• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

EVを待ち構える液晶の亡霊 シャープが堺工場を停止、中国などの低価格攻勢に屈す

 「歴史は繰り返す」の至言の通り、産業史でも既視感のある風景を幾度も見ます。世界トップの座に立った日本製品は、韓国、台湾のメーカーに追撃され、最後は中国勢の低価格攻勢で陥落する。鉄鋼製品、造船、半導体と数え始めたら、止まりません。液晶パネルもついに世界の舞台から消えます。次はEV(電気自動車)でしょうか。もっとも、日本のEVは世界の舞台に立つ前に中国勢に圧倒されています。日本の製造業の衰退の予兆でしょうか。

2年連続の赤字から脱せず

 シャープがテレビ用大型パネルを生産してきた堺工場を秋までに停止する方針を明らかにしました。工場を運営する子会社は中国メーカーなどとの価格競争で採算が悪化しており、赤字を垂れ流し状態。親会社のシャープも2年連続で純損益が赤字となり、液晶パネルの生産継続は難しいと判断しました。堺工場は国内で唯一テレビ向け液晶パネルを生産していましたから、生産停止により液晶の国内生産はゼロになってしまいます。

「20世紀に、置いてゆくもの。21世紀に、持ってゆくもの。」2000年1月1日、シャープは女優の吉永小百合さんを起用した広告で風呂敷に包んだブラウン管テレビと液晶テレビを並べ、「21世紀は液晶テレビの時代」と宣言。21世紀の始まりである2001年1月1日、シャープは「AQUOS」を発売しました。

21世紀はシャープの液晶で幕開け

 2000年当時のテレビはブラウン管テレビがほとんどで、液晶テレビは全体の4%。「壁掛けテレビ」と称され、まだ近未来の家電と思われていました。テレビの王者はソニーのブラウン管テレビ「トリニトロン」。シャープは、ソニーを王者の座から引きずり堕す覚悟で液晶テレビにいち早く全面転換し、大成功を収めました。

 液晶パネルの品質は他社を圧倒していました。パナソニック、ソニーなど日本勢、半導体に続く主力製品として積極投資する韓国のサムスン電子など韓国勢は後塵を拝するしかありませんでした。シャープが液晶パネルを生産する三重県の亀山工場は、地名そのものがブランドとして注目を集めたほどです。

 堺工場は液晶で世界を制するシャープが亀山工場を上回る最先端工場として、2009年に約4300億円を投じて建設されました。液晶パネルの品質は高い評価を集めていました。しかし、韓国、台湾の価格攻勢に利益は出ません。シャープ本体は窮地に追い込まれ、結局は台湾の鴻海精密工業が傘下に入ります。赤字の主因である液晶パネルの価格下落は、韓国や台湾に中国製パネルが加わり、値崩れが止まりません。鴻海精密工業といえでも、シャープを存続させるためには赤字を垂れ流す液晶事業を停止する判断を選ばらざるえないでしょう。

EVは中国製がすでに低価格で席巻

 液晶の惨状は数年後のEV市場の予兆でしょうか。中国最大手のBYDは欧米メーカーが追随できない低価格のEVを投入し、世界を席巻しています。2023年まで世界トップだった米テスラをしのぐ勢いです。世界最大の自動車市場である中国では政府が後押しするEVの販売が主流となり、EVで出遅れている日本車は駆逐される寸前。

 低価格競争の激化は加速しそうです。携帯電話や家電など総合電機メーカーのシャオミは、BYDと競合できる割安なEVを発売し、「今後15〜20年で世界5位以内の自動車メーカーになるのが目標」と決意表明しています。EVの普及は始まったばかりです。本来なら技術力、ブランドやデザインなど商品価値が定まり、市場の裾野が広がっていきます。ところが、中国製EVの低価格攻勢で薄利多売を強いられ、利益を度外視して市場シェア拡大を最優先する競争状態に突入しているようです。いわゆる安売り合戦が当たり前となるコモディティ化です。

産業史は繰り返されるのか

 1980年代から日本の製造業の栄枯盛衰を眺めてきました。世界市場の過半を超える半導体シェアを握っていた日本勢は、韓国、台湾、そして中国に追い抜かれ、今や台湾のTSMC頼みで復活にかけています。テレビもソニーが世界トップレベルの画質を再現するブラウン管「トリニトロン」で優れた製品力を誇示し、次代の液晶でもシャープが世界企業に躍り出ました。しかし、いつも日本製品が市場から脱落する結末が待っています。シャープの堺工場の生産中止は、産業史を振り返れば当然の帰結かもしれません。理屈でわかっていても、とても寂しい。

 これから市場創造されるEVで再現されることがないよう祈るしかありません。

関連記事一覧

PAGE TOP