• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

ディスコの関家一馬社長 エヌビディア、メタと並ぶ世界の経営者に

 外国人に褒められて喜ぶのは典型的な日本の評価基準。明治からの慣わしです。心底、嫌いです。でも、今回だけはうれしい。ディスコの関家一馬さんが世界の表舞台で評価された記事だけはちょっと宗旨変えすることにしました

 英紙「エコノミスト」が2023年で注目すべき経営者5人を選びました。1943年に創刊され、世界の政治経済に与える影響力を放つジャーナリズムを自負する新聞です。独自の視点で経済を切り取ることでも知られており、例えば世界のマクドナルドの価格で購買力平価を測る「ビッグマック指数」などを創案しています。いろんな論点を提示するので、愛読しています。

エコノミストが2023年ベストの経営者5人を選ぶ

 そのエコノミストが「2023年のベストCEO」として絞り込んだ5人に半導体の切削加工メーカー、ディスコの関家一馬さん(社長兼最高経営責任者)が選ばれました。残る4人は医薬品メーカー・イーライ・リリーのデビッド・リックス、ブラジルの金融機関ヌバンクのデビッド・ヴェレス・オソルノ、「フェイスブック」創業者でもあるメタのマーク・ザッカーバーグ、半導体メーカーのエヌビディアのジェンセン・フアンの4氏です。

 この5人を独自の視点から経営手腕を分析し、最も優秀な経営者としてエヌビディアのファンさんを選びました。今最も注目を浴びている人工知能向け半導体でシェア80%を握る会社で、開発から経営全般までを指揮する人物です。エコノミストによると、従業員の98%が支持しているそうです。誰もが納得の1位でしょう。

ディスコを切削加工のフロンティアに

 関家さんに対する評価は「ディスコの研究開発部門も指揮しながら、長年にわたって半導体の切削・研削のフロンティアとして会社を成長させてきた」というものです。イーライ・リーリーの医薬品、メタのSNS、エヌビディアの人工知能などは専門外の人でも常に話題の中心になる業種ですが、この4社に比べてディスコの事業内容はシリコンウエハーなど半導体関連の切削・検索などが主軸で、製造業を下支えする地味めの役割。それでも話題性に目を惑わされずにディスコの素晴らしさを見逃さないエコノミストの視点はさすがです。ディスコがエヌビディアに勝つかどうかはどうでも良いのですが、並び比較されるだけの事実がとても面白い。

 企業の実力に遜色はありません。半導体の切断・研削装置で世界シェアの7割を握り、2023年3月期決算は売上高が2841億円、営業利益は1104億円。営業利益率は38・9%。すごい数字です。いずれも過去最高を記録しました。配当性向は39.88%。2年前の21年3月期は62・36%ですから、こちらも再び凄いの一言。

「現場が楽しみながら進化」が持論

 もう20年以上も前に関家さんを取材したことがあります。創業の地である広島県呉市の工場現場でインタビューしました。関家さんが強調したのは、祖業である砥石が生み出す切削と研削をいかに”研磨”させるか。「そのアイデアや作業の進化は、現場から生まれ、進化していく」と話します。

 1980年代、日本の製造業の強さの源と言われたTQC(全社的品質管理)というイメージではありません。「従業員のみんなが面白いと思いついたアイデアを作業や事業にどう反映させるか。そこまでやってもらいます。ウチはパートさんも含めて現場を盛り上げてもらわないと工場は動きませんから」とにこやかに笑って説明します。

 早速、現場の皆さんに関家さんの考えを尋ねたら、「自分たちがやろうと思うことをやらしてくれる。やった分だけ給料が増える。そりゃ楽しいよね」と異口同音に、そして屈託なく話します。

社内通貨で個人のやる気を引き出す

 当時の関家さんは取締役。創業家出身ですから近い将来、社長の座に就くのは確実です。しかし、語る口調には気負いがなく、「楽しく働かなくちゃ」という思いを体全体で発散させていました。その後の経営は、まさに有言実行でした

 好例は社内通貨「Will(ウィル)」を使う経営手法でしょう。すべての仕事に「ウィル」を単位にした価格が設定され、従業員は自分が取り組みたい業務を選ぶ際に支払います。見事完遂すれば、今度は報酬としてウィルを受け取ります。仕事を他の従業員に頼む時にウィルを支払うこともありす。アイデアとやる気で自分自身の仕事内容を進化させ、結果的に会社全体の業務が効率化、収益力が高まる仕組みです。社内のやり取りで貯めた自分の「ウィル」は、ボーナスで報酬に反映されるので、手応えも感じます。従業員が「ウィルを稼ぐ」過程を通じて、経営変革が自然に大きな流れとなって広がるわけです。

平均年収は1000万超で業界トップ

 一人ひとりのやる気は年収にはっきりと反映されています。ディスコの平均年収は1140万円。国内の上場企業の平均年収は614万円ですから、倍近い水準です。上場企業で比べても年収ランキングは全体で65位、機械産業で1位となっています。気持ち良いですよね。

 冒頭の写真はディスコの製品ではありません。砥石です。精緻に削り込む性能が問われる製品ですが、その一点を極めると世界一の座を占め、今もっとも注目を浴びている半導体メーカーと肩を並べることができるのです。20年以上も前に取材して以来、惚れ込んでいるディスコが今、飛ぶ鳥を落とす勢いのエヌビディアと肩を並べる。日本の製造業の潜在力にまだ期待できる証左です。心底、うれしい。

関連記事一覧

PAGE TOP