
ジャングリアとウーブンシティ 作り手が夢想に酔う「令和のバベルの塔」
ジャングリアとウーブンシティ。同列に並べることに違和感がありますか。沖縄北部に開場したテーマパークは恐竜など大自然を楽しむ大仕掛けが売り物。もう一方はトヨタ自動車の豊田章男会長肝入りの近未来都市。巨額投資を費やしたビッグプロジェクトです。どちらもまだ体験していませんが、それ逆手にとって冷静に眺めると、ともに作り手のプロジェクトへの思い入れが強過ぎて上滑りしている印象を受けます。むしろ、施設を利用する人たちが「無理してでも楽しまなきゃ」と神経を使うハメに・・・。「令和のバベルの塔」にならなければ良いですが。
バベルの塔は夢想の象徴
「ジャングリア沖縄」は大阪市のユニバーサル・スタジオ・ジャパンを再生させた腕前が高く評価されている森岡毅氏が手がけています。沖縄県今帰仁村と名護市の60ヘクタールに及ぶゴルフ場跡地に700億円を投じ、「ダイナソーサファリ」など恐竜と大自然を楽しむテーマパークです。
7月25日にオープンしましたが、評判は芳しくありません。巨大施設は当初、多くの観光客が一気に押し寄せますし、運営スタッフの不慣れなどが重なり、不満が噴出するのはよくあることです。勝負は平常運転に移行してからだと思いますが、不安材料は消えません。
まず最大の集客力である独創性は頭抜けているのか。SNSで炎上する辛辣な声を無視したとしても、プロジェクトの概要が明らかになった時点から魅力的な施設が少ないと感じました。「ダイナソーサファリ」など恐竜関連の施設をみても、国内外のテーマパークやイベントではお馴染みのメニューであり、新鮮味はありません。はるばる沖縄まで訪れる家族客を感動させる力があるでしょうか。
大自然を体験する施設はどうでしょうか。ジップライン「スカイフェニックス」など目新しさはありません。本州や北海道の中規模アウトドア施設と比べ新たな驚きはあるのか疑問です。大気球の飛行体験も用意されていますが、台風など天候が激しく変わる沖縄でどのくらい稼働できるのか。大気球がめった飛ばずに地上にある風景そのものが当たり前になってしまったら、テーマパークの施設そのものの評価が下がります。シンガポールのホテルにあるインフィニティプールをまねたスパも所詮、コピー&ペースト。
「成功間違いなし」が大前提に
プロジェクトを指揮した森岡毅氏の名声だけが際立ってしまい、「大成功間違いなし」の根拠なきアピールが独り歩きしてしまったのが裏目に出そうです。東京や大阪ならまだしも、沖縄まで高い交通費をかけて訪れるのです。大人気の「美ら海水族館」は雨でも楽しめますが、強風や雨、猛暑など大自然を味わうのが「売り」のジャングリアでは、運が悪ければ施設内の食事を楽しむだけで終わりとなったら、とても笑えません。旅費やホテル代などを含めたコストパフォーマンスを考えたら、観光客にとってリスクは大き過ぎます。
ウーブンシティも内情はそっくり。トヨタの豊田章男会長が自らプロデューサーとして推進しているだけに「成功間違いなし」が大前提。
なにしろ2020年1月、当時の豊田章男社長が米国で開催した世界的な技術イベントCESで発表した実験都市構想です。静岡県裾野市のトヨタの工場跡地70ヘクタールを使い、人工都市を建設し、新しいモビリティ(移動体)や生活インフラの実験します。
ウーブンシティとは英語のweave(織り込む)の過去分詞・形容詞で、多種多様な人間行動を最先端の技術と見識を織り込み、未来を具現化する挑戦への気概を示しています。「未来都市に人々が生活しながら自動運転やモビリティー・アズ・ア・サービス(MaaS、移動のサービス化)、スマートホームコネクテッド技術、AIなどの技術を実証する」と説明する豊田社長の熱い思いを受け止められますか。
CESでの発表から1年後には着工するスピード感、投資額が50億円などの事実を考えれば、トヨタが社運をかけたプロジェクトといって間違いなしでしょう。発案者が豊田会長なら、全体計画を指揮するウーブン・バイ・トヨタの副社長は、豊田会長の息子さん、大輔さんが就任しています。トヨタ、グループ企業のだれも抵抗できません。
まして世界一の自動車メーカーで日本を代表する製造業がここまで入れ込むのですから、実証実験に協力する企業も力が入ります。当初はトヨタグループやNTTなど7社でしたが、宇宙関連企業、製薬会社を含む19社に増えています。皮肉を言えば、まるでウーブンシティという祭りのお神輿を担いでるようにしか見えません。
実験都市は9月25日から動き出します。第1期エリア(約4万7000平方メートル)が完成し、360人が居住して実証実験が始まります。居住棟を含む14棟の建物ができあがり、自動配送ロボットが宅配サービスするほか、歩行者用や自動運転車用の道路、人流や交通量を計測して切り替わる信号が設置され、近未来の交通網を模索します。
都市には将来トヨタ系列の従業員を含む2000人以上が住民として暮らすそうです。もっとも、いずれもトヨタと深い取引関係がある企業や社員が関わるわけですから、社会実験としての客観性は担保できるのか疑問です。
人間を忘れた施設は価値がない
実験都市としての価値を期待できなければ、ジャングリアと同じエンターテイメントのテーマパークとそう変わりません。
ジャングリアもウーブンシティも夢を追いかけ、楽しい日常生活を実現しようと試みています。しかし、ボタンの掛け違いのように最も大事なものを見失っているのではないでしょうか。そこで楽しみ、暮らす人間の存在を忘れて、作り手、プロデューサーが夢想に酔って満足してもしょうがないのです。