事現場でも問題ありません。
人口減社会に直面する日本は、海外からの移住者受け入れを避けて通れません。すでに移民の受け入れは30万人を超え、世界でも5番目に多い数字に達しています。移民する人材の能力と活躍の場を広げる意味も込めて、人型ロボットを海外からの移住者に続く労働力として活用しなければ、日本の高齢者社会は維持できないででしょう。
製造業を進化させるパワー
人型ロボットは、高度な人工知能を備え、細やかな指先の動きも再現できる身体能力を持っています。人工知能の開発を例に見ても、エヌビディアなど人工知能に適した半導体開発が求められますが、その半導体はナノレベルの高精細な加工技術が必要です。北海道千歳市で進んでいる日の丸半導体プロジェクト「ラピダス」を思い出してください。兆円単位の巨額資金を投じて生産設備、技術開発に注力しているほか、生産開始後は多数の技術者がいなければ量産は維持できません。
量産計画を発表した米フィギュアAIが強調しているのは、サプライチェーンの重要性です。人工知能ひとつをみても、最先端技術の裾野は広いのです。ロボットの手足やボディなど本体の成型や組み立てを考えれば、さらに精密加工を可能する自動化ラインが不可欠です。設計から生産まで一つ一つが最先端技術で裏打ちされなければ、人型ロボットは完成しません。人間との共存を可能にするソフトウエアも必要です。
人型ロボットの量産は、旧来型の製造業の発想に縛られていては実現できないのです。電気自動車の生産でテスラがメガキャストと呼ばれる一体成型方式を導入し、車体組み立ての生産効率を大幅に高めました。従来の自動車組み立ての常識を覆したのです。人型ロボットを開発し量産することとは、製造業を根底から造り直し、進化させる挑戦なのです。
日本の力を取り戻す
人型ロボットなどの研究開発は1960年代から本格化して日本が先行していました。米国で急進しているのは軍事利用を目的に政府やIT企業などが資金力に物言わせているからです。米国のロボットメーカー、ボストン・ダイナミクスはじめイーロン・マスク氏らが世界の最先端を走っていますが、欧米や中国などで人型ロボットの開発が加速しても、軍事利用を想定した開発へ偏る可能性があります。無人飛行機のドローンをみてください。ロシアとウクライナの戦争は、ドローンが主役です。
人型ロボットも戦争の最前線に立ち、ドローンと同じ道を歩むのでしょうか。日本は平和憲法を維持している限り、軍事利用を前提にした人型ロボットの開発はありえません。たとえ欧米や中国が日本を優ったとしても、日本が実用化する人型ロボットは、日本と同様に少子高齢化を迎える欧米や中国、韓国などを舞台に活躍します。平和な日常生活を支える人型ロボットの需要は軍事利用よりも健全であり、日本が得意とするところです。
1980年代、日本車は外観は悪いが、割安で燃費が良く、故障しない評価を集め、世界最大の自動車王国となりました。日本製の人型ロボットもきっと日本車が残した轍をなぞるはずです。1990年代からGDP、年収など事実上ゼロ成長を続けた日本。人型ロボットは日本が自信を取り戻して再び世界の舞台に駆け上がる跳躍台になると期待しています。
昭和のヒーローであるゴジラ、ウルトラマンは今も世界で高い人気を集めています。次のスターはアシモなどの人型ロボット。すでに舞台の袖に立って準備している姿が目に浮かびます。