
ホンダが消える50 EV投資を減速 中国勢に離され、欧米と共に「その他大勢」に仲間入り
ホンダが電気自動車(EV)戦略を減速します。2030年度を目標にした10年計画で基幹部品の電動化やソフトウエアに10兆円を投じる計画でしたが、7兆円でブレーキ。投資の軸は低迷するEVに代わって、好調に売れているハイブリッド車に移します。4輪車の事業収益が低迷するホンダです。目先の収益を重視した無難な経営判断ですが、それではEVで先行する中国勢に追いつくことができません。離されるだけです。近い将来、EV市場に本格参入した時、すでに中国がEV市場で握る主導権を奪い取ることができるのでしょうか。欧米やアジアのメーカーと中下位グループ「その他大勢」の渦中で競争したら、収益どころか消耗するだけです。
すでに主導権は中国に
ホンダの経営状況を考えたら、EV投資を縮小する選択しか残されていませんでした。2025年3月期決算をみてもわかる通り、4輪車部門は相変わらず、ため息が出る惨状です。売上高は4・9%増の14兆4678億円と伸びたものの、営業利益は56・5%減の2438億円と半減以下。営業利益は1・7%と2・4ポイントも低下。2023年3月期は赤字でした。ホンダの経営は販売、営業利益、利益率で過去最高を上げる2輪車部門の頑張りで息をついているのが現状です。
2040年にはEV・燃料電池への全面転換と理想を語っても、このままでは2040年まで生き残れるかどうか。4輪車部門が息を吹き返さなければ、ホンダの未来はない。その通り!。今やるべきことは国内外で好調な売れ行きをみせているハイブリッド車に注力して、とにかく営業利益を押し上げるしかないと考えたのでしょう。
それだけにハイブリッド車への期待は予想以上に過大です。世界販売は2030年度に220万台と現在より120万台も上乗せしました。100万台も超えるなんて、逆にホンダの窮状が浮き彫りになると思いませんか。
ちなみに、EV投資で先送りするのはカナダでの投資。EVの完成車工場とバッテリー生産工場に150億カナダドル(約1兆7000億円)を投じる計画でした。しかし、欧米でEVの販売不振が続き、2025年に入ってトランプ関税などで米国とカナダのサプライチェーン見直しが迫られています。計画した2028年操業を2年延期することにしました。
EVの代わりにハイブリッド車に注力
その代わり、ハイブリッド車の車種数を増やします。合わせて次世代のクルマに不可欠なソフトウエア開発も拡充します。EVも含め次世代車は人工知能を利用しながら、自動運転するのが当たり前になります。クルマの運転はもちろん、周囲の状況を瞬時に判断しながら安全に走行する能力を備えなければいけません。
もっとも、EVを先送りしてハイブリッド車、次世代車向けソフトウエアの開発に注力することは、欧米、中国、アジア各国のメーカーどこも取り組んでいることです。余計なお世話でしょうが、先送りした間に中国政府の後ろ盾を背にした中国勢が世界のEV市場を抑えてしまうのではないでしょうか。すでに新車や基幹部品の開発、コストダウンでは中国のEVメーカーがはるか前を走っています。
ホンダの勝利の方程式は熱狂
ホンダの勝利の方程式は、誰もが真似できない独創性と熱狂にあります。二輪車が世界一のシェアに上り詰めたのも、創業者の本田宗一郎氏の執念。日本製二輪車など勝てないと言われた英マン島レースでの優勝を夢見て、見事実現しました。四輪車の地位を獲得したのは環境対応エンジンCVCCの成功。1970年代、不可能と言われるほど厳しい排ガス規制を求めた米マスキー法を世界に先駆けてクリアしたことです。
誰もが不可能と言われたことを成し遂げる。ゴールに向かって狂気に近い熱い思いでホンダ全社が一丸となって突っ走る。残念ながら、EVにその熱さを感じません。優等生が着実に合格点を手にする安心感はありますが、「まさか」と息を飲む驚きはどこに。EVを巡っては元々、無理筋な日産自動車との経営統合を進め、予想通り頓挫しています。どうも足元がふらついています。今回のEV投資の減速にもホンダの危うさを改めて痛感します。