
高級ミニバンの先駆「エルグランド」日産がトヨタに勝てない訳 初代はヒット、その後は・・・
日産自動車が「エルグランド」を全面改良します。1997年に初代モデルが発売され、今大人気の高級ミニバンの先駆けと呼ばれていますが、今回のモデルチェンジはなんと16年ぶり。新車市場ではトヨタ自動車の「アルファード」「ヴェルファイア」が大ヒット中。日産が時代を先取りするコンセプトカーを創り上げ、需要が育った頃にトヨタが奪い取る。1960年代から繰り返された図式ですが、それがトヨタを世界一のメーカーに押し上げる一方、日産を経営の窮地に追い込む主因となりました。
初代は走る高級ミニバン
「へえ、ワンボックスの実用車じゃないんだ」。1997年5月に発売した初代エルグランドを見た時の印象を覚えています。車名は「キャラバンエルグランド」「ホーミーエルグランド」。社内空間が広く座席数が多い箱型のワンボックスワゴン車「キャラバン」のイメージを思い浮かべていたので、意外感がありました。
すでにヒットしていたホンダ「オデッセイ」、トヨタ「エスティマ」とも違います。3000CCを超えるV型6気筒エンジンを搭載し、インテリアもちょっと高級そう。価格は諸経費を合わせれば400万円を超えたはずです。走行性能は頭抜けていました。99年に追加したスポーツ仕様「ハイウェイスター」で一層、「走り屋」のイメージが増幅。高速道路で隣の車線を走り抜けるエルグランドをみると、ドライバーが熱くなって暴走するワンボックスカーに映った時もありましたが、車好きの心を鷲掴みしました。
大ヒットしました。月販1万5000台を記録したこともあるのですから、凄い!。1990年代後半は新車の主役がセダンからワンボックワゴンなど多目的車に移っている時です。「多人数で乗れるワンボックスタイプの車でも、セダン並みにガンガン走る車が欲しい」という需要が育っていたのでしょう。高級ミニバンとの呼称が相応しいのか疑問ですが、車体がデカくても高級車の気分も味わえるクルマでした。
もっとも、エルグランドは自縄自縛になってしまったようでした。ハイウェイスターのイメージが強すぎて、高級ミニバンの路線から脱線した気がします。2010年に全面改良した現在の3代目は累計約12万台を販売したそうですが、単純計算すれば月販600台超。尻すぼみです。
トヨタの「アルファード」に追い抜かれる
高級ミニバンの需要が消えたわけではありません。むしろ、急拡大しています。トヨタの「アルファード」「ヴェルファイヤ」は大ヒット中です。今では大企業の社長が乗る「社長車」として使われています。人気は過熱しています。公正取引委員会がトヨタ系列ディーラーに対し「アルファード」「ヴィルファイヤ」と共に自社のサービス購入を客に求める「抱き合わせ販売」を止めるよう警告を発するほどです。
日本の新車市場はトヨタと日産がリードして育て上げてきましたが、あるパータンを見出すことができます。まず日産が時代を先取りする魅力的な新車を発表して消費者の注目を集め、ヒットを飛ばす。トヨタは日産のヒットを見て追随し、日産とトヨタが共に競い合って新しい需要を創造するのです。残念ことに日産は初代モデルを大ヒットさせるのですが、2代目、3代目とモデルチェンジを重ねるたびに販売不振に陥ります。一方、トヨタは日産とは逆にモデルチェンジのたびに磨きをかけ、自慢の強力な系列販売網で売り上げを伸ばしていきます。勝者はいつもトヨタ。
日産は優れた技術者を抱え、素晴らしいクルマを世に送り出してきました。1960年代から振り返っても、サニー、セドリック、スカイライン、シーマ、Be-1・・・。車名を思い浮かべるだけで時代の空気がよみがえってきます。でも、モデルチェンジが下手でした。
モデルチェンジのたびに売れなくなる悪癖
日産の技術者が嘆いていました。「新車のクレイモデルを役員が集まる会議に提示すると、いろんな意見が出て、最後は姿形が違うクレイモデルになってしまう」。多くの人間が口出しして素晴らしいアイデアを凡庸にしてしまうのです。
日産の悪癖は1999年にルノーと資本提携してカルロス・ゴーンが経営の実権を握ってから顕著になりました。収益力を回復するためとはいえ、新車の技術投資を抑制する一方、目先の販売台数を稼ぐ新車開発へ向かいます。帳尻合わせの新車は、たとえ話題になったとしても息が続きません。
2025年3月期に過去最大の赤字に転落した日産から「売るクルマがない」と嘆く声が聞こえてきました。当然です。高級ミニバンの先駆「エルグランド」を16年ぶりにモデルチェンジしたとしても、お客さんはすでにトヨタに握られています。「遅すぎる」という言葉は当てはまりません。「もう無理」です。日産は息を吹き返すことができるのでしょうか。
◆ 写真は日産のホームページから引用しました。