
トヨタ会長・モリゾウ、ヤリス駆けて、そろそろ経営者としてピットインしたら!
「仏の顔も3度まで」を持ち出すまでもないでしょう。トヨタ自動車の豊田章男会長のCM出演です。もう2度目で十分。
1度目は2024年11月。レクサス「LBX」のハンドルを握りながら、なぜか英語で車の魅力を助手席の外国人女性に説明します。日本で放送するテレビCMですから、英語の語りは日本語の字幕付き。なぜ英語で話すのかの理由がわからず、頭の中は「YES、高須クリニック」がこだまします。
もう1週のおかわりをするトヨタ会長
2度目は2025年9月。レース仕様車「GRヤリス」でドイツのニュルブルクリンクを走り、「もう1周」を繰り返す「おかわり君」を自慢げに披露します。自らをモリゾウと呼び、「くるま屋」を自認するだけに、レース用ワンピを着て楽しげに運転するのはよくわかりますが、そんな姿を誰に見せたいのでしょうか。ニュルブルクリンクは自動車の走行性能を極限まで引き出す世界最高のレース場といわれますが、モーターマガジンの読者ならまだしも、テレビCMで目の前に突きつけられる一般視聴者は呆然とするしかありません。ヘリコプターを運転しているのかどうかわかりませんが、操縦席からカメラ目線で「YES、高須クリニック」と語るシーンと同様、肌寒いものを感じます。
レクサス「LBX」の時に感じましたが、「GRヤリス」も一般の消費者にとって簡単に手が届く車ではありません。マクラーレンやフェラーリのように億円単位の超高級車をポンと購入できる前沢良作さんならともかく、世界一の販売台数を誇るトヨタがテレビCMに流す車種とは思えません。
トヨタも「GRヤリス」のようなレース仕様車を買って欲しいと思っていないでしょう。CMの狙いは企業イメージのアップ。こんなにクルマが大好きなトヨタ会長がハンドルを握ったら、もう離れられないほどの魅力がトヨタ車に満載しています。「トヨタ車はみんな素晴らしい」。こんなメッセージと理解したいですが、多くの人が素直にCMを見れば会長本人がテレビに出演したいだけと映ってしまいそうです。高須クリニックどころか、通販の夢グループ社長ともダブります。
まあ、トヨタ社内にトヨタ創業家出身の会長に異論を挟む人物は皆無。豊田章男会長が指示すれば、通ります。ただ、2度もトヨタ版「YES、高須クリニック」を視聴すると、会社の私物化の恐怖を覚えます。
「GRヤリス」のCMをトヨタイムズから再現してみます。
モリゾウの“おかわり”再び⁉
2025年6月21~22日、ドイツで開催されたニュルブルクリンク24時間レース。
6年ぶりに帰ってきたモリゾウ。相棒は、プロドライバーのようにシフトチェンジをしてくれるオートマ、「GR-DAT(ダイレクト・オートマチック・トランスミッション)」を搭載したGRヤリス。
1回目のスティント*。予定は3周…のはずだった。
3周目、モリゾウから無線が入る。
「5ラップ、チャレンジさせてください」。
5周目、モリゾウから再び無線。
「ワガママ言ってすみませんが、もう1周行かせてください」。
そんなモリゾウ2度の“おかわり”や、DAT開発の様子を使ったCMが12日から始まった。
計6周を走り終えたモリゾウ。その足で生中継をしていたトヨタイムズスポーツのスタジオに登場し、視聴者に語りかけた。
「GRヤリス、本当にいいクルマです」。
そりゃあ、いいクルマです。乗ったことはありませんが、保証します。豊田会長はトヨタのマスタードライバーと呼ぶ職種を自ら任命して、トヨタの全車種の走りの味付けをチェック、責任を持つ立場にあります。最高級のチューニングを施したヤリスを手渡され、運転するのですから「本当にいいクルマです」。
元々、ヤリスはトヨタの最量販車の一つで、主力購入者の若い世代や共働きにとってGRヤリスのような走行性能は不要。価格は安いほどうれしい客層です。ユーザーからみれば、トヨタ会長は自分だけのヤリスを作ってどうするの?という気分じゃないでしょうか。
トヨタは高須クリニックでも夢グループでもない
このCMから浮かび上がるのは、トヨタ社内の空気感。クルマ大好きな上司に一般の消費者が手に入らないトヨタ車を揃え、喜んでもらう。典型的なゴマスリにしかみえません。経営トップの人間的な魅力をアピールするのもブランド戦略と説明するかもしれませんが、トヨタは高須クリニックや夢グループと違い、日本を代表する株式上場企業です。ファミリービジネスと見誤るようなことは企業倫理に反します。なにしろ、豊田家が保有するトヨタ株は全体の数%。世界でトヨタに関連する会社で働く従業員は38万人とか。家族を含めれば100万人を超えるでしょう。社内で上司と部下が自画自賛し、盛り上がるのはせめて数十人規模の中小企業まで。
トヨタの経営に黄色信号が灯っています。「もう1周」とおかわりするトヨタ会長に対し経営者としてピットインするよう警告が出ているのではないでしょうか。そろそろピットで休んで、トヨタの未来をどう運転するのか、トヨタ社員と一緒に考えてみてください。若い社員は豊田会長との意見交換を「もう一回、おかわり」と繰り返すはずです。