大阪万博の素朴な疑問 こんなに苦労しても、開催する理由はなんですか

 連日、35度を超える猛暑日に体力、気力が奪われ始めたせいか、2025年に開催する大阪・関西万博が地上から湧き上がる上昇気流によって蜃気楼のようにぼやけて見えてきました。計画通りに進んでいないのは確かなようです。びっくりするニュースが続きます。当然、素朴な疑問も湧き上がります。巨費を投じて、こんなに苦労してまで開催するメリットって何なのでしょうか。

前売り券は関経連などに25%販売

 例えば入場前売り券の販売。大阪・関西万博を運営する日本国際博覧会協会が地元の関西経済連合会などに購入枠の割り当てを検討しているそうです。割り当て枚数は約700万枚。博覧会協会は開催期間中の来場者数を2820万人と予想しており、チケット販売の売り上げが万博運営費を賄う仕組みになっています。あらかじめ売り上げを確保するため、全体の25%を大企業を中心に事前販売したい意向です。関経連は300万枚を引き受ける見通しで、会長や副会長を務めている大企業を中心に1社あたり20万枚程度を購入するようです。

 前売り券は大人が6000円。単純に計算しても1社あたり12億円。大企業といえども1社で20万枚をすべて売り切るのはかなり難しいでしょう。社員に購入を強いたら即アウトですから無料で配布する例もあるはず。そうなれば億単位の経費が発生します。しかも、これは大企業1社を想定した場合です。

  関経連以外の割り当ては700万枚から300万枚を引いた残り400万枚。割り当て先は関経連のメンバー企業よりも経営規模が小さい企業が大半ですから、前売り券の処理はさらに困難を極めます。たとえ金額が億円に届かなくても、負担感はさらに大きくなる可能性があります。

 もちろん、持ち出しばかりではありません。万博開催によって関西地域を訪れる観光客などで急増するので、地元経済は潤うはず。関西を世界に売り込むチャンスですから、中長期的なメリットも十分に織り込むことも大事です。というように頭で理解しても、個別企業の経営事情はそれぞれ違い、関西地域全体の利害と直結するわけではありません。理不尽です。

時間外労働の例外扱いを延長要請

 もっと驚いたのは、博覧会協会が建設業界を時間外労働の上限規制から例外扱いするよう要請したことです。建設業界は時間外労働の上限規制に関し適用除外されていますが、2024年4月から原則、月45時間年間360時間が上限となり、労使合意があっても720時間が限度に。博覧会協会はパビリオン建設が計画よりも大幅に遅れいる現状を踏まえ、適用除外の継続を求めたわけです。これに対し、加藤厚生労働相は記者会見で「単なる業務の繁忙では認められない」との考えを明らかにしています。これまた当然です。

 万博をなんとか成功させたい思いはわかります。ただ、その道筋が万博本来の趣旨から大きく離脱してしまっては、まさに本末転倒。

 万博の基本計画をみてみました。「5つの特徴」と明記され、以下の通りに説明されています。

海と空を感じられる会場

大阪・関西万博の会場は、四方を海に囲まれたロケーションを活かし、世界とつながる「海」と「空」が印象強く感じられるデザインとします。円環状の主動線を設け、主動線につながるように離散的にパビリオンや広場を配置することで、誘致の時からの「非中心・離散」の理念を踏襲しつつ「つながり」を重ね合わせた「多様でありながら、ひとつ」を象徴する会場を創出します。

世界中の「いのち輝く未来」が集う万博

大阪・関西万博では、150の国と25の国際機関をはじめ、企業やNGO/NPO、市民団体等が、世界中から「いのち輝く未来社会」への取り組みを持ち寄り、SDGsの達成とその先の未来を描き出します。そのための具体的な取り組みとして、各界のトップランナー8人が自ら創り上げるテーマ事業や、会期前から会期後までを見据えた共創の取り組みである「TEAM EXPO 2025」プログラムなどを行います。

未来の技術と社会システムが見える万博

大阪・関西万博のコンセプトである「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」に基づき、カーボンニュートラル、デジタル技術、次世代モビリティなど、最先端の技術や社会システムを会場や運営、展示等に活用する未来社会ショーケース事業を行います。さらに、ARやVRなどの先端技術を活用して、会場を訪れることのできない人でも会場外から大阪・関西万博を体験することのできるバーチャル万博を実施します。

本格的なエンターテインメントを楽しめる万博

ウォーターワールドの水上ショーや会場内の施設や通路を用いたプロジェクションマッピング、イベント広場や催事場など大小様々なステージで行う音楽や芸能などの催事、伝統芸能やポップカルチャーなどの展示体験催事、全国各地の祭りやパレードなど、にぎわいと感動にあふれた本格的なエンターテインメントが楽しめる万博を創出します。

快適、安全安心、持続可能性に取り組む万博

過剰な混雑が生じないよう、電子チケットを活用した、入場事前予約制度やパビリオン予約制度等の導入を検討するなど、平準化に積極的に取り組み、快適な万博体験の実現を目指します。さらに、感染症対策や防災対策、サイバーセキュリティ対策による安全安心の実現、サステナブルやインクルーシブなど持続可能性に配慮した運営などに取り組みます。

万博のコンセプトにそぐわない現実

 ざっと見るとすぐにわかるはずです。万博はSDGsの観点に立って未来を描き出し、近未来の一部を会場で現実化する発想で施設やイベントなどが設計されています。

 もっとも、5つの特徴についても首を傾げてしまいます。会場となる夢洲などは訪れたことがありますが、日本有数の工業地帯に四方を囲まれており、どんな「空と海のすばらしさ」を感じられるのか?。本格的なエンターテイメントも柱ですが、すぐそばには海外から多くの観光客を集める「ユニバーサルスタジオジャパン」があるじゃない?

 そんなことよりも「いのち輝く未来」「未来技術と社会システム」「快適、安全安心、持続可能性」を投射する「未来社会の実験場」というコンセプトにもかかわらず、万博成功に向けてESG、SDGsの観点に反する行為や発想が当たり前のように現われてくるのがとても不思議です。

 万博開催が決まったのだから、大赤字を出して失敗するわけにはいかない。2025年の開催よりまず目の前の現実に対応するしかない。万博のコンセプトなど理想を掲げただけ。「仮想現実」のままで良い。理想は「理想」。そんな不埒な考えは微塵もないでしょうが、それもこれも正直に「未来社会」の現実を反映しているだけなのかもしれません。連日の猛暑にめげずに、なんとか良いアイデアが出てこないものでしょうか。

◆写真は大阪万博のホームページから引用しました。

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