
デンソー、ローム買収提案 トヨタ系列を超え「日本のデンソー」をめざして
デンソーが半導体大手のロームに買収提案しました。両社は2025年5月、自動運転などデジタル技術をフル装備する次世代車の開発で協業することで合意。デンソーはすでにローム株を約5%保有していますが、さらに踏み込んでロームを傘下に収め、電流や電圧を制御するパワー半導体の安定的な供給を盤石に築くのが狙いです。
1兆円超の買収に
ちょうど1年前の2025年3月、「デンソー EV半導体を加速 エヌビディアを追い、系列と自動車部品の殻を破って!」をサイトに投稿しました。世界の半導体を先導するエヌビディアと比較すること自体、大げさと思われるかもしれません。でも、自動車を基幹産業する日本経済が再び世界で勝負するためにはデンソーが大きく変身する必要があると考えています。
デンソーにとってロームは未来図を描く重要なピースでした。半導体事業は1980年代から取り組んでいましたが、あくまでも自動車の電装品の延長線上。
しかし、電気自動車(EV)への移行に伴い、自動運転などクルマのデジタル化が急加速。人工知能(AI)やネットによってクルマの性能が進化するのが当たり前の時代を迎えています。
世界一の自動車部品メーカーの独ボッシュは半導体の開発・生産を加速しており、デンソーも複数の電子回路を1つの半導体チップ上に集積する車載用システム・オン・チップ(SoC)と呼ぶ半導体に注力。台湾TSMCが熊本県で進める半導体工場にも参画、生産体制の拡充を急いでいました。
ロームはEVなど自動車向け部品として需要が拡大するSiCパワー半導体などが売上高の半分を占めており、ここ数年は生産能力も増強しています。元々、世界の半導体メーカーと違い、顧客の要望に合わせたカスタム半導体に強いうえ、東芝とも協業関係を築き、独自の技術を結集した半導体は世界から高い評価を集めています。当然、電装品で高いシェアを握るデンソーにとっては欠くことができないパートナーでした。
ところが、中国系の半導体メーカーによる安値攻勢によって、ロームの2025年3月期は最終損益が500億円の赤字にとなっています。しかも、東芝との協業関係は今後、デンソーが注力する自動車向け半導体の開発・生産で大きな支障となるのは確実でした。
ロームは将来への重要なピース
自動車などモビリティ社会のインフラを支えると自負するデンソーがロームを失うわけにはいきません。自動車向け半導体の重要な供給源を確保するとともに、東芝に取り込まれる前に急いで傘下に収る必要がありました。
資本力には心配ありません。世界一の自動車メーカーであるトヨタを支えるデンソーですから、1兆円を超える買収でロームを手に入れても経営が揺らぐことはありません。トヨタも将来のEV戦略を考えれば、系列の筆頭であるデンソーを強力に後押しします。
デンソーの将来は盤石に映ります。ただ、それだけでは物足りません。トヨタ系列といっても、かつてのデンソーはトヨタ本体とは一線を画す独立意識が強く、系列に安易に頼らず時にはトヨタの意向に反してでも研究開発に注力、業容拡大を決断するのが真骨頂でした。1980年代の半導体進出がまさにその代表例です。
系列の枠を超える経営判断こそ、デンソーを独ボッシュに次ぐ世界第2位の自動車部品メーカーに躍り出る原動力だったのです。
まして日本の基幹産業の自動車は大きな転換期に突入しています。EV、人工知能、ネットなどを包含するデジタル技術と半導体を組み込んだ最先端の部品を駆使し、近未来のモビリティ社会をどう現出するのか。日本の自動車産業が世界で引き続き主導できるか。今、問われているのです。
デンソーに日本の自動車部品がこれから進む道筋を切り拓いてほしい。そうです、「日本のデンソー」になってほしいのです。元々の社名。日本電装に戻るのかのかと勘違いするかもしれませんが、意味合いは全く異なります。
日本の自動車部品を変革する
日本の自動車産業は、トヨタに限らず日産自動車やホンダなど完成車メーカーを頂きに数えきれないほどの部品メーカーが支えるピラミッド構造で出来上がっています。例えば、トヨタと取引する部品・下請け企業は7万社近くもあります。トヨタがどんなに旗を振っても、自動車部品メーカーが動かなければ、素晴らしい自動車は完成しません。デンソーは部品メーカーの頂点に立つ企業として産業ピラミッドを再構築するのです。
EVの普及は自動車の産業ピラミッドを打ち崩します。最先端の電子制御が導入され、運転もインターネットやカメラで得られる位置情報や周囲の状況に合わせて人工知能が操作する自動化に向かいます。高度化するEVに適した半導体を設計するには自動車を知り尽くしたデンソーが深く関与しなければ、「痒いところに手が届かない製品」になってしまう恐れがあります。
トヨタは「石橋を叩いて渡る」といわれるほど堅実な戦略を進めてきましたが、デンソーは「石橋を叩き壊して、それから渡る」とトヨタを上回る頑固な会社でした。日本の自動車の産業ピラミッドを一度叩き壊して、新たに再構築してみてください。デンソーならできるはずです。

