アシモとマスク

イーロン・マスクが体現する創造的破壊 これぞスタートアップのダイナミズム、ただ独裁は無用

 イーロン・マスク氏がツイッターを買収し、事業改革を始めました。経営陣全員を解任し、取締役はマスク氏1人のみ。テスラ、スペースXなどこれまで手掛けてきたビジネススタイルを考えれば、驚きはありません。経営手法は独裁。判断は右左に揺れ、横暴ともいえる事業改革や人事を繰り返してきましたが、テスラ、スペースXいずれも事業として大成功。創業者が独裁者として振る舞うのは当たり前?

ツイッターの経営に呟く余裕がなさそう

 ツイッターの経営もこれから右左どころか上下左右に振れまくるのでしょう。社会やビジネスの常識に囚われず、むしろ打ち破ることに快感を覚えているかのようです。米国が生み出し続ける経済の躍動感を体現しているのがマスク氏なのでしょうか。

 マスク氏は10月27日、ツイッター買収を440億ドルで終え、31日にCEOに就任しました。唯一の取締役です。米ワシントン・ポストによると、2000人程度が解雇されるようです。これまで無料でツイートできていましたが、有料のサービスも導入して広告に頼らない事業モデルに転換する計画です。

 ツイッターはフェイスブックやインスタグラムと並ぶ社会コミュニーケーションツールとして利用され、利用者は月間3億人を超えます。毎日、世界の至る所から「つぶやき」が発信され、社会、政治、経済を動かす世界でも最も重要なメディアです。それが1人の経営者によって事業モデルが改革され、「つぶやき」の選別が始まります。

 社会的な責務を負っているとはいえ、民間企業です。収益を維持し、存続しなければ責務自体が果たせなくなるのは理解できますが、誰でも発信できるコミュニケーションを支える社会的インフラとしての公平中立まで変質するのは理解できません。なぜなら、ツイッターがここまで成長した根源は、誰も発信できる自由さにあったからです。

  ツイッターは2006年、大学生だったジャック・ドーシー氏が創出したアイデアから誕生しました。あえてわずかな文章で表現する制限を設けたのも、自身の意見を直接伝えるのが主目的だからです。当初、事業モデルとして発展する自信はなく、米国経済ニュースメディアで「広告をどう付ければ良いのか、収益モデルが思いつかない」とその社会インフラとして育った後も、その役割を守りながら事業化する難しさを打ち明けています。

YouTube、広告モデルが浮かばなければ、次の人へ

 YouTubeを創業した一人、スティーブ・チェン氏も同じ言葉を発していました。2006年、YouTubeをグーグルに売却した後、チェン氏と会いましたが、「自分には広告モデルが浮かばず手放した。後悔していない。自分はラッキーマンだ」と笑っていました。YouTubeは今や、グーグルの事業の柱です。そのグーグルも創業者らはプロの経営者としてエリック・シュミット氏を招き、CEOを任せます。

 自分自身で収益モデルが創造できなかったら、アイデアを持つ人間に売却するか新たな未来を創造できる人材に経営を任せる。シリコンバレーを中心に繰り返されるスタートアップを生み出すエネルギーの根源です。

 アップルを創業した2人、スティーブ・ジョブス氏とスティーブ・ウォズニアック氏も同じです。ジョブズ氏は事業に行き詰まり、アップルから追放され、その後に映像会社ピクサーを設立して成功。アップルに舞い戻ります。ウォズニアック氏は「自分自身は事業に向いていない」と考え、アップルから離れます。

米国にあって日本にないもの、創造的破壊の繰り返し

 米国のスタートアップにあって、日本のスタートアップにないものは創造した事業を一度破壊しても再生する覚悟です。「彼にできなくても、自分自身にはできる」「世界にないものだから成功しないと周囲は説得するが、世界にないから成功できる」。一人の人間が諦めても、傑出したアイデアから生まれた事業モデルを他の誰かが引き継いで、次のステージに引き揚げる。

 陳腐な表現になりますが、独りよがりともいえる自信過剰に支えられたバトンタッチがアップルやグーグル、YouTubeなどを生み出し続けてきました。

 マスク氏も創造的破壊者の一人です。素人が電気自動車を造れるのかと誰もが考えたテスラを世界トップに育て、あり得ないと考えたロケットの使い回しを事業とするスペースXを成功させました。火星移民計画も実現するのでしょうか。

ツイッターはテスラ、スペースXと違う

 それではツイッターの未来はどうなるのか。メディア事業はテスラ、スペースXとは違います。特定の事業サービスを理解し、それを利用したいと考え、高額な費用を払って手にするユーザーはいません。無料が当たり前と考え、しかも価値観が多様な社会が相手です。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏がワシントン・ポスト紙を買収した後も、編集などに口を出していないそうです。マスク氏に負けない独裁者であるベゾス氏が、です。

 アップルやグーグルの経営を見ていると、実は独裁型ではありません。経営戦略のベクトルはトップが決めますが、多くの優秀な人材を抱え、創り上げていきます。スティーブ・ジョブス氏はアップルにとってアイコンです。しかし、マスク氏はテスラを見てもわかますが、独裁そのもの。時には社会的な規範に触れるような発言や行動をみせます。それが強さを呼び込み、カリスマとして輝きをますのでしょう。

 しかし、ツイッターは社会のインフラになってしまっています。独裁は通用するのでしょうか。メディアには無用、不用です。

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