
禁酒法はアル・カポネ、トランプ関税は誰が大儲けする?
日米のトランプ関税が決着しました。日本に対する相互関税は通告時の25%から15%へ。鉄鋼・アルミニウム製品は50%のまま、米産コメは輸入拡大など大きな代償も支払いますが、対米輸出の大黒柱である乗用車の関税率は15%に。それでも高くて厚い貿易障壁ですが、冷静に眺めれば被害はかなり縮小。上乗せする関税15%分は直近の円安によって10%以上も相殺されます。急騰した東証株式市場の期待通り、日本経済の打撃は当初より抑えられそうです。
日本経済への打撃は軽微?
決着にホッとする余裕はありませんが、素朴な疑問が消えません。トランプ関税で誰が利益を得るのか。そもそも米国にとって恩恵をもたらすとは思えません。巨額の貿易赤字の元凶は世界中から優れた製品を輸入しているからです。
高関税によって輸入を抑える一方、国内生産の回帰と拡大で貿易赤字解消を目指す気持ちはわかりますが、世界中から最先端の技術を安価にかき集め、最強の経済力を生み出しているのも米国の現実です。トランプ関税で最大の損失を受けるのは米国ではないでしょうか。
なにしろ国内生産を拡大をしようにも当面は部品や素材の輸入に頼らざるを得ないですから、米国企業も部品高騰に苦しむのは確実です。国ごとに関税率が違いはあれど、国内の消費者物価も上昇します。米大統領が企業や消費者の首を締めるなんて可哀想、哀れです。
それでは日本は米国より窮地に立つのでしょうか。自動車はじめ対米輸出する場合、製品に課される15%の関税すべてを日本の輸出企業が負担するわけがありません。輸入業者、販売会社など米国の現地企業が25%のうち半分近くを負うはずです。単純な試算で失礼ですが、10%の円安効果、取引先による関税負担を考慮すれば、トランプ関税の負担はかなり分散、軽減されます。
皮肉にもトランプ関税の一部を米国企業が負担するとしたら、これまた米国経済にとって新たな損失です。
禁酒法もトランプ関税も不合理な政策
トランプ関税は1920年代の禁酒法とダブって映ります。MAGA(偉大な米国を再び)を訴えながら、米国経済の復活にほど遠く、かつ誰にも利益をもたらせない不可思議な政策です。WTO(世界貿易機構)の存在が物語る通り、世界経済は関税戦争を繰り返しながらも自由貿易を堅持してきました。トランプ大統領が真逆の関税政策をかざして自由貿易を否定したとしても、世界経済の潮流を変えることはできません。誰もが疑問を持つ不合理な政策は長持ちするわけがないのです。
禁酒法は1920年から33年までアルコール飲料を禁止しました。キリスト教を中心にした保守層の政治的な力が成立したのです。なんとなくトランプ大統領の支持層と重なる気がします。
禁酒法を制定した気持ちもわからないではないです。過度なアルコールの摂取はケンカや犯罪に至ることもあり、社会秩序を乱す恐れがあるのは事実です。
ただ、紀元前のはるか昔から人類はアルコールを飲んできました。すでに世界最大の経済大国だった米国社会で禁酒が通用するわけがない。「火を見るよりも明らか」とはこういう時に使うのでしょう。
この禁酒法はシカゴのアル・カポネを生みます。法的な強制執行がなかったため、非合法的な地下酒場が拡散しました。人間本来の欲望を無理やりねじ込む不合理な政策は、人間の欲望につけ込む暗黒社会を膨張させます。アル・カポネは米国の奇妙な政策が作り出した暗黒社会のスターであり、時代の善と悪を象徴するトリックスターでした。
トリックスターが誕生?!
トランプ関税も禁酒法に肩を並べるぐらい理解不能な政策です。好き嫌いや思いつきのようにモグラたたきする関税が長続きするわけがありません。けれども、禁酒法時代と同様に混乱に乗じて登場するトランプ関税のトリックスターが登場するのではないでしょうか。
イーロン・マスクもその候補を想定した時もありましたが、ハズレのようです。ロシアとウクライナの停戦、イスラエルのガザ侵攻、米国のイラン核施設攻撃など国際政治がカプセルトイのガチャと化したなか、世界貿易もトランプ関税でガチャ化してしまいそうです。
新たなトリックスターは禁酒法時代の地下酒場と違い、トランプ関税が組み上げた貿易障壁を骨抜きにするヒラメキと創造力によって巨額のマネーを手にするはずです。暗号資産、人工知能によるVR(バーチャルリアリティ)などを駆使し、300年間の歴史をせせ笑うかのように新しい資本主義が誕生するのかもしれません。もちろん、反社会的なスターは許されません。日本から新たなヒーローの誕生を期待したい。