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存続する価値のある企業とは 伊藤忠がビッグモーター再建 

 新人記者の時、牛丼チェーンの吉野家倒産に遭遇し、経営再建に努力する過程を取材して以来、40年以上にわたって数多くの企業倒産と再建を目の当たりにしていきました。企業再建の舞台裏は知っているつもりです。企業規模に関わりなく、どの企業にも従業員、その家族、取引先などを抱えており、経営破綻しても再度、立ち直る必要があるのも理解しています。ただ、この企業を再建して良いのか。いい加減な経営に終始した責務を負い、存続する価値があるかどうかの議論をもっと尽くすのが本筋ではないか。そんな疑問が浮かぶ時があります。

存続価値があるかどうかの議論は?

 直近では、中古車販売のビッグモーターです。伊藤忠商事は3月6日、ビッグモーターの再建を支援すると発表しました。ゴルフボールを使って修理する車のボディをさらに傷つけるなど自動車保険金を水増し請求する不正行為が発覚、大きな批判を浴びた会社です。不正行為を見て見ぬふりをした損保ジャパンの経営問題も明らかになり、経営トップが退陣する事態に発展し、自動車の修理、保険など自動車関連の産業全体の信頼を大きく揺るがしています。なによりも修理や保険契約などで騙し、車の所有者を裏切り、金銭的な被害を与えた行為は許されません。

 社会常識を逸脱する行為も明らかになっています。店舗の目の前にある地方自治体が所有する街路樹を勝手に処理したり、下請け業者に草むしりを強要したり。公正取引委員会はビッグモーターに対し下請法違反を念頭に勧告する方針だそうです。

 ビッグモーターの再建スキームは、一連の不正行為に創業家一族などの経営陣が深く関与したため、創業家などを切り離す仕掛けとなっています。ビッグモーター本体を分割して、4月中に主要な事業を引き継ぐ新会社を設立します。社名も変更するそかもしれません。伊藤忠は「過去との決別」と説明しており、これで事業の継続に必要な資産や従業員の受け皿ができるとしています。スキームの設計は企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズが担当し、伊藤忠と共に再建に取り組みます。

創業家にとって渡りに船

 新聞やネットメディアによると、創業家は当初、会社の売却を渋っていたものの、「最終的にはこれしかないと納得した」そうです。不正行為の発覚後、信頼を失った店頭には訪れる客が激減し、資金繰りが悪化。銀行などの支援も期待できず、経営破綻が見えていただけに、むしろ伊藤忠と再生ファンドが手を差し伸べた再建案は渡りに船だったのではないでしょうか。創業者にとってビッグモーターは我が子同然で、身売りなど言語道断と訴えたかもしれませんが、企業価値ゼロどころか多額の債務返済に追い込まれるよりはマシでしょう。

 しかし、全財産を売却して債務返済に努め、豪邸を手放した後、アパート暮らしする経営者を知っているだけに、再建シナリオについてどうも釈然としません。

 伊藤忠は大きな社会的批判を浴びた企業を再建するため、火中の栗を拾った気分と説明しているようですが、すんなり納得するわけにはいきません。再建を決断したのは、リスクを恐れず、リスクこそ収益を生むと考える岡藤正広CEOです。繊維部門が長く、世界のファンションブランドのアルマーニの独占輸入権を獲得するなどその剛腕ぶりは商社業界で有名でした。その剛腕によって三菱商事、三井物産より下位グループに止まっていた伊藤忠を三菱、三井を抜いて一時、第1位の座へ押し上げた人物です。真偽は不明ですが、イタリアのブランドを手に入れるならマフィアも恐れないと言われたほど腹が据わっています。

創業家も伊藤忠も再生ファンドも、三方一両得

 伊藤忠は自動車産業に深く関わっており、ビッグモーターの中古車販売・修理・保険など裾野の広い事業を手に入れれば、自社の事業分野を割安に広げるチャンスと考えているはずです。再建に協力するジェイ・ウィル・パートナーズも再生ファンドとして話題企業の再建に成功すれば、今後の事業展開に大いにプラスとなります。

 三方一両損ならぬ「三方一両得」。再建スキームの構図は創業家も伊藤忠も再生ファンドも損はしません。利益があります。あれだけ社会批判を浴び、自動車に関する事業の信用を失墜させ、ずさんな経営のガバナンスをみせつけた経営再建は結局、損する人はいません。

 1980年代、東京・新宿などで人気を集めた「ノーパン喫茶」「のぞきの部屋」の風俗店を取材した経験があります。「蛇の道はヘビ」を辿ってその筋の方にお話を聞くと、「ずっと続けられないやり方だとわかっているから、最初にガサッと稼いで撤収する」とその極意を語り、そのやり口を「一発屋」と呼んでいました。どうしてもビッグモーターの手法が一発屋の極意と重なるように見えてしまいます。結局は稼いで終わり。風俗業は手を替え品を替えて、いまも隆盛です。稼いだものの勝ちですか?

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