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CATV、テレ東、NHK 「再放送当たり前」が問うテレビの未来

 テレビで「再放送」が当たり前の時代が訪れるのでしょうか。ネットメディアでは以前に流れたニュースが最新の情報として偽ったり、あるいは生成AIなどで制作された映像が拡散、フェイクニュースへの注視喚起が盛んに行われています。テレビでも時間と事実が混在し、視聴する映像が現在なのか過去なのか、あるいはフィクションか。これが不明になってしまったら、メディアの信頼はさらに揺らいでしまい、私たちは何を信じて今を考え、判断することになるのでしょうか。

信頼するメディアはどこへ

 最近のNHKはもう再放送番組ばかり。BS(衛星放送)の番組欄を見てください。大谷翔平で高い視聴率を集めるMLBをライブ中継するほかは、過去の番組の再放送が大半を占めています。地上波もどんどん似てきました。総合、Eテレともに過去に視聴した番組が復活、日を置いて何度もループされて始めています。NHKはネットでチェックとQRコードを映し出して、見逃し配信の利用を呼びかけていますが、ちょっと我慢すれば地上波でもテレビ番組に再掲される場合が多く、ネットを使わずとも「しまったあ!見逃した」と悔しがる番組はかなり少ないはず。

 NHKは国民から受信料を取る有料放送です。地上波は月額1100円、衛星放送は1950円をそれぞれ徴収しますから、2つのチャンネルを視聴すれば単純計算で3050円。毎月3000円を超える金額を支払って、過去のテレビ番組を再放送で2度見するとは自分はなんてお人好しなんだろうと褒めてやりたいぐらい。

BS、Eテレのテレビ欄は(再)が並ぶ

 もちろん、NHKは最新ニュースを流し、地震や津波など災害情報を適宜、伝えています。公共放送としての役割を果たしていますが、SNSやYouTubeなどで最新の情報として拡散している時代だからこそ、NHKが放送・配信するコンテンツの品質に期待を寄せるのは当然です。

 再放送が増える理由は理解しています。受信料を値下げする原資を確保するため、制作費など経営全体の経費削減に努めているのも知っています。貴重な受信料を最大限に生かすためにもテレビやネットに放送・配信するコンテンツについてもっと議論する機会は増えて良いはずです。

 長年、新聞社で取材、記事を書いていたせいか、メディアとは最新の情報を掲載するのが宿命だと考えていました。新しい事実を聞き、それを深掘りする取材を加えて読者に伝える。「新聞」の文字通り、仕事をすることに疑問を持ちませんでした。しかし、新聞はテレビやネットにメディアの主役を奪われ、部数減少が止まりません。新しいニュースを取材し、伝える力が落ちているのも事実です。

 テレビの世界でも衰退の影が迫っています。

 まずケーブルテレビ(CATV)。は毎日、映画、テレビ番組や音楽のコンテンツを再放送する無限ループがビジネルモデルです。10年以上も前、CATVでの人気ランキングをみると「水戸黄門」や「吉田類の居酒屋放浪記」などが上位を占めます。新しいコンテンツよりも視聴者が見たいコンテンツが常に流れていることが最優先され、それがお金になるのです。

 そのCATVはNetflixなど有料のネット配信に吹き飛ばされる寸前です。Netflixやアマゾン、ディズニーは自社制作のコンテンツが目玉ですが、日本のCATVはNHK、民放各社はじめ経済ニュース専門、音楽専門、パチンコ・麻雀など娯楽専門のテレビ局からコンテンツを買い上げて放送しています。ネット配信も繰り返し視聴できますが、再放送で使い古したコンテンツの寄せ集めではありません。若い世代を中心に欲しいコンテンツを探り、巨額の制作費を投じて世界的ヒットをかっ飛ばします。

制作費がないので再放送するしかない

 CATVで始まっている衰退の波は民放にも押し寄せています。テレビ東京。日本テレビなどと比べ制作費が少なく、局内では「お金が無い時は頭を使え」の合言葉がこだまします。アニメと経済ニュース、他局にはない独自のバラエティー番組がテレビ東京の強さといわれますが、収益を生み出す経営は人気番組の再放送の無限ループ。CATVと変わりません。

 かつて深夜帯で放送ギリギリの番組を流して話題を集めていましたが、ここ数年はドラマに力を入れています。視聴率狙いというよりは、ネット配信や他の民放系列への番組売却を想定しています。テレビのグルメ番組のスタンダードとなっている「孤独のグルメ」はその典型です。

 再放送が多いといってもNHKやCATVと違いって視聴料を支払っているわけではありませんし、「まあ、テレビ東京だから・・・」と視聴者から許されるテレビ局です。良くも悪くも別格でした。

 もっとも、民放の再放送はテレビ東京の得意芸ではなくなりました。高い視聴率で日本テレビを抜くテレビ朝日は、「相棒」「科捜研の女」などの再放送で稼いでいます。中居正広性加害問題で経営の屋台骨が揺らぐフジテレビは、もともと制作力が衰退していたうえ、広告収入の低下で制作費が不足した結果、名作シリーズ「北の国から」の再放送を開始します。

 残念ながら、テレビは新聞に続いて衰退するのでしょう。若い世代がネット配信に流れる傾向は広がり、テレビ視聴の主体は高年齢層です。これは米国でも同じです。

 テレビ東京、テレビ朝日の再放送の視聴率を見れば分かる通り、新しく制作したコンテンツじゃなくても、視聴率を取れるのも事実です。テレビ広告の収入は低下し続けており、わざわざ制作費を使ってコンテンツを増やすよりも、過去の放送コンテンツを利用した方が経営の収益にはプラスです。金がないから再放送が増える。民放すべてがテレビ東京、NHKと同じ道を歩むのでしょうか。

 繰り返される「再放送当たり前」は衰退に向かうテレビの未来を投射しているのです。いつの日か「昔、テレビは最も人気の高いメディアだった」と懐かしむ番組を再放送で繰り返し視聴する日が訪れるのでしょう。CATV、テレビ東京、NHK・・・と他のテレビ局が続いた時、NHKは人気番組「映像の世紀」でメディアの過去と未来をどう描くのか。

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