
ヨーカ堂が告げるスーパーの賞味期限切れ 米ファンド・ベインは再建できるか
セブン&アイホールディングスは祖業のイトーヨーカ堂、ヨークベニマル、ロフトなど約30社を傘下に収めるヨーク・ホールディングスを米投資ファンドのベインキャピタルに売却することを決めました。ベインはこれまでもすかいらーくや雪国まいたけ、大江戸温泉物語、東芝の半導体子会社などに投資しており、日本だけで40件以上、投資総額は7兆円を超えるそうです。経営再建に豊富な経験を持っているだけに、ヨーカ堂も息を吹き返すと期待したい。
再建の底力は残っているのか
でも、本音は違います。ヨーカ堂に余力が残っているのでしょうか。店舗を訪ねるたびに不安が募ります。
例えば、こんな印象です。「商品棚がずらり並んでなんでもありそうだけど、買いたいものが見当たらない」「ドン・キホーテはヨーカ堂より汚くて雑然としているけど、買いたいものは探せばありそう」「じゃあ、ヨーカ堂にわざわざ通うことはないんじゃない?」
よく立ち寄る店舗があります。2009年に開店し、当時のセブン&アイが気合いを入れて店舗作りした「ヨーカ堂」です。ヨーカ堂といえば、1976年に開店した千葉・津田沼店がすぐに思い浮かびます。1980年代は旗艦店として全国のモデル店になりましたが、ダイエー、西友と消えゆくスーパーの衰退の荒波から逃れることができず、2024年9月、46年の歴史を閉じました。
2009年当時、セブン&アイはこのまま祖業のヨーカ堂を店仕舞いする気はありませんでした。店内フロアは正統派スーパーの構成でしたが、フロアごとに新たなアイデアを加えていました。とりわけ、食料品フロアは「他のヨーカ堂が参考になるモデル店舗にしたい」とセブン&アイ・ホールディングスの担当取締役が意気込むほどでした。
開店当初は新たなモデルと意気込んだが・・・
ところが開店から6ヶ月後、嫌な予兆を覚えました。「いやあ、隣接する高級スーパーにはかないませんね」。親しい取締役が感嘆するのです。「値段が高くても、お客さんの好みに合わせて食料品の売れ筋を巧みに揃えている」と褒めるのです。ヨーカ堂は日本を代表するスーパーですから、まともに競合するつもりはないと余裕をみせたのかもしれませんが、客の好みを把握して品揃えするのは、小売業の基本中の基本。新たなモデル店舗作りのはずが、わずか半年で小さな落とし穴にハマったようでした。
開店から16年後の今、小さな落とし穴は予想以上に大きく、深かったようです。当初の意気込みは意気消沈に転じていました。どの階のフロアも背丈を超える商品棚がずらりと並びます。商品点数はかなり増えましたが、好調に売れているからではありません。どれが売れるか自信がないので、とにかくたくさん品数を増やしている印象です。2階から上の階は他人にお任せ状態。無印良品、ダイソーが入居し、洋服の青山もテナントとして開店します。フードコートに至っては入居するテナントのチェーン店が仕切っています。
新しいモデルと意気込んだ地階の食料品フロアは、活気が見当たりません。もちろん、魚介類、野菜の生鮮品、惣菜はじめ何でも目の前にあります。セールも盛んです。でも、「ヨーカ堂だから、この品揃え」といった驚きがない。「お客は何を求めて、ヨーカ堂を訪れるのか」といった吸引力が感じられないのです。生鮮品は最近、ドン・キホーテでも扱っています。ヨーカ堂とドン・キホーテの距離がどんどん縮んでいるのでしょうか。
従業員の熱量が感じられない
レジ回りはもっと不明地帯に。デジタル化が進み、客自身が決済できるスタイルが定着したのか、かつては長蛇の列だった店員によるレジスター回りにあまり人影がありません。というか、結構な空間がポカンと、しかも寂しげに残っています。お客にとっては、広々とした空間を歩ける利便性があると思いますが、冷静に眺めるとお店が持て余している感じです。空いてしまったフロアを埋める商品が思い浮かばないのでしょう。
なによりも不足しているのは、店員がお客さんと接する熱量です。「これだけの商品を揃えました。絶対にお客さんは満足します」という熱い思いが見当たりません。ドン・キホーテのように四六時中、アナウンスが流れる販売手法を評価しているわけではありません。ヨーカ堂が長年、築き上げた信頼関係をどう伝えるか。ヨーカ堂の経営幹部から指令された店舗管理や仕入れを忠実に従っているのはよく分かりますが、商品を購入するのは上司じゃなくお客さんです。
客目線より経営目線に
スーパーという業態の賞味期限切れはヨーカ堂だけではないようです。その躍進ぶりが話題のヤオコーやサミットにも息切れを感じます。物価が大幅に上昇しているため、従来の発想では間に合わず、経営効率、販売効率を高める目的で粗利の高い品揃えを増やしています。ヤオコーの高い人気は「おはぎ」など手作り感が優れる惣菜に象徴されるように、食品スーパーだが客の目線をしっかり見つめる「八百屋さん」の空気を捉え、お客を引き寄せました。ところが、その得意のはずの惣菜でも利益重視の商品開発が目立ち、客目線よりも経営目線の商品が店頭に目立ってきました。もうすぐヨーカ堂の軌跡をなぞるかもしれません。
ベインにヨーカ堂を再建する秘策はあるのでしょうか。