
日野+三菱=中途半端な経営統合 帳尻合わせでは生き残れない
トラックメーカーはどう生き残るのか。この半世紀を振り返ると、高馬力と耐久を兼ね備えた大型エンジンが分厚く高い障壁となって新興勢力の参入を拒み、米欧、日本のトラックメーカーが世界市場を主導してきました。
しかし、経営環境はがらりと変わり、待ち構える経営課題は多彩。脱炭素、電気自動車(EV)、自動運転、物流革命などプラス材料とマイナスの材料が混在します。巨額の開発投資を工面しながら、安値攻勢で伸びる中国勢などと闘わなくてはいけません。自ら経営をどう革新するのか。勇気と覚悟が問われています。
問われる勇気と覚悟
三菱ふそうトラック・バスと日野自動車は2026年4月の経営統合に向けて体制を発表しました。両社が傘下に入る持ち株会社の名は「ARCHION(アーチオン)」。弓状の構造物を意味する「ARCH」と、過去から未来に続く様子を意味する「EON(ION)」を組み合わせたそうです。輸送の未来を創造し、次世代に向けて継承する意欲を示しました。
日野の親会社トヨタ自動車、三菱ふそうの親会社ダイムラートラックは持ち株会社「アーチオン」に対しそれぞれ25%出資します。この結果、日野はトヨタ、三菱ふそうはダイムラートラックの連結対象から外れます。経営統合後、株式は上場する計画ですから、日野も三菱もそれぞれの親会社から自立することになります。
経営は三菱ふそうが主導
当然、経営統合の効果を引き出すため、経営改革が必須です。車両の基幹部品を共通化するほか、2028年末までに国内生産拠点を5工場から3工場に集約する計画です。日本最強の自動車工場といわれた日野の羽村工場(東京都羽村市)は閉鎖され、トヨタに売却します。三菱ふそうは中津工場(神奈川県愛川町)を閉鎖し、川崎製作所(川崎市)に統合します。
経営陣は三菱ふそうのカール・デッペン社長が最高経営責任者(CEO)、日野の小木曽聡社長は最高技術責任者(CTO)に就任します。経営統合はエンジンの不正試験で窮地に追い込まれた日野を救済するのが目的ですから、三菱ふそう、ダイムラートラックが主導する形になります。議決権もダイムラートラックが26・7%、トヨタが19・9%。日野を見捨てたトヨタですから、腰が引けています。
日野は三菱ふそうに比べ売上高で2倍、従業員で3倍も
もっとも、経営統合の実態は中途半端。トラックのブランドは日野、三菱ふそうをそのまま使用します。経営規模は日野が売上高1・7兆円、三菱ふそうが8000億円と倍以上も違います。従業員数も日野が3万人以上、三菱ふそうは1万人以上と3倍も違います。過去の販売実績、顧客数、営業網の実力を考えたら、日野が三菱ふそうを大きく上回ります。経営統合後、日野と三菱ふそうは一体化というよりは、並走する形になります。
果たして三菱ふそう、ダイムラートラックがリーダーシップを発揮できるのでしょうか。トラックメーカーは、EV、自動運転など最先端技術の開発が必須ですし、トラック運転手の不足で物流体制は大きく変わります。「船頭多くして船山登る」とはまでいいませんが、日野も三菱ふそうも過去の経営を引きずりながら、目の前に山積する経営課題を乗り越えることができるのでしょうか。
経営統合は足し算、引き算では成功しません。無駄な工場を省き、生産合理化の徹底で収益は維持できます。しかし、新しい会社の一体化、さらに化学反応が生まれなければ、生き残りがやっと。普通のトラックメーカーの座を守るのもやっと。
日野は依然、窮地のまま
裏返せば、窮地を逃れるために三菱ふそうとの経営統合を選んだはずなのに、日野自動車はまだまだ窮地に立ったまま。日本の自動車メーカーの中でも開発力、生産力で群を抜いてた日野は大好きで、尊敬していました。とても残念です。