下請法が取適法へ「カネの見える化」は可能か 商習慣の岩盤は手強いぞ!

 中小企業を守る下請法が2026年1月、改正されます。「下請けいじめ」を監視する範囲が広がるほか、決済代金は事実上、現金支払いに。「下請けいじめ」の定義をより厳密に表現し、契約時から支払いまでの流れの「見える化」を徹底します。

事実上、現金支払いに

 強力な法律に改正されたといっても、楽観はできません。目の前にたちはだかる最難問は長年、日本の商取引に根付いた悪習の撤廃。表向きは従うフリを見せながら、陰では従来通りの商習慣を強いるのではないでしょうか。発注する大手企業と受注する中小企業の力関係が法律の改正で大きく変わるわけがありません。

 政治資金規正法を見てください。政治家自ら決めた法律ですら、自民党の裏金事件、記載ミスなど違反事例が絶えません。法律を遵守すると言いながら、陰でこそこそと悪知恵を働かす。政治家の得意技は二枚舌ですが、大企業と中小企業の力関係はもっと複雑。「阿吽の呼吸」「面従腹背」など多くのことわざで語ることができます。まして独占禁止法の番人、公正取引委員会が目を光らせていても、無数の取引契約をすべてチェックできるわけではありません。

 結局、大企業の経営者はじめ取引現場の意識がどこまで変わるのかにかかっています。中小企業は336万社あり、全事業所の99・7%を占めます。大企業だけが生き残っても、日本経済の活力は失われるだけ。この危機感を共有できるかがすべてです。

違反行為や定義をより詳しく

 改めて下請法の改正内容をチェックします。下請法は「下請代金支払遅延等防止法」「下請中小企業振興法」の2法を総称しいました。改正によって「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」「受託中小企業振興法受託取引適正化法」と改名し、「中小受託取引適正化法」に名を改めます。下請法に倣って略称すれば「取適(トリテキ)法」と呼ぶそうです。

 改正の要点は次のとおり。まず義務化が明示されます。支払いの金額、期日、方法など発注内容を書面、あるいはメールで確認。契約内容は2年間保存。支払い期日は60日以内、支払いが遅延した場合は遅延利息を支払うことです。社会常識から見れば当たり前のことですが、日本経済では当たり前じゃなかったのです。

 当然ですが、違法行為も明示しています。発注製品の受け取り拒否、あるいは返品、支払いについても遅延、発注後の契約金額の減額や支払い拒否、さらに違反行為を公取委などに連絡した場合の制裁行為など。これらの行為は独禁法違反としてこれまでも摘発されていますが、発注側の優先的立場から契約の見直しなどを受け付けない横暴な押し付けは契約後に後付けされた理由を加えても許されません。

許されない行為は変わらない

 もっとも、並べた一連の行為は改正前の下請法では明示されていませんが、許される行為ではありません。やっちゃいけない行為はやっちゃいいけないのです。だからこそ手形決済や電子記録債権など支払い、さらに振り込み利息など中小企業が不利益を被る行為を具体的に示して禁止しました。手数料についても禁止を明言するなど抜け穴を防ぐ意思は明確です。

 学校の通路に「廊下を走るな」と紙札をぶら下げても、生徒は走ります。企業の商慣習はそんな道徳レベル、というか互いに1円でも多くの利益を得たい思いは、社会の常識を簡単に無視するのです。

 法律に明記していない行為は違反ではないのか。そんなことはあり得ません。本来なら有償になるべき商取引を「いつか発注するから」といった優位的な立場から無理強いする取引を当たり前のように求めていたのは事実です。仕事の発注は長年の付き合いと信頼の延長線。貸し借りは長い目で帳尻を合わせよう。そんなあいまいな商取引はもうやめましょう。それが法改正の意図です。

 公取委はこれまでも契約上、明記されていない下請け企業に金型を無償で保管させる行為を摘発しています。一見、他人にはわからない行為だからといってお目こぼしすると期待するのはやめましょう。

 監視する企業の範囲を拡大したことも同じです。従業員数300人の抽象企業、運送業務などを加えて、より明確に、そして細密に注視する姿勢を明確にしました。

 公取委は下請法であっても、取適法であってもこれまで通り。摘発の凄みに変わりはないでしょう。法改正後、事実上現金支払いだけになるなど契約内容の設定や遂行にあわて、混乱が生じる公算が大きいですが、発注する大手企業の姿勢を正す狙いもあって的確に不法行為の摘発に手ぬかりはないはずです。

 落語の世界では江戸時代、年末の12月31日は大晦日にまで支払わなかった掛け売りや借金はちゃらになる騒動が面白おかしく語られています。令和の時代、そんな落とし話はありえません。笑うのは落語で十分。大企業の皆さん、大旦那らしく品格を正してちゃんとお金は払いましょう。

「倫理、倫理と令和の虫は鳴く」。お粗末様でした。

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