昭和の電源立地をいつまでも繰り返す 山口・上関に中間貯蔵施設

 昭和50年代に何度も取材した風景です。電力会社の原子力発電所の立地担当役員が建設予定地の町を訪ね、計画を申し入れます。町長はほとんど無表情で話を聞きます。電力会社と町はすでに事務方で調整済みですから、あくまでも儀式。町議会などの手続きを経て正式決定を待つだけ。電力会社は国が推進する原発政策を背負っています。町には電源立地関連の法で裏付けられた交付金が投入され、町は地域振興に費やします。あれから40年以上も経て、同じ儀式が再現されました。

「申し込み」という儀式

 8月2日、中国電力の大瀬戸聡常務らが山口県上関町役場を訪れ、西哲夫町長に説明しました。中国電は1980年代から上関町で原発の建設計画を進めていますが、現在は棚上げ状態。町を賛否で二分した原発建設計画が滞るため、地域振興を掲げる町は中国電に代替策を提示するよう求めていました。その答が原発の使用済み核燃料を一時保管する「中間貯蔵施設」の建設。福井県に中間貯蔵施設の県外移転を迫られる関西電力が加わり、まずは共同で地質調査します。

 上関町を訪れ、原発予定地などを見て回ったことがあります。町は人口2500人、65歳以上の高齢者が57%以上も占める典型的な地方自治体です。瀬戸内海の西にある長島、祝島などで構成され、漁業資源に恵まれた水産業が盛んで、おいしいトラフグが食べられる有名な旅館もあります。建設計画が立ち往生しているとはいえ、中国電など原発建設に関連した活動もあっていわゆる「原発マネー」は地元経済を支えていました。北陸の能登半島、若狭湾、青森県の下北半島で見かける風景と同じです。

原発政策は巨額の交付金に支えられ

 日本の原発政策の根幹は電源三法を軸にした地域振興策です。原発が集中立地する福島県、福井県、青森県などは過疎地域の活性化を名目に巨額の交付金が支払われてきました。上関町が候補地となった中間貯蔵施設の場合も、建設調査が始まった年から継続的に億単位の資金が支払われ、施設の完成後はさらに上乗せされます。農水産業以外に産業がほとんどなく、財政規模が小さい町や村にとって貴重な財源であるのは間違いありません。

 全国の原発立地地域を取材で回りました。巨額の交付金を使って新たな地域振興を創造するのは難しいと痛感しています。億単位の交付金は地域にとって大きな助けになるものの、新たな企業誘致や産業創造を保証するものではありません。むしろ、地方で発電した電気を大都市圏に送り込む構図を固定化させ、地方に本来なら必要ない不協和音・対立を引き起こすだけ。その代償として巨額の交付金が支払われると見るべきなのかもしれませんが、それが猛烈なスピードで進む高齢化などの過疎問題を解決する適切な処方箋といえるのでしょうか。政策の貧困を示すだけです。

下北半島は変わったか

 下北半島の六カ所村を見てください。今回の中間貯蔵施設計画の引き金となった核燃料の再処理工場の建設が進められています。日本原燃が1993年から2兆円を超える資金を投入していますが、まだ完成の目処が立っていません。下北半島では原発以外でも巨大プロジェクトが立ち上げられましたが、地域振興の効果はどのくらいあったのでしょうか。「大間のマグロ」は大きなブランドとなりましたが、漁師さんの努力の賜物です。交付金を頼りにする自治体運営から脱却する難しさが浮き彫りになるはずです。

 電源三法を軸にした交付金を「原発マネー」と呼ぶのは好きではありません。原発そのものに悪いイメージを与えています。原発はしっかり建設、運転すれば地域にも貢献できます。それができていないから国民の不安が募るのです。

 国もそろそろ新たな原発政策を立案したらどうでしょう。昭和から延々と継承する「古い原発政策」をリサイクルする知恵と勇気はないのでしょうか。大都会が消費する電気を生み出すために、地方が大きな痛みを受ける。うんざりです。上関町民が再び賛成・反対に分かれ、新たな争いが生まれる風景はもう見たくありません。

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