
「なんで工事現場を見に行かなあかんねん」バッテリィズは万博にも驚くのかな?
「なんで工事現場を見に行かなあかんねん」。真っ先に浮かんだのがバッテリィズのエースが直球ど真ん中に投げ込むツッコミでした。
バッテリィズは「M-1グランプリ2024」で惜しくも準優勝でしたが、今や優勝した令和ロマンを上回る注目度です。ネタは相方の寺家剛が世界遺産を紹介する中で、140年以上経ても完成しないスペインのサグラダ・ファミリアを説明すると、エースが「なんで工事現場を見に行かなあかんねん」。バッサリと切り裂く痛快なセリフに家族で大笑い、「目からうころ」「コロンブスの卵」とはこのことかと教えてもらいました。一度はサグラダ・ファミリアを訪ねたいと考えていましたが、確かに工事現場。といっても完成するまではまだ当分先。悩んでいましたが、なんかスッキリしました。
サグラダ・ファミリアは工事現場として賞賛できるが
サグラダ・ファミリアは建設途上とはいえ、アントニ・ガウディが考える深遠な世界観が創出されています。1882年から建設を開始し、完成まで300年かかるといわれました。現在は2034年ごろに完成するといわれています。それでも、150年以上も工事現場のまま、世界から多くの観光客と礼拝者を集め続けるのでしょう。
でも、比較するのも失礼に当たるかもしれませんが、大阪・関西万博の工事現場を観光し、賞賛する気持ちは全くありません。
開幕まで1か月に迫った大阪・夢洲の万博会場がメディアに公開されました。予定より大幅に遅れている建設状況は案の定、惨状でした。参加国が自費で建設するパビリオンのうち外観が完成しているのは17%だけ。5分の1以下。個性的なデザインがずらりと立ち並ぶ風景は、国内外から集まる観光客を魅了する万博の目玉のひとつです。1か月間で残る80%以上が完成するのかどうか。開幕したとしても、期待した風景と目の前の光景があまりにも違えば入場料を払って見学する観光客が戸惑うはずです。
日本国際博覧会協会によると、参加国47カ国が自国の費用負担で建設する「タイプA」を選び、このうち外観ができ上がっているのは8カ国だけ。39カ国が建設途上って、すごくないですか?万博会場の建設が始まった当初から建設会社の選定や費用の高騰などで難航が予想されていましたが、こんなにひどいとは!
パビリオンは万博の目玉なのに
なにしろ、大手建設会社が受注を拒んでいたのですから。「他の仕事に追われ、人手が足りないうえ、受注しても利益が出そうもない」とあるゼネコンの社長はぼやいていました。建設費は資材や人件費の高騰で予想した金額の2倍をはるかに超える見積もりが明らかになった案件もありました。当然、建設の入札を発表しても、1社も入札しない案件もありました。参加国の側も建設費高騰で見送る空気が出てしまい、博覧会協会があわてて代わりに建設して引き渡すパビリオンが増えました。
この結果、博覧会協会が建設してパビリオンを引き渡す「タイプB」は13カ国、博覧会協会がプレハブ工法で箱形の建物を建てて引き渡す「タイプX」は4カ国あるそうです。繰り返しになりますが、万博の妙は参加国の文化などの独創性が創出されるパビリオンのデザインが注目されるわけですが、博覧会協会が建設、あるいはプレハブ工法で引き渡すパビリオンが17ヶ所も増えれば万博のダイナミズムは大阪湾に消えてしまいそうです。
パビリオンだけではありません。計画全体の投資額は当初見込みをはるかに上回る規模に膨れ上がる一方、前売り入場券の売れ行きは計画枚数の6割も下回る水準で足踏みています。大幅な赤字を生む結果に終わる可能性が大きいのが現状です。掲げるテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に従って、計画された「空飛ぶクルマ」の商用運航は中止となるなど華やか話題も見当たりません。
万博の現状は日本の鏡と捉えるなら
ここで逆転の発想はどうでしょうか。万博が未来社会を先取りして写し出す鏡と考えるなら、日本にとって大きな価値が提示しています。高騰する資材、人手不足などは日本経済を支えてきたインフラシステムが機能しなくなり、かつては当たり前だった計画通りに実現する能力を失ってしまっている事実を教えてくれます。空飛ぶクルマの商用中止も、未来の交通システムと花火を打ち上げても先進技術と安全性を両立できず、結局は花火は不発に。世界一の製造業と自画自賛した日本はもう過去のものに。
日本は地盤沈下しているのです。そういえば万博会場の大阪・夢洲は浚渫土砂やごみ焼却灰などで埋め立てた人工島です。地盤沈下や土壌汚染の可能性が指摘されています。人工島に現出するはずだった未来社会が実現できず、中途半端なままに立ち並ぶ建造物が次第に大阪湾に沈み込み、環境汚染と闘う。日本が立ち向かう課題は明確に描き出しています。こう考えれば万博本来のテーマを見事に達成しているのです。