
EVをちょこっと試乗 VWがテスラより良い、ホンダ軽はストライク!でも「らしさ」はどこ?
電気自動車(EV)を試乗しました。
近所の公園で「EVをもっと身近に!」をテーマにしたイベントが開催され、テスラ、トヨタ自動車、日産自動車、フォルクスワーゲン(VW)、マツダ、ホンダのEV、あるいはプラグイン・ハイブリッド車が勢揃い。試乗も受け付けていました。会場にはEV充電器や災害時などで電源として利用できるEVの役割を紹介するコーナー、さらに燃料電池の実験、VRバンジーなど家族連れも遊びながら学べる展示が用意されていました。
EVの関心は予想を上回るほど高い
EVへの関心は思ったより高いようです。会場には家族連れが多く訪れ、どの展示も人が並んでいます。試乗希望も担当者の予想を上回り、「こんなにフル回転するとは思わなかった」と担当者が苦笑するほど。そんなわけで思う存分に試乗できませんでしたが、テスラ、VW、ホンダのEVをちょこっと試乗できました。
最初の1台目はテスラ「モデル3」。「モデルY」も試乗可能でしたが、希望者が多くて待ち時間が長く断念。テスラは乗客として体感したことはあります。助手席に座っていただけでしたが、路面とタイヤが吸い付く走りにちょっと驚きました。バッテリーが車体下に配置されているので、重心が低く操縦安定性が良いのでしょう。その時の感触が忘れらず、ぜひ運転したいと思い、「モデル3」を試乗することにしました。
まず担当者にテスラのイロハを教えてもらいます。なにしろボディに埋め込まれたドアの取手を取り出せず、車内に入ることができません。ようやく運転席に座っても、自分の体を収めてアクセルやブレーキのペダルにフィットする位置に移動させなければいけません。そして次は駆動力を引き出す電気モーターのスタートボタン、ウインカーのレバー、DやRのシフトチェンジなどを確認します。運転席の左手にドカンと設置されている大きな液晶パネルの使い方もチェックします。
やっぱりテスラはおもしろい
テスラはトヨタやベンツなどと違う設計思想でEVを開発しています。普段、運転している日本車の感覚と比較すると多少の違和感が覚えますが、EVを近未来のモビリティ、ガジェットと再認識すれば楽しい乗り物でした。
典型はブレーキペダル。「運転中はブレーキを踏まなくても大丈夫ですよ。アクセルペダルから足を離すと、停止するようブレーキが効き始めます」。テスラの担当者から意外な一言。運転免許を取得して以来、安全運転はブレーキとアクセルの操作にあると信じていましたから、「ブレーキを踏まなくても大丈夫」と言われても足が勝手に動きます。アクセルを踏み込んだり、離したりしながら、ブレーキのコツを探りましたが運転中の不安は消えません。些細なことですが、改めてテスラは社会常識に縛られない面白いメーカーと痛感しました。
走行感覚はとても安心。路面にタイヤが吸い付き、ハンドルのキレも良い。アクセルを踏んで電気モーターの回転数を引き上げると、一直線に伸びる加速感を味わえます。横断歩道や交差点が近づき、アクセルを離すと程よい減速が始まり、停車します。ブレーキを踏まずに停車する感覚はかなり新鮮でした。
ホンダの軽EVは「N-ONE」のDNA
ハンドルのキレも楽しい。車体前部にエンジンを搭載していないので、小回りは抜群。ハンドルを右に左にこまめに切って実験したくなりましたが、同乗するテスラの担当者が嫌がるので諦めました。
テスラの車内は簡素すぎると表現できるほど機能的です。クルマの情報はすべてハンドルの左側に鎮座する液晶パネルに表示されますが、速度計はパネルの右上部に小さく表示されるだけ。ほとんど視野に入りません。痒いところに手が届くという表現が大げさじゃないほど何でもかんでもある日本の車に慣れているだけに、ちょっと寂しい瞬間もありますが、そのギャップの大きさがむしろEVを運転している気分にさせてくれます。不思議です。
2台目はホンダの軽EV「N-ONE e:」。ホンダはすでに実験的なEVを発売していますが、初めての量販EVです。軽自動車の運転はきっと30年ぶりぐらいなので比較は全くできませんが、ホンダのEVに対する気合いの入れ具合を知りたいと考え、試乗しました。
さすが日本車で最も売れている「N-ONE」ブランドを背負ったEVです。運転中、何の不満を感じません。運転感覚はテスラほどではありませんが、やはり路面にピタッとタイヤが吸い付きます。テスラをデミグラスソースに喩えたら、ホンダの軽EVは日本の和食らしい醤油の薄味って感じです。軽は日本独自の規格ですから、ホンダは狙い通りのEVを開発しましたわけです。
車内は静か。エンジン搭載の軽はピストンの回転数と騒音が気になりますが、アクセルを踏み込めば、スムーズに直進します。ブレーキ操作が不要だったテスラと違い、ブレーキを踏まないと停車しません。テスラで味わった違和感は消え、普通の車を運転している感覚が続きます。
車体が軽サイズですから、小回りや駐車も楽ちん。運転席でハンドルを握って走っていると、軽を意識しません。車の走行性能、運動性能を考えたら、「フィット」など小型車を運転していると勘違いしそう。
あえて不満をいえば、あまりにも優等生すぎてつまらない。ライバルとの差別化をどうするのか。これから軽EVに参入する中国BYDは価格の安さで勝負します。ホンダの軽EVほど仕上がりが良く無くても割安な方が無難と考えるユーザーはいます。ホンダの軽EVはかなり優れていますが、国などの補助金を使っても価格は小型車並み。ライバルを圧倒するパンチが欲しい。
VWは「へえ〜」が止まらない
運転中、「へえ〜」が止まらなかったのがVWのSUV「ID.4」。大きさはエンジン車「ティグアン」と同格。インテリアは革張りで華やか。速度表示もハンドルの奥、目の前に。すべてが機能的で簡素なテスラと大違い。車内に座っていると、いつものVWというかドイツ車。とてもトラッド。いつも通りという雰囲気はやっぱり安心と信頼に直結します。
ただ、スタートするまでの操作は面倒。ギアに相当するレバーはハンドルの右奥にあり、レバーの微妙な動きでギアをDに設定したり、Rに切り替えたりします。慣れれば問題はないのでしょうが、テスラやホンダのすっきりした操作を経験していると、VWはなにを狙ってこんなにややこしい操作にしたのかと首を傾げてしまいました。VWは考え過ぎという印象を受けました。
そんな不満を吹き飛ばしたのが走行感覚。とってもシルキー。絹織物のシルクの滑らかさを思い出すほどスムーズ。テスラで体感した路面の吸い付きは感じません。路面からちょっと車体が浮いて走るイメージです。浮揚感とは異なりますが、路面を滑っているようです。といっても、走行がフワフワするわけではありません。
サスペンションなどシャーシの設計思想がテスラと違うというよりは、VWがエンジンで培ったクルマ哲学をEVでもしっかりと踏襲しているのでしょう。エンジン車からEVへ乗り換えても、同じVWを味わえる。「VWが提供するEVはこれです」という自負を感じます。クルマからモビリティへ変身するEVですが、VWはクルマを運転する楽しさのDNAを移植しているみたいです。
EVは高価でしたが、国や自治体の補助金分を差し引けばエンジン車に迫る価格帯になってきました。EVも選べる時代になってきました。EVをガジェットのように考え、丸っ切り新しい乗り物として楽しむ人もいれば、自分自身の感覚を変えずに運転したい人もいるでしょう。テスラは新興ブランド、VWは老舗ブランドと区別するわけではないですが、メーカーの開発哲学がEVを多様化し、より一緒に楽しめる乗り物にするはずです。
個人的な好みで言えば、VWのEVが好きです。テスラに比べて、まだ回り道しているようですが、体に染み込んだ運転の楽しみをVWはEVに継承しようとしているのがわかります。
今回、試乗できませんでしたが、バンタイプの「ID.Buzz」にはとても興味があります。高い人気を集めるトヨタの「ベルファイアー」などと同じ大きさですが、威圧感はゼロ。外観は昔の「タイプ2」と似ており、とても愛らしい。価格は日本円で1000万円近くとかなり高いですが、子育てしながら家族旅行する年齢だったら、買ってみたいと思いました。VWの担当者が話していましたが、これまでの顧客とは重ならない客層を開拓するクルマになるそうです。EVが創造する新しい市場の裾野は、実は「Buzz」のようなコンセプトではないか。ひそかに期待しちゃいます。