大陽光発電は企業の再生エネになるのか 飲食の海帆がコロナ禍後の活路に選択
日本取引所グループのTDnet(適時情報開示システム)を眺めていたら、「海帆 太陽光発電所の取得に向けた基本合意書締結のお知らせ」という表題が目に入りました。海帆という会社名から海洋事業を手掛け、その延長線上で海上太陽光発電を検討しているのかと思い、表題をクリックしたら予想と全く違う内容が現れました。居酒屋など飲食を主力とする会社でした。
海帆の経営戦略の是非について書くつもりはありません。発表資料を読むうちに、カーボンニュートラル社会を支える太陽光発電など再生可能エネルギー事業が本来の趣旨を離れ、企業経営や金融商品などで利用されている「環境ビジネス」の現実を改めて考えさせられてしまいました。
TDnetで海帆を知る
海帆の発表資料の書き出しです。
飲食事業を中心に事業展開を進めてまいりましたが、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響から、事業全体の構造改革を進めてまいりました。その一環として、再生可能エネルギー事業を立ち上げ、現在は拡大の段階にあります。
「へえ〜、飲食業が新たな事業の柱として太陽光発電に挑むとは」。多くの人は素朴な疑問が湧くはずです。太陽光発電は脱炭素をめざすカーボンニュートラルの切り札の一つとして注目を浴びていましたが、日本では事業化に苦労する事例が相次いでいます。海帆はどんな飲食事業者なのか?なぜ飲食事業より再エネ事業の収益力に期待するのか。全く知らないので、同社のホームページを検索しました。
海帆は主力事業が居酒屋です。2003年に創業し、2015年4月に東証マザーズに株式上場しました。現在は東証グロースの上場企業です。発表資料によると、太陽光発電所の計画はすでに300カ所を超え、120カ所で建設しています。残る約200カ所は用地取得が進まず、今回基本合意したサステイナブルホールディングから太陽光発電所の用地を取得して、事業拡大に取り組む方針のようです。
コロナ禍で居酒屋は大打撃
太陽光発電を手掛ける事業目的は、ホームページで「世界的な課題である脱炭素・低炭素社会の実現や、飲食としての環境改善に寄与できる事業として、 再生可能エネルギー事業へ進出し、サステナブルな社会の実現を当社として果たしていきます」と説明しています。居酒屋など飲食事業との相乗効果を拡大することよりも、進展するカーボニュートラル社会での事業拡大に期待しているようです。
業績は厳しい経営環境にあります。直近の4期をみると、2020年3月期の売上高は39億7700万円、営業利益は4億6500万円の赤字をそれぞれ計上しました。コロナ禍の直撃を受けた21、22年の2年間は、売上高10億円を割り込み、2023年3月期で20億8700万円まで回復。同期の営業利益は6億円の赤字。2024年3月期は第3四半期までの結果をみると、売上高は前期を上回る勢いを取り戻していますが、営業利益はまだ赤字から抜け出せていません。
ホームページでは4月8日付で「当社に対する風説についてのお知らせ」を掲載しており、ネット上で飛び交う様々な情報について「このような事実は一切ございません」と否定しています。代表取締役社長は2021年から3回交代しています。業績の低迷、相次ぐ社長交代、飲食事業と無関係の太陽光発電事業の進出。経営の先行きを危うく考える投資家がいるのも不思議ではありません。
太陽光発電事業が弄ばれたら残念
太陽光発電事業は、カーボンニュートラルの実現だけでなく石油や天然ガスなど資源の大半を輸入する日本にとって欠くことができない重要なエネルギー源です。その将来性を期待して多くの企業が新規参入しており、事業を対象に新しい投資商品が設計され、販売する金融会社も増えています。
ただ、事業化は容易ではありません。安定した収益を確保するには長期間かかるうえ、日本は山地が多い自然環境もあって太陽光発電所の適地が少なくなり、今後の事業展開に新たな課題が指摘されています。
居酒屋などを事業とする東証グロース上場企業が、自らの浮上を太陽光発電事業にかける経営戦略を選びました。海帆が居酒屋など飲食事業からどう企業改革するのか。その勝算は全く不明です。太陽光発電事業の将来性は、目先の収益を保証しているものではありません。経営改革の途上にある上場企業が再生エネ事業に取り組むことが株価の材料として弄ばれることがあれば、再生エネなど環境関連ビジネスに対する評価にも影響します。万が一でも起こってしまえば、日本のカーボンニュートラルの取り組みに対しても不信感を招きかねません。とても残念なことになってしまいます。