• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

みんな大好き!グループ代表 豊田章男氏もニデック、ダイキン、日揮の仲間入り

  トヨタ自動車の豊田章男会長が「トヨタグループ代表」の肩書きで公の場に姿を現しています。トヨタグループという法人格はありませんが、イベント会場などで登壇する際に利用しています。トヨタの佐藤恒治社長は5月の決算会見で「グループのCEO(最高経営責任者)としての豊田会長」という表現を使っていましたから、トヨタグループの求心力を表すシンボルとして体現しているつもりかもしれません。

トヨタグループ代表として登場

 日本は肩書き社会です。初めて会いした人に差し出す名刺を見て、相手と自分の序列を判断するのが「しきたり」、あるいはもっと強い意味を込めて「掟」といえるでしょう。

 豊田章男氏の場合、トヨタ自動車の会長という役職だけで誰でもトヨタグループで最も偉い人とわかります。名刺もいらないぐらい。でも、本人は納得していないのでしょう。法人格を持たない「トヨタグループ」と表するなにかをイメージして「グループ代表」という名刺と肩書きを使わなければ、日本最大の企業集団であり、トヨタとその系列企業で構成する産業プラミッドの頂点に立つ人物であると強調できないと信じているのでしょう。

 まあ、自身の新たな肩書きを加えるのは簡単です。豊田氏のみならず大企業の社長、会長のみなさんは経営の実権を握っているわけですから、「豊田会長にグループ代表の肩書きなんて不要ですよ」と諌める部下はまずいないでしょう。むしろ、手を叩いて「さすが代表!」と煽てる人がほとんど。

 実力経営者が増えたのか、それとも上場企業でありながらコーポレートガバナンスが機能しなくなったのか、自ら「グループ代表」、あるいは「グローバルグループ代表」を名乗る経営者が相次いでいます。

 最初に目にしたのは日揮の重久吉久氏。日揮を世界的なプラントメーカーに育て上げた「中興の祖」であり、中東や欧米、ロシアなど石油・ガスを産出する国に幅広い人脈を築いた日本のプラント業界の顔です。1996年に社長に就任し、2002年に会長兼CEO。2009年に相談役に退きましたが、同時にグループ代表という立場に就任しました。

日揮の重久氏が先駆け

 当時、日揮のホームページを見て驚きました。経営陣の顔ぶれを紹介するページにまず登場するのが重久グループ代表。そして会長、社長です。中興の祖とはいえ、当時の役職は相談役。経営責任を負う立場ではありません。重久氏の功績、人脈を考えれば、自らが後継と指名した会長、社長の上にグループ代表が鎮座してもおかしいと思わないでしょう。不思議と違和感が湧かなかったのも、それだけの実力とオーラを発する経営者だった証です。

 直近ではニデックの永守重信氏。猫の目のようにクルクル変わる社長交代が続いた後、2024年4月に岸田光哉副社長が社長に就任することとなり、同時に創業者の永守会長は代表取締役グローバルグループ代表に。永守氏はグローバルグループ代表を最長でも4年間で退任すると明言していますが、ニデックの成長戦略の大黒柱であるM&A(合併・買収)は引き続き、担当します。2030年度を目標に売上高10兆円へ爆進する計画で、グローバル展開が成否を握ります。社長の椅子を譲っても、グローバルグループ代表が一番偉いんだぞと宣言しているも同然です。

実力経営者の勲章か

 ダイキン工業の井上礼之氏も見逃せません。日揮の重久氏、ニデックの永守氏と同様に井上氏もダイキンの中興の祖。1994年に社長就任してから30年間、会長兼CEOを経て2014年から会長兼グローバルグループ代表に就任しています。もう10年です。30年間も経営トップの座にあれば、会社経営に緩みが現れ、業績が低迷すると思われがちですが、エアコンでは世界トップに上りつめ、業績も右肩上がりを維持しています。社長就任時の海外売上高比率は10%を超える程度でしたが、現在は80%を超え、経営手腕は高く評価されています。

 2024年6月、会長職を手放しましたが、グローバルグループ代表の肩書きはそのまま。社長、会長の役職は後輩に譲っても、グループ代表は握り続ける。社長、会長を上回る権力の強さを握り続けたい執念を感じます。

 重久、永守、井上の3氏は日本の産業史に名を残す経営者です。グループ代表という肩書きに固執したのも、社長、会長という重職を手放し、経営の中枢から遠ざかる寂しさを知っているからでしょう。3氏に続いてグループ代表を名乗る豊田氏も創業家としてトヨタグループに君臨しているものの、その存在感の重さを忘れるなという願望を込めているのかもしれません。

コーポレートガバナンスは紙屑に

 ただ、社長、会長、グループ代表と肩書きが変わっても、同じ人物が経営の実権を握り続けることは、企業の活力を生み出す多様性を失うのも事実です。グループ代表という肩書きが自身の威光を後光のように輝かせる光背と勘違いしてもらっては困ります。グループ代表の仕事は、後継者を育て上げることであって、自分自身を演出することではありません。

 昭和の頃は社長が一番偉いと思っていたら、平成に入ってからは会長兼社長、社長兼最高経営責任者(CEO)、会長兼CEOなど色々な肩書きが創案され、社長は埋没気味です。新たにグループ代表が加われば、誰が一番偉いのかなおさら不明になります。いつまでも権力を手放したく無い経営者はこれからももっと新しい肩書きを考案するはずです。コーポレートガバナンスが紙屑にみえてきました。

関連記事一覧